[Mission-076]
前回までのMission!
海へと逃げ延びた昴流を追いかける獅子型の機星。しかし、それは昴流の狙い通りであった。
日中に組み立てたサルベージ現場にて、反撃に出る昴流であったが?
[Mission-076]
轟音が収まり、周囲に静けさが戻る。
俺は機体の上に積もった補強パーツを押し退け、残骸の山から何とか這い出した。
海底では無数の補強パーツと落下の衝撃で半ば崩れた装甲艦が、墓標の様に突き立っていた。
〈……物凄い衝撃だったな我が戦士よ、無事か?〉
「ああ、何とかな……」
アルカの問いかけに答えながら、コンソールを弄って機体の状態を確かめる。機体は異常が無い場所を探す方が難しいな。S粒子残量も10%を切っている。これで戦闘続行は厳しい。
とりあえず海底を蹴って海上を目指す。
「今から海の上に出る、あと機体のエネルギー残量がヤバい、どうにかならないか?」
〈よし任せろ! 今直ぐS粒子のお代わりを用意してやるぞ!〉
アルカが威勢よく言って、艦橋を慌ただしく出て行く音が聞こえる。何をするつもりかは分からないが、ここはアルカの補給を待つしかない。
やはり敵に止めを刺すまで気は抜けない。流石の敵も瓦礫に埋もれては身動きが取れないだろう。しかしこの粒子残量では刃すら形成出来無い、絶好の攻撃のチャンスだと言うのに見ている事しか出来ないと言うのは歯痒いものだ。
海面に出ると、遠くの海が薄っすらと明るくなっていた。
新しい朝日は、長い戦いの終わりか、それとも新たな戦いを告げるのか。
〈目標を発見! さぁ観言よ今こそ我に力を貸せ!〉
〈え、ちょっと何!? 在流華さん? 今まで何処にいたの? 今ちょっとそれ処じゃ……〉
いつの間にか、メインモニターの脇に表示しっぱなしだった基地内の様子を写した画面に変化が起きていた。と言うか、任せろと言って艦橋を出て行ったアルカが転送を使って移動したようだが。
〈ええい、問答無用! スミスこのまま周りに気づかれる前に転送しろ!〉
〈しかし姫様、転送装置の連続使用は装置に非常に負荷を〉
〈リスクは承知の上だ! 急げ、悪い予感がする!〉
〈え、ちょっと何!? きゃぁぁぁあああ!?〉
画面に目を向けると、観言が人知れずアルカに拉致られて転送用のゲートに連れ込まれる様子が映っていた。ああもう、後でどう説明しろっていうんだ。
しかし俺にはそんな様子に気をとられている余裕は無いようだ。唐突にメインモニターに足元から敵性反応が検知されたのだ。恐らく装甲艦に下敷きになった敵が再起動したのだろう。思ったよりダメージは与えられていなかった様だ。
敵機も負傷したのか動きは非常にゆっくりであった。しかしどんどん近づいている。対してこちらの機体は満身創痍な上にS粒子残量はわずかで、俺は海上でアルカを待つ事しかできない。一方でアルカの方はと言うと。
〈ちょっ、何ここ何処!? え、さっきまで基地にいたんじゃ!?〉
〈スミス、転送は!?〉
〈申し訳ありません姫様、今の転送で転送装置が爆発を起こしまして、現在急いで復旧中でございますが、流石にすぐに転送を行う事は〉
〈よい、転送装置の復旧は後回しだ! ファルアタートで昴流の元へ向かう、全速前進!〉
〈え、昴流!? 昴流が居るの? ねぇ無事なの!?〉
〈しかし、姫様! そこは戦場ですぞ! もしファルアタートを失えば!?〉
〈昴流を失えば結果は同じだ! この際リスクは無視しろ!〉
〈ちょっと昴流は無事なの!? 無事じゃないの!?〉
物凄く忙しそうだ。ここは軽口を叩いてちょっかいを掛けるのは辞めにしておこう。それに、俺は俺で自分の作業に集中しなければならない様だ。というのも、海中から何やらやたらと巨大な影が浮上してきているのだ。
嫌な予感を背筋に感じながら、俺は海面を滑る様に機体を動かして敵の出現予想地点から距離をとる。そこで機体の粒子残量は5%を切り、海面に浮かぶのも厳しくなってきたので近くに停泊中の輸送艦に機体を乗せる。
直後、盛大な水飛沫を上げて海中より敵機が姿を現した。敵の機星はいつの間にか獣の姿をしていなかった。海面に二本足で立ち、頭上に拉げた装甲艦を抱える姿は人型に見える。手足は獅子の名残を残し、鋭い爪が生えている。獣を模した頭部は右肩へと移動し、新たに人の様な頭部がこちらを睨み、スリットから光をこぼす。翼は折り畳まれ腰巻の様に体に纏っていた。あえて言うのであれば、古代の英雄象の様な印象を受ける姿だ。
〈GUUUAAAAAA!!〉
元獣型の敵機は、海面に降り立つと声にならない雄叫びを上げる。それに合わせて体の各部の装甲が隆起し筋肉を膨張させたかのように一回り敵機の身体が大きくなった。もとより大きな機体が二足歩行になり、膨張した所為で完全にこちらを見降ろす様な体躯となっている。
〈認識を改めよう、貴様は確かに皇機近衛兵かもしれん。だが、この狩猟において狩人はこの俺だ!〉
てっきり激情に任せて襲い掛かって来るかと思ったが、ここに来て冷静に俺を再評価して来るか。確かにこれは獣と侮るには失礼な相手の様だ。
「地の利を生かしてようやく五分って所で、そんな新形態見せられるとさすがに萎えて来るぜ」
下手したら後二回くらい変身を残していそうだが……しかし。
「勝つのは俺だ」
ここに来て人型をとるという事は、俺の戦い方を学び地の利やその場にある物を武器として使う術を見に着けたという訳か。その上爪や肩に移動した獅子の頭部が物語るように、先程使用した鋭い爪や、対面ではほぼ無敵のシールドも捨ててはいないって事だ。誰だ撃破は容易いとか言った奴! 対面最強な敵なんじゃないか!?
つっても、ここまで来たらもう後には引けないんだがな。
〈第10機星、闘技の魔獣、狩らせて貰う!〉
「第9機星、夜霧の剣、推して参る!」
敵機は名乗ると同時に、頭上に抱えた自重の一万倍はある装甲艦の残骸をこちらに投擲してきた。水中では無く海面の上である。どうやらこの形態では、ウェイトの軽さすら克服したようである。こんなんどう勝てっていうんだ。
おまけにこちらのS粒子残量は5%を下回ってまともに動けなくなっている。あわや絶体絶命と言う時に、ようやく待ち焦がれた声が割り込んで来た。
〈待たせたな我が戦士よ!〉
こちらへと投擲された装甲艦に体当たりをかますようにして、アルカの乗艦するファルアタートが戦場に割り込んで来たのだ。
ファルアタートはそのまま装甲艦の残骸を敵機に向かって押し返すと上空に静止した。残骸の着水によって巨大な波が輸送船と俺の機体を揺らす中、ファルアタートの甲板の上に、観言を抱きかかえたアルカが立つ。
〈え、ちょっと何これぇぇぇ!?〉
観言は何が起こっているのか理解できない様子で、ひたすら困惑の表情を浮かべている。そう言えば俺もこんな時期があったなとつい和んでしまう。
〈皇機不承認!〉
アルカは空いた片手を敵に向けると、力強い言葉を放った。それと同時に手の甲に文様が浮かび上がった。そして残骸を軽やかに避けた敵の胸部にアルカの手に浮かんだ物と同じ文様が浮かび上がったのだ。それと同時に敵の動きが止まる。
〈ば、かな……これは姫様、だと! このぉぉぉ!〉
敵は呻き声を上げながら、機体の四肢を丸め、卵型の待機モードへと姿を変えた。
それを見届けると、アルカは小脇に抱えた観言を今度は両手で掲げた。
〈ほらお待ちかねの品だ受け取れい!〉
〈きゃああああああ!〉
アルカはそのまま甲板からこちらに向かって、観言を放り投げた。
「お前マジか!?」
俺は残りわずかな粒子を咄嗟に吹かして、観言に機体を寄せる。ブースターとして噴出する粒子が尽きた物の、辛うじて伸ばした手が観言を何とかキャッチする。
そのままコックピットハッチを開けると、飛び出して機体の外へ観言を迎えに行った。
「観言ォォォ!」
「え、嘘マジで昴流だ!? けど、何これぇぇぇ!?」
観言は第9機星の掌の上で、喜びと驚愕と戸惑いと不安と怒りの混ざった非常に不可解な表情を見せていた。一々説明している暇はないので身を強張らせる観言を抱きかかえると、素早く操縦席に戻る。
「な、何で謎の機体に昴流が……? ってちょっと何処触ってんのよ!」
「座る場所ここしかないんだよ、揺れるから俺にしっかり掴まってろ」
戸惑う観言を抱きかかえるようにして、座席に座り直す。
モニターを確認すると、敵はまだ卵型のままだがいつまでも大人しくしてはくれないだろう。アルカのあの技が敵を問答無用で機能停止に出来るならば、躊躇わずに初っ端から使うはずである。恐らくは単なる時間稼ぎでしかないのだろう。間もなくすれば敵は再び動き出すはずだ。それまでに俺は、俺のやるべき事を済ませなければいけない。
「悪いが説明している暇はない、それで観言さんよ、アルカに貰った宝石は身に着けてるか?」
「え、これの事? 肌身離さずっていうから持ってるけどこれが何か……?」
そう言って首元からチェーンで繋がれたCをとりだして見せる。
アルカが観言をこの戦場に引きずり込んで、俺に送り届けたのは間違いなくこいつの持っているCを使えって事だろう。確かアルカ以外の人間がこれを持っているとCはS粒子を生成し溜め込むと聞いた事がある。
「ちょっと借りるぞ」
そういってチェーンに触れると、大した抵抗も無くチェーンは解けてCが掌に収まる。
「な、何するの!?」
「まぁ見てろって」
コンソールを操作すると、真ん中が展開し、パネルの奥からCの填まった台座がせり出してくる。俺は元々填まっていたCを躊躇い無く取り外すと、観言が持っていたCを素早く填め込む。たったそれだけの事で、後わずかだったS粒子の残量が一気に満タン近くまで充填され、機体も何処か元気そうにスリットの発光を強くする。
〈粒子の補充を終えたようだな我が戦士よ! 間もなく敵が再び動き出すぞ!〉
「分かってるよ、それに粒子は補充出来ても機体の損傷は治らないんだ」
既に無理な稼働をし過ぎて、機体の各所が悲鳴を上げている状態だ。エネルギーが全開とはいえ、長時間を戦い抜ける余力は無い。
「時に観言さん」
「な、……何ですか昴流さん?」
いきなり呼びかけられて緊張しているのか、敬語で返す観言可愛い。
「任務前に俺が送った曲って今持ってるか? ってか今携帯端末持ってる?」
「え、何を急に? そりゃ一応携帯端末に入れてるし今持ってるけど……?」
「しゃっ! ならそれを今すぐ流してくれ!」
「わけわかんない! 何でこんな状況で音楽なんか流さないといけない訳!?」
流石にここに来てキャパオーバーに至ったらしい。観言が腕の中で唐突に喚き始める。まぁ無理も無い、こんな状況下でこんな要求されたら誰だって混乱するだろう。しかし俺にとってはこれは非常に重要な事なのだ。だから観言を宥めるように声のトーンを落として語り掛ける。
「まぁ落ち着けよ観言、知らないのか?」
「……何をよ!?」
事情を説明されず、拗ねたような口調の観言に向かって俺は確信めいた一言を放った。
「歌は地球を救うんだぜ?」
[アルカの手記-076]
「おお、ついにあ奴も本腰を上げたか」
「本気になったギオルは強いっスよ!」
「通常でも十分に強いのだがな?」
「あれでもまだまだ爪を隠した状態っスよ!」
「なんと!」
「僕も何度か目の当たりにしたっスけど、それはもう凄過ぎて手が出なかったっスね」
「ほう、姿を消して敵の急所を射抜く奇策の使い手であるお前をしてそう言わしめるか、恐ろしいな」
「何せ泣き喚いていう事を聞かないっすよ、それで手当たり次第に八つ当たりして来るんで周りは距離を置くしかないんすよね、それで両腕をこうグルグルとまわしてくるんで迷惑極まりないっス」
「やはり思って居た強さと違う!?」
[続く]




