表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
re:gret  作者: 石阪カナタ
4/5

Re:4 レナ

「大阪、暑い?」

「今日は34℃だったかな、週末も多分暑いよ」

「あー、ここから戻りたくないよ」


そんな会話を電話でしながら、今週末帰ってくる妻と迎えの時間などを確認する。

まだ終わらない仕事を少し横に置き、自販機が並ぶ休憩スペースで僕は程なく家族との通話を終える。

長かった独身生活も終わり、今週末には家族は帰ってくる。

嬉しくもあり、少し寂しい気もする金曜の夜だ。


だが結局そんな感傷に長くは浸る暇も無く、日付が変わるギリギリまで仕事をこなし終電へ乗るため改札を走り抜けて電車に乗り込む。


金曜日の最終電車はあまり好きではない。

乗った人ならわかるだろうが、シラフの人間が乗れば間違いなく独特の匂いに気付くと思う。あの匂いが本当に嫌いだ。

だから極力金曜日は早く帰りたいのだが、自分に与えられる仕事量がそれを許してはくれない。


自分の仕事もだが、2人居る新人の指導とあまりの繁忙にウツで休んでいる上司の仕事。

それが今の自分に課せられた仕事量である。


新人2人は学生気分が抜けない大卒1年目男子と短大卒1年目のオトナシイ女の子。

女の子は物分りがよくコツを掴むのも上手い、褒めると少し照れて笑う。

問題は学生気分のクソガキだ、仕事は雑、飲み込みもイマイチ、挙句に国立出身だからと短大卒の女の子を下に見ている。

休んでいる上司の休み始めた原因の一端にコイツのことで神経を使ったのではないかと思うレベルである。

それでも、直属の課長からは「新見君が半年で使えないと判断するなら、地方支店の現場に飛ばす」そう告げられてはいるが、本音を言うと今すぐ飛ばしていただきたいぐらいだ。

実際「使えない」という判断はもう下してはいる、自分はこの会社に採用されたのだからという今の態度では邪魔なだけなのである。

しかしながら、採用半年は試用期間みたいなもので、警察のお世話になるようなことが無い限り、そういう人事を行うことは中々厳しいらしい。

とりあえず残り1ヶ月強、仕事上では大きなトラブルを起こさせないよう適度に仕事をさせることにしよう。


そんなことを考えているうちに、電車は最寄り駅のホームに滑り込んでいった。

改札を抜け、コンビニで野菜ジュースを手に取る。

この時間に夕飯を食べる気はしないが、せめて何か口にしておこうという自分なりの身体のケアだ。

実際にそれで充分なのかと身体に問えば、着実に体重が落ちているので充分でないと理解はしていた。


紙パックを片手にレジへ向かう途中、欲を刺激する女性が表紙で笑っている雑誌が目に入り僕を刺激する。手に取りはしないが、横目で気にするぐらいには余裕があるようだ。

自分の心の余裕を確認して帰途に着く。


玄関を開けると当然だが真っ暗で誰も居ない。

リビングに鞄を置いてスーツの上着をハンガーにかけ、疲れた身体をソファーに投げた。


疲れた身体をソファーが包み眠りに落ちそうになる。

…着替えよう。

そう思い立ち上がったところに携帯電話が短く震えた。

折りたたまれた筐体のサブディスプレイが光り【悠】の一文字が見える。


連絡先を教えて以降、こうやってたまに悠からメールが来る。

自分からメールをすることは無いが、適当に会話のキャッチボールは続けている。


そして意外なことに悠は店に来て欲しいという雰囲気のメールを送ってくることは無かった。

自分は専門学生で美容系の職業をめざしていること、学費は奨学金なので少しでも足しにしたいと今の仕事しだしたこと、唐揚げ、たこ焼き、ラーメンが三大好物だということ。

そんな他愛もないメールが届いていた。


筐体を開いてメールのアイコンを押すと本文は無く、友人とピースをしているプリクラのデータが添付されていて【ミナミで遊んできた!】なんてメッセージが添えてあった。


「どう反応すりゃいいんだよ、これ」

そう言って少し笑い僕はメールを削除した。


自分の立場はわきまえている、こういう異性からのメールを残しておいてもロクなことはない。“見て、返事をして削除。送信メールも消す。”お決まりのルーティンを繰返している。

一通りの動作を終えた僕は筐体をソファーへ投げ、疲れた身体ごと浴室へ向かいシャワーを浴びた。


シャワーを浴び終わった僕は、長らく性を放っていなかったことに起因する衝動を燻ぶらせていた。

もちろん、妻が居ないのだから自己処理をすれば済む話である。

そもそも、2人目の子どもが生まれてからは妻とはタイミングも含めてそういう時間を過ごすことが減っているため浴室で処理することも多々あった。


しかし、今日は家に誰も居ないという状況もあり処理するのであれば久々にリビングで大っぴらにスれば良いのである。

そんな馬鹿げたことを考えながら、パソコンの電源を入れた。


起動音をあげて画面は光り、程なく壁紙の優雅な景色を映し出した。

そんな綺麗な画面を汚す邪な感情でブラウザーを立ち上げ、欲のままキーワードで検索を進めていく。


キーワードにヒットするサイトが羅列される中で、ふと少し毛色の違う結果が表示されていた。


【デリバリーヘルス】


どうやら検索ワードと同じ言葉を店名にしていたらしく、検索結果に表示されたようだ。

いつもの僕であれば、クリックすることは無いのであろうが、羽を伸ばせるのが最後だという高揚感からか気付けば店舗のサイトを表示させていた。


【素人!未経験!kawaii!】そんな煽り文句と写真で心を抉ってくる。

そのページの中段に“ただいま待機中の女の子がチャット出演中!チャット割実施中”という謳い文句に目が止まりマウスを滑らせてクリックをする。


ページを開くとチャットへのログインが促され適当なニックネームを要求される。

【NIM】と適当に打ちチャットへ参加する。

チャット画面が開くと、そこにまだ女の子は居らず何処か安堵した自分がいた。

居ないのであればとブラウザバックをしようとしていると運営者コメントが表示される。


【新人のレナちゃん、出勤しました。このあと登場!】


とりあえず待ってみるかと、そのまま待機していると画面の奥から女の子が歩いてきて画面に映る椅子に腰掛けた。

カメラが少し上部にあるらしく、少し見下ろす形になりデコルテのあたりから決して大きくない胸元が見え、そこに見覚えのある“ほくろ”を見つけた。

椅子に腰掛け終えて、顔を上げた女の子には見覚えがあった。


「悠ちゃん…?」


少し髪の毛や化粧の違いはあるもの、記憶の中にある悠にそっくりだった。

頭の中でクエスチョンマークが浮かんでいるが、携帯電話を手にとり鞄の中の財布の中身に福沢諭吉が4枚居ることを確認して画面に表示されている電話番号にコールする。


「はい、ありがとうございます!素顔倶楽部です!ホテルですか?ご自宅ですか?」

慣れた様子でこちらのオーダーを取る店員に僕は少し緊張してこう告げた。


「自宅に、今チャットに出ているレナちゃんを、この画面に出ているチャット割というやつでお願いします」


二度目の出会いはこうやって始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