[Mission-077]
前回までのMission!
敵の猛攻についに機体のエネルギーが尽き、絶体絶命に陥る昴流。
その時、機転を利かせたアルカは観言を無理やり巻き込むのであった。
[Mission-077]
巻き込まれた観言が、渋々と言った様子で携帯端末から曲を再生させる。
激しいベースメインのインストゥルメンタルが、操縦席内に響き渡る。
それに合わせて、俺の鼓動も加速していく。
意識と感覚が引き上げられていく。
戦闘の緊張感を飽和させて、むしろ心地いい向こう側への扉が開かれる。
調子はどうだ?
機体の状態は、エネルギーは満タン近くとも、稼働限界ギリギリだ。脚部の稼働に違和感があるし、片腕は稼動のたびに光子の火花が迸る。スラスターの出力も半分ほどに低下中だ。
しかし握った操縦桿の感触は、非常に調子が良いように感じる。
心なしか、闘いたくて疼いているようにすら感じるのだ。
サウンドがさらに激しさを増していく。
同時に頭の中にフレーズが浮かんでいく。
〈む、我が戦士よ、敵が動き出すぞ!〉
「ちょっと昴流! ほら音楽なんて聞いてる場合じゃないわよ!?」
横やりの雑音に眉をひそめて忠告する。
「頼む少し黙っていてくれ」
音と心のチューニングにズレが生じては叶わない。やがて目の前の出来事に意識が集約されていく。自然と周囲の雑音が掻き消され、操縦席内に響く音楽だけがクリアに心を震わせる。
眼前のモニターでは、卵型状態の敵が弾けるように獣型へと戻りこちらへと襲い掛かってくる様子が映し出された。どうやら人型では無く獣型で戦う様だ。
まぁいい、どっちにしても今は音に合わせて体を動かすだけだ。
Have you forgotten it――?
The one step that I embarked on at that time――♪
〈――もう姫様も命令もどうでもいい! 貴様を噛み砕く、それだけだっ!〉
まさしく獣の咆哮の如き声を張り上げて、獅子型機はこちらへと再び襲い掛かって来る。敵の振り上げた爪が、光波を発しながら、二隻の輸送艦の間に叩きつけられる。それだけで海は大きく歪み、激しい水柱と共に輸送艦が衝撃で縦に立ち上がった。
敵はもう出せる限りの全力で襲い掛かってきている様だ。ならばそれに答えるのが道理って奴だろう。
Without being ready.
A feeling of then when I jumped out――♪
操縦桿を握り直し、ペダルを踏み込む。粒子を全力で噴出させ、機体を持ちあがった輸送艦へと飛び付かせる。
「おら、追いかけてこい!」
そのまま壁を蹴る要領で、二隻の輸送艦を交互に蹴りあがるようにして機体を上昇させていく。
〈それで逃げ切れると思うなよっ!〉
獅子型機も翼を広げ、こちらへと追いすがる。こちらの装甲を一噛みで食い千切りそうな大口を開けて迫りくる。確かに迫力は十分だ。しかし、俺に追いつくには今一ノリが悪い。
輸送艦を蹴りつけると同時に、腕に刃を展開し輸送艦の甲板に突き立てる。それでタイミングをずらし敵の牙を避ける。
「懐が隙だらけだぜ!」
さらに避ける動作で輸送艦を蹴り、敵機の胴体へ蹴りをお見舞いする。
〈ちょこまかとっ!?〉
蹴り込んだ敵機が輸送艦に激突する。その反動で輸送艦は立ち上がった状態からようやく水平状態へ倒れて行く。
俺は倒れる輸送艦を蹴って、まだ立っているもう一つの輸送艦に飛び移るとその甲板に固定された大きなシートを手に取った。これは確か宇宙空間でスペースデブリを回収する為に使われている金属が織り込まれた超強度のシートだ。海底にあった装甲艦をサルベージする為に用意されたものだが、輸送艦自体もこの有様ではもうサルベージは行われないだろう。ならばこの場で有効活用するしかない。
俺の機体が飛び移った事で、こちらの輸送艦も水平に倒れ始める。機体のブースターを吹かして、着水した輸送艦の上で上体を持ち上げようとしている獅子型機に向かって飛び掛かる。
Anyone looks down and is depressed.
Everybody spent time lazily――♪
両手で広げたシートが風を受けてマントの様に翻る。
敵機の背中に馬乗りに飛び降りながら、翻ったマントを目隠しする様に敵に被せた。
これまでの戦いで、敵は視覚情報、特に頭部で得られる情報をメインに動いているのが分かった。ならばこちらの姿を消すよりもこうして目隠しする方が効率が良いと言う物だ。
〈な、前が! 貴様!?〉
困惑しながら、敵機は振り落とそうと微々上がり海面を駆けだす。俺も振落とされないように、何とか敵機にしがみ付く。
獣の姿ではこの状態で覆われたシートを上手く引き裂く事が出来ない様だ。とはいえ馬乗りにされている以上、バランスを崩して倒れればすぐさま俺の機体の刃が深く突き刺さる事になる。
〈おのぉぉぉれぇぇぇ!〉
そのまま獅子型機は俺を背中に乗せたまま、海面を全力で走り始める。
そのまま背中を刃で貫ければ勝負はつくのだが、敵はこちらを振り落とそうと海面をイルカの如く跳ねながらめちゃくちゃに走り回る。ここで振り落とされれば、今度はこちらが敵の全力の体当たりをくらい粉々にされるだろう。傍目には軽快にロデオをしているように見えるかもしれないが、お互いに必死で戦っているのだ。
Even if I kick about such guys.
So does the mood improve――?
It is a wheel of the hamsters.
It is only absorbed in a feeling――♪
やがて海面が途切れ、敵の背中にしがみ付いたまま俺達は陸地へとなだれ込む。
何かに激突するかのような衝撃で、俺はついに振り落とされた。転ばぬようにブースターを吹かして、綺麗に着地を決める。敵の抵抗でやや擦り切れたシートを、機体の背中に回して羽織るように纏う。
敵機も大地をしっかりと踏みしめ、身体を振るってこちらを睨みつけた。大きく口を開き。全身のスリットから光波を迸らせてこちらを威嚇してきた。その衝撃で砂が巻き上がり朝焼けの空を曇らせた。
自機の後ろをモニターで確認すると、地球防衛軍の基地が見えた。どうやら走り回って結局元の島に戻ってきてしまったらしい。
〈……中々の腕だな、地球の戦士よ、お前の闘う理由とはなんだ?〉
俺の闘う理由、だと?
そう言えば何か負けられない理由があった気がしたが、今やもう頭の中には残っていない。そうだ、そんなものは俺には必要無い。
「ハッ、戦う事に理由なんか無ぇよ」
そうだ俺の戦いとは、ただひたすらに内側から湧き上がってくる衝動の様な物だ。
そこに意味も理由も無い。信念も決意も無い。価値や想い入れすらも無い。ただ目の前の敵を倒す為に動く、それだけだ。そこに崇高な動機や、高度な考察など入る余地は無い。
〈これだから地球の戦士という奴は! 俺様の戦いには、[カレント・スフィア]の存亡がかかっている、貴様とは背追うモノが違うのだ!〉
「だから動きが鈍るのさ、戦いに意味なんか見出してるからっ!」
戦う事に意味など無い。ただひたすら本能のままに、身体を動かすのだ。世界をシンプルに捕らえてこそ、さらなる速さへと繋がるのだ。
俺に必死にしがみ付いている観言の携帯端末から流れる音が変わる。
戦いの流れも変わっていく。
敵機は全身から漏れる光波を、後方へと収束させる。そして地面にしっかりと爪を立て、今か今かと飛び掛かる瞬間を見定めている。
俺も腕に展開していた刃を手で掴み、一気に引き抜く。腕に装備された光り輝くソラン・ソードを天にかざし、そして切っ先を敵へ向ける。
〈GUOOOAAAAAAAAAA!!〉
「Let's go to the place nobody was looked. Even if anything is said, do not mind it――♪」
曲の歌いだしに合わせて、同時に駆け出した。
互いの刃を相手の喉元めがけて突き出しながら。
It is not useless.
An action has a meaning――♪
[アルカの手記-077]
「な、何という事だ!」
「ど、どうかしたッスか姫様!」
「ああ、ついに恐れていた事態が……何と菓子の備蓄が切れたのだ!」
「な、なんて事っスか!? それじゃあ集中して戦いの続き見れ無いじゃないっスか!?」
「ああ全くだ、これでは我が戦士の応援も満足に出来ん……すまない昴流、私の力は此処までの様だ……」
「……いや多少のってあげたっスけど、別に補充すりゃいいんじゃ無いっスか?」
「しかし昴流がばっかんす中で、奴の部屋に菓子が補充されんのだ!」
「いつもそこから仕入れてたんスか、なら昴流が仕入れている所から手に入れればいいじゃないっスか」
「どうも軌道エレベーターの上層から配送されて来るらしいのだが、今流通関係が混雑してて入荷が遅れているらしい、購買に補充されるのはあと一週間はかかるとの事だ!」
「はぁ、ならいっその事自分達で作ればいいんじゃないっスかね?」
「な、何だと!?」
「いや大抵のお菓子は自作可能っスよ、まぁ買った方が安くて楽っスけど。それにあまり凝った奴とかは難しいっスけど、姫様の好物ってポテチっスよね? ならじゃがいもスライスして揚げるだけでも出来上がるっスよ」
「ほう……中々興味深いな、普段口にしている物がどういった過程で出来上がるのかを知る事、そしてそれを自らの手で作り出すのは悪い話では無い」
「じゃ早速やって見ますっスか? スミスに頼めば調理器具くらい用意してくれるっスよ」
「よし早速スミスに連絡を取って菓子工場の建設に取り掛かるぞ!」
「本格的過ぎるっスよ!?」
[続く]




