シュンカVS虹ヶ原
次の日。この日の武道の授業でも、虹ヶ原さんは自由組手の時間になると、僕ら甘味研究会のところへやって来た。
もう一度ミムラに挑戦するんだなって思ってたら意外にも、
「雨道君、お手合わせお願いできる?」
「えっ、僕ぅ!?い、いいの!?」
つい声が裏返ってしまった。すかさず孫崎先生が割って入ってくる。
「あー、虹ヶ原さん、シュンカは変な癖があるから。やると調子狂っちゃうから」
なんと失礼な。まぁ変な癖があるのは自覚してるけど。虹ヶ原さんはニッコリと笑って、
「大丈夫です。いろんな相手と手合わせしてみたいので」
まだなにか言いたそうな孫崎先生をミムラが、
「ほら先生、あたしらは二対一の練習しようよ」
と引き離す。
僕は虹ヶ原さんに、
「わざわざ僕とやるってことは、普段通りでいいんだよね?孫崎先生言うところの『何だか妙にやりづらいシュンカ』の戦い方でいいんだよね?」
虹ヶ原さんが頷く。
「それこそ望むところよ。よろしく」
僕らは向き合って一礼すると構える。昨日ほどでないものの白金の皆んながこちらに注目しているのが分かる。
実を言うと、僕はユウト、ミムラ、孫崎先生以外の人と手合わせするのは初めて。なにしろ最初の授業でミムラが虹ヶ原さんに勝って以来、孫崎先生は甘味研究会を他の生徒と戦わせようとしない。どうせ年が明けたら館の武道大会である新風奏上武会、通称「万華鏡風巻」があるのに。
僕は左足前のごく一般的な構え。虹ヶ原さんも同じだ。互いに右回りでゆっくり回る。
まずは小手調べとばかりに、僕は左手に鬼力を集め、そして突くー
「!?」
虹ヶ原さんが妙な表情で飛び退く。白金の皆から控えめなため息が漏れる。僕の鬼風の吹かせ方は独特。鬼力を込めた左手の突きと、鬼風の吹くタイミングが一致しない。一呼吸遅れて風がやってくるから相手は受けるのも避けるのも難しい。
虹ヶ原さん、僕の鬼力を受けた左足先を床でグリグリとマッサージする。お、いい感じだ。まぁまぁ効いたのかな。
さて、間を取って色々考えさせるのも手だけど、今日は相手に考えさせないよう先に先に仕掛けようか。
僕は前足の左足に鬼力を集め、わざと床をダンッと踏む。床に鬼力玉を残してそれをガードに使う。ガードの影から右の下段蹴りー
虹ヶ原さんが足に鬼力を満たして受けようとする。でも僕は鬼力を出さない。足を透明にして虹ヶ原さんの鬼力でガードされた右の脛に蹴りを入れる。
パンッー
小気味良い音がして、ほんの少し虹ヶ原さんの表情が歪む。僕は間を空けずにもう一度下段蹴り。虹ヶ原さんが反射的に鬼力で受けに来たところに、僕は自分の足から鬼力をスッと抜いて透明化。こうすると虹ヶ原さんの鬼力もすり抜けていく。再び虹ヶ原さんの足がパンッと鳴る。
鬼力勝負なら鬼力で受けてしまえばダメージはほとんどない。体を鬼力で満たしていれば突きや蹴りの威力も軽減できる。でも鬼類や僕のように鬼力を透過させてくる相手だと話は違ってくる。虹ヶ原さんは武道の基本もしっかりしてるからきちんと受けてくるけど、実体攻撃の受けは自身の体、骨と筋肉で受けるしかない。男女の身体的なパワーの差もあるから、これを続けられると虹ヶ原さんも結構嫌なはず。
ホゥー
声にならない声。白金の皆んながちょっと感心した雰囲気が伝わってくる。
鬼力では僕と虹ヶ原さんには雲泥の差がある。それでも僕が器用というか奇妙というか、独特の鬼力操作術で五分に渡り合っているからだ。
もちろん一番驚いているのは僕だ。孫崎先生相手にそこそこ戦えるようになって、僕も上達してるんだなって実感はあったけど、白金級長、モンスター鬼人の一人でもある虹ヶ原さんといい勝負ができるなんて。
よーし、なんなら勝ってやろうとか考えていると、
「はーい、止め〜 全員整列!」
孫崎先生の声が武道場に響いた。




