[Mission-074]
前回までのMission!
異星人の機動兵器に対して、地球防衛軍のKRⅢ部隊による攻撃は失敗に終わった。
KR部隊に参加した昴流は、アルカ達の力により撃墜途中で機星の中に転送される。
そして、機星同士の戦いが再び行われるのであった。
[Mission-074]
光に満ちた空間を抜け、視界が開ける。
一瞬の(しかし感覚的には焦れるほどの)時を要して俺の乗る第9機星は戦場へと躍り出た。
眼前には獅子型の機体が居た。機械的骨格で形作られたそれは、獅子を模しているように見える。しかし、硬質な翼を有し、無機質な外装を有機的に脈打たせるその姿は、生物とはかけ離れた冷たさを感じる。生物的な動きを見せる機械の塊は、生き物の視点からは得体の知れないモンスターに映るのだ。
第10機星は今まさに基地へと突撃しようとしている所だった。
機動兵器とは思えないしなやかな動きで、一直線に基地の地上施設へと駆けて行く。このまま獅子型機がぶつかれば基地の崩壊は免れないだろう。
「そうはさせるか!」
俺は転送から突出した勢いのままに、横から敵機へと体当たりを敢行して軌道を逸らした。獅子型機はギリギリ基地の外壁を掠めて、後方の森林地帯へと突っ込み、木々を薙ぎ払いながらも、バランスを保ち踏みとどまる。
そしてゆっくりと頭部をこちらに向け、スリットから漏れる光を強くした。
〈ハァッ! 少しは骨のある奴が来たかと思えば、何だミストじゃないか〉
敵機から通信が入る。威風堂々とした女戦士と言った感じの声音だ。
〈今の攻撃は、俺と力比べしたいって事で良いんだよな!?〉
その声音は戦いそのものを楽しんでいる様な、無邪気さがあった。
俺は素早く機体の背部にマウントされたテイル・ランスに手を掛け、機体の腕に保持させる。保持しやすいように縮小された槍が、伸縮機構を展開して機体の全長を上回る巨大な突撃槍へと姿を変えた。
そのまま伸縮の勢いに乗せて、機体のブースターを起動させ獅子型機にテイル・ランスを突き出す。
〈連絡がつかないと思ったら、フリスをやったのか! 面白い!〉
獅子型機は身体のバネだけの跳躍で、突きを躱し、機体の頭上を越えて回り込む。咄嗟に槍を薙ぎ払うがその時には既に距離をとられていた。空ぶった槍に重心を持って行かれ、機体のバランスを崩した所に獅子型機が体当たりを仕掛けてくる。
「くそっ!?」
何とか機体を捻り、突進の直撃をかわすが牙に装甲をえぐられ大きく吹き飛ばされる。衝撃に吹き飛ばされ森林地帯に叩き付けられる。装備していたテイル・ランスははずみで手放してしまった。
その時コクピットに影が掛かる。
機体を起こそうとするが負荷が掛かって起き上がれない。
獅子型機だ。俺の機体の肩に前足を乗せ、こちらの操縦席を覗き込むように圧し掛かる。
〈何だ、折角ミストと真剣勝負が出来ると思ったら違うようだな? お前は誰だ? 反逆兵か? それとも地上の兵か?〉
敵はゆっくりと機体に体重を掛けて行く。
機星は見た目以上に軽量だが、こちらよりも二回りは大きい敵に抑えつけられて無事なわけが無い。モニター画面に装甲破断、骨格フレームに異常発生とエラーメッセージが表示される。
「俺は……」
コクピット内で呟いて、火器管制から腕部に内蔵された装備を起動させる。
腕部装甲が展開し、内部の結晶状の機関が露出すると同時に、それは輝き始める。反対の手で展開された刃の柄を掴むと同時に、寝転がった状態で引き抜いた。
コンソールに[ソラン・ソード]と表示され、S粒子残量が大きく減退する。
「……姫様直属の戦士だ!」
引き抜いた動作で、機体の手に握られた蚊が約粒子によって形成された刃を敵に向かって突き付ける。
眩い火花と共に敵の装甲を少し削って、俺は何とか踏み付けから逃れた。与えたダメージは恐らく軽微だ。恐らく被弾の直前に身を引いてダメージを抑えたのだろう。機星がたいてい装備しているバリアを持たないと言っていたが、その代わり物凄く身軽な上に反応も早い。何より。
「音楽が掛かってないと……力が出ない……!」
厄介な戦いになりそうだ。
獅子型機は刃の届かない距離まで飛び退いた。そして頭部のスリットを、力強く発光させる。
〈へぇ……お前なんかが皇機近衛兵だと? 笑わせてくれる!〉
敵がそう告げると同時に、素早く横へと駆けだした。逃げ出したわけじゃない、敵はそのままこちらに背を向けるように距離をとり、そして円を描くようにこちらへと向き直った。
〈ならばこの一撃、耐えて見せろ!〉
そしてこちらに向けて全力で掛け寄って来る。
頭部に備えられたタテガミが展開し、前面に粒子を収束させまるで盾の如き力場を形成した。
それに対して俺は、機体の手に装備されたソードを構えて迎え撃つ姿勢をとった。
しかし突如として、俺の背中を冷たい汗がなぞった。
