戦闘
「死ねえ!」
初めに注射器を持っていた男が殴りかかってくる。
大きく振りかぶったパンチはさすがの僕でも避けることが出来た。
体を左にずらし、ギリギリで避ける。
僕が体勢を崩したのを見逃さず、二人目が僕の鼻を狙ったパンチを繰り出す。
避けられないと確信した僕は眉間に力を入れる。
――瞬間。
全てが白黒に染まる。そして、何もかもの時が止まる。揺れる金髪、飛び散る涎、僕の体も全てが止まる。
能力、時間停止。数秒の間、時間を止める。
これが僕の能力。
しかし、この能力は欠点がある。
僕も動けなくなることだ。僕は、この止めた時の中を動くことが出来ない。
唯一動くのは視線、そして、思考だけ。
おっと、そろそろ時間だ。
三。
僕は、僕に殴りかかろうとしている男を見据える。
二。
僕の体の今の重心、動いている方向を考える。
一。
覚悟を決める。
零。
瞬間で色を取り戻す世界。
刹那でしゃがみ込み、そして、殴りかかってきた男の顎へと右手を突きだす。
ヒット。
飛び上がる力を利用した渾身のアッパーだ。男は数センチ飛び上がり、後ろに倒れる。そして動かなくなる。脳震盪でも起こしたのだろう。
「よしっ!」
後方で宮下先輩の歓声が上がる。
それと同時に金髪の三人から「嘘だろ……」と声が聞こえる。
僕は、小刻みに震えるほど痛い右手の拳を背中に隠し、何食わぬ顔で三人に言う。
「さあ、来て下さいよ」
男たちは動かなくなった仲間と僕の顔を交互に見て顔を歪める。
「く、クソがぁ!」
「チっ!」
「フウッフウッ!」
三人が狂ったように僕に向かって走る。
一人目を時を止め、受け流す。
そして、二人目、三人目の攻撃に対し、時を止めたところで僕は青くなった。
……逃げられない。
違う方向からの攻撃、たとえどちらかの攻撃を避けたとて片方にあたってしまう。
どうする? どうする? どうする?
そんな、パニックになっている俺を差し置いて時は迫ってくる。
三。
後ろに跳ぶ? 駄目だ、体制を崩し、反撃を食らってしまう。
二。
もう一度しゃがみ込む? これも駄目だ。これだって反撃を食らう。
一。
やばい。どうする?
考えがまとまらないままその時は来る。
零。
色を取り戻した男の拳が二つこちらへと飛来し、僕の顔面を捕え――。
「縛」
「やらせないよ」
宮下先輩と橋本先輩の声が聞こえる。
途端、男の一人は気を付けで硬直し、もう一人は何かに躓き、地面に倒れこむ。
その隙を逃さず、僕は硬直した男を殴り飛ばし、躓いた男の顔を蹴る。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
半狂乱になったの頃の一人が殴りかかってくる。否、これはもうパンチではない、殆ど体当たりだ。
それを時を止め、回避。
髪の毛を掴み顔面に膝蹴りをする。
「ふう……ふう……」
四人の男は地面に倒れこみ、動かなくなった。




