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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第9章 鬼類、他校生と交流す
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虹ヶ原のお願い

「はい、姿勢を正して。礼!」

「ありがとうございましたっ!」

 武道場の壁に祀られた神棚に、怪我なく無事に稽古を終えられたことを感謝して授業が終わる。

「惜しかったね。シュンカのペースになってたのに」

 ユウトが僕の方を軽く叩きながら言う。

「うん。孫崎先生もうハラハラしちゃってさ、トイレを我慢してるのかと思ったよ」

「誰がトイレを我慢よ、失礼な」

 孫崎先生が顔を若干赤くしながら後ろから文句を言った。孫崎先生僕の方をポンと叩き、

「シュンカも強くなったもんだねぇ。あの虹ヶ原といい勝負するなんてね。先生、感慨深いよ。あの鈍臭い気弱な里のお坊ちゃんがねぇ。本当、教育って偉大だよ、うん。教師冥利に尽きるとはこのことなりーってか」

と褒めてくれてるのかからかわれてるのかよく分からない。

「他の生徒もちょっと感心してたよ。良かったじゃないシュンカ。一目とは言わないまでも半目は置いてもらえる感じになってきたじゃないの」

「いやぁ、ははー」

 照れ笑いで誤魔化しておくが、まぁ悪い気はしない。なんだかんだと言って、鬼門では今だに腕力が物を言うところがある。「鬼力が強い」「武が強い」といった点が評価されやすいのだ。平和な法治国家日本では喧嘩は誰も推奨しない。どちらかが怪我でもすれば傷害事件だ。でも鬼門ではみんなが決闘に浪漫を感じ、武を究めようとする者たちに憧憬を抱く。そもそも名鬼門と言われる鬼門の名家も、鬼力の強さがその根本にある。和人とは文化が違うのだ。

「シュンカ、ひょっとすると腕自慢の生徒たちが手合わせを持ちかけてくるかもしれない。でも簡単に受けちゃダメだよ?孫崎先生から許可あるまでは武道の授業以外で手合わせをしちゃいけないと厳命されてますって言えばいいから」

 僕は素直に「はい」答えておく。ミムラが横から口を出す。

「でもシュンカも強くなってるし。いろんな相手と戦うほうがいいと思うけどな」

 孫崎先生少し考えて、

「うーん、ミムラの言うことも分かるんだけど。何となくだけど、シュンカの目指すべき所はそこじゃない気がするんだよね。勝った負けたとか、強い弱いとか、そういうとこじゃない気がするの。目先の勝利とか、誰に勝ったとか、そういうのは結局小さな話でさ。あたしら鬼人はそこにこだわりがあって、それはそれでいいんだけど。シュンカが目指すべきなのは武道大会日本一とか、精錬鬼士団入団とか、そういうところじゃない気がするんだよね」

 この孫崎先生の言葉は僕の心に響いた。自分の心の中で、これまで整理のついていなかったことを言葉にしてもらった気がした。さすが、伊達に教師をやってないという感じ。孫崎先生に率直にお礼を言っておく。

 教室に戻ると何となく皆んなの視線が自分に集まるような気がするのは自惚れすぎ?気になって虹ヶ原さんを見ると、彼女は普段通り、机の上に本を広げて読書中。皆んなの雑談の輪に入ろうとはしない。周りも気を遣って誘わない。

 授業が終わる。終礼が終わり、部室に移動しようとした時だ。

「雨道君」

 虹ヶ原さんが僕の横に立っていた。

「ちょっと話があるの。この後部活だよね?」

「うん。でも全然平気。何かな?」

「歩きながら話していい?」

 虹ヶ原がちょっと困った顔をする。それも当然だろう。白金中の耳目が自分に集中しているのは明らかだ。

「もちろん」

 気を利かせて先に行こうとするミムラとユウトに、

「二人にも聞いて欲しいの」

 と虹ヶ原。僕ら四人は館を出て部室へと移動する。

「今日はありがとう。手合わせを受けてくれて」

「いや、こちらこそすごく良い経験になったよ。ほら、僕ユウトとミムラと孫崎先生以外の人と手合わせするの初めてだったから」

 虹ヶ原は少し自嘲的に笑う。

「あたしの負けだったよね?孫崎先生、すごく気を遣ってくれてー 本当は放っておいて欲しいんだけど」

「負けてないよ。僕は虹ヶ原さんをイライラさせただけ。本気の立ち合いならふっ飛ばされてるよ」

 虹ヶ原さんが「ふふ」と笑う。

「雨道君は奥床しいね。鬼人ぽくないし、里の留学生ぽくもない。面白い人だね、雨道君て」

「はは、そう?褒められたと思っておくよ。で、話って?」

 虹ヶ原さんは僕とユウト、ミムラの顔を順番に見ながら遠慮がちに言った。

「押し相撲、あたしもやらせてもらえないかと思って」


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