地響きを立てて迫り来る敵から感じる威圧感が、俺に訴えかけてくるのだ。そんな攻撃など通用しないと。正面から受けて、粉々に砕け散るが良いと。
敵からのプレッシャーに怖気づいたつもりは無い。だがしかし、長年の勘が告げてきたのだ。ここは引くべきだと。さもなくば敵の言う通り、スクラップになるのは目に見えていると。
その自身が発する忠告に、構えを解くのが少しばかり遅れた。
咄嗟にブースターを前方に吹かして、突進の衝撃を和らげる。手足をなるべく縮めて雷衝撃姿勢をとる。敵の突撃から自機の真芯を外す様に機体を回転させる。さらには腕部に装備された小盾(バックラ―)を激突の衝撃を受け流す様に構える。
しかし、気が付けば機体は仰向けに倒れていた。
激突の瞬間を覚えていない。
耐G処置の施された操縦席が見た事も無い衝撃に揺れたのは感じた。
そして遅れて操縦席内に響き渡る警告音に気が付いた。
〈……せよ、我が戦士昴流よ! ただちに応答せよっ!?〉
通信でひっきりなしに語りかけてくるアルカの声にも今ようやく気が付いた。
「くっそ、どれだけ気を失っていた……?」
〈おお、目を覚ましたか! 5秒ほどだ、今直ぐ機体を起こして体勢を立て直せ、次の攻撃が来るぞ!〉
言われると同時に、ブースターを吹かしてその場から逃げる様に機体を移動させる。直後にそれまで機体の居た場所に敵の爪が突き立った。
〈ほう、まだ動けるとは、根性だけは一人前と認めてやろう!〉
敵から言葉が投げかけられるが、正直それに構っている余裕は無かった。
先ずは被害状況の確認だ。ブースターは何とか稼働しているが出力は半分ほどしか出ていない。右腕は損壊して何とか繋がって居るような状況、小盾は粉々に砕けてしまっている。脚部もかなり被害が出ていて稼働に支障は無いが、踏ん張りの要る切り合いにどう影響が出るか。S粒子はとっさに可能な限りバリアーを展開したらしく大幅に減少していた。バリアーを張ってこのダメージか。
〈どうする我が戦士よ、一旦引くか?〉
「……機体が動く限りは戦える、って言いてぇ所だが」
確かに機体の運動性が半分以下になった現状で、もう一度敵の一撃を喰らえば敗北は確実だ。しかし、今ここで俺が引いたら、敵は迷う事無く基地にいる観言に襲い掛かるはずだ。だとしたら。
「……戦士には、引けない負けられない戦いがあるんだよ!」
砂浜につんのめる様に突っ込んで、機体の姿勢を立て直し俺は敵へと向き直った。
俺に戦闘続行以外の選択肢はない!
そしてこんな状況でも、勝ち残らなければならない!
考えろ、考えるんだ!
敵はこちらとの距離を詰めるべく、獣の如き身のこなしで迫りくる。
戦力差はまさに絶望的だ。
敵の機動力は圧倒的で、こちらは攻撃を満足にあてる事すら出来ない。しかも次の一撃を満足に避ける事も難しい。
機体も大きく損傷し、S粒子残量も残り少ない。こちらが取れる行動は残り少なかった。
未来が砂と言う形で掌から零れ落ちて行くような感覚だ。敵にどんどんと追い込まれていく。まさに獣の狩りの様だ。
獣……、敵は確かこの惑星みたいな大地や大気がある環境下での運用が何タラとか言っていたな。遭難時に戦ったアルカの変装の時もそうだが、やはり人間と獣では本質的に体の動かし方が違う。人間側としては罠やら道具を用いなければその差は埋められない。
人間の身体は、地上でサバイバルを生き抜く上ではあまり有利では無いと聞いた覚えがある。逆を言えばそれだけ獣と言うのは身体能力で優位に立っているともいえる。結局泳げても魚には負けるし、飛ぶには航空機やブースターなどの補助が居ると言う非常に中途半端な存在が、人体なのだ。
いや、待てよ……泳ぐ?
ふとアイディアが頭を過ったがそれを吟味する余裕は無さそうだ。既に敵は爪が届きそうなほどに距離を詰めて着ていた。
こなったら悩んでる暇は無い、僅かな賭けに全額投資するのみ!
「オラ犬かきでもなんでもして追いかけて来いよ!」
そう言って俺は、機体を背後に広がる大海原へと突撃させた。
掌から零れ落ちて行く砂の様な状況下で、最後に掌に希望が残る事を信じて。
[アルカの手記-074]
「戦いを見る限り、どうやら我が戦士が押されているようだな」
「そうっスね、やっぱ相手がギオルじゃ苦戦しますっスよ」
「お前を持ってそう言わしめるほどに奴は手ごわいのか?」
「強いっちゃ強いっスよ、でもどちらかと言うと厄介っスね」
「厄介とな?」
「特に戦闘では非常にやり辛い相手っスね、僕もあまり闘いたくないっスよ」
「ほう、搦め手の使い手であるお前をしてもか」
「しつこいんスよ、どんな勝負事でも勝たないと気が済まないタイプで、かけっこでもかくれんぼでもトランプでもしりとりでも自分が勝つまでやるタイプで、すーぐムキになって永遠とやらせるもんスからこっちも辟易としてきてー」
「思ってた強さと違うな!?」
[続く]




