[Mission-070]
前回までのMission!
再び異星人の襲来に戦々恐々とするリゾート地!
そして何の因果化また巻き込まれるCクラス一同。そしてどうする昴流!
[Mission-070]
地球防衛軍(S・E)、南アフリカ隊は軌道エレベーターSTT03を中心としたアフリカ大陸の平和を守る組織である。また現在のアフリカ大陸内では最強の武装勢力でもある。
海上の治安を監視する輸送艦隊から、ジャングルも苦も無く走破するKRⅡで編成された地上部隊。そして軌道エレベーター運営委員会から最新鋭KRⅢで構成された飛行部隊を貸し与えられている。総戦力は旧時代のちょっとした大国に匹敵するほどだ。
部隊数は後援部隊も合わせると17隊、その内KRに関係する部隊は五つである。そして今俺達はその中でもエリート部隊と言われている第一部隊、機動高速空兵[フラカーン]隊のKRⅢ整備格納庫に来ていた。
格納庫内は今まさに出撃指示が出された直後で、忙しなくSE隊員達が動き回っていた。
「困ります! 今は出撃指示が出ていますので、見学はお断りして!?」
格納庫内に入った俺達を見て、慌ててSE隊員が止めに入る。今から未知の敵を相手にしようとしているのだ、見ず知らずの学生が迷い込んで来たと思っても仕方が無いだろう。
むしろ。
「いんや、今回はこいつらも同行させる、ほら許可は取ってあるぜ」
と、学生を嬉々として戦場に送り込もうとするこの松田教官の方が頭がおかしいのだ。
「ええ……!? えっと、はい、確かに書類は本物ですね……え、でも学生ですよね!? ちょ、ちょっと確認をとってきます!」
「ハァ時間が無いのに全く待たせるねぇ」
いやむしろ溜息を吐きたいのは、こんな非常事態の最中にそんな無茶な要求を突き付けられたSE隊員の方々だろう。
俺達は会議室の上級SE隊員や、作戦司令、そして基地の警備員やKR隊隊員等の足止めを喰らいながらも、何とか格納庫内まで付き進んだのである。
目の前には今まさに出撃せんとする本物の最新鋭機動兵器KRⅢが、整備用のアームに固定された状態で並んでいた。
KRⅢ-F01(スパロー)装備は、可変翼とブースターによる高機動が特徴で、航続距離こそ短い物の空中戦に置いては無類の強さを誇る。この隊のテーマカラーなのか全体を黄色を基調とした都市迷彩塗装され、側面に風を意識した赤いラインが走っている。個々の機体ごとにパーソナルシンボル等のペイントも施され、実戦で使われている機体という迫力が醸し出されていた。
全長6mの機体が実際に人の行き交う格納庫に並んでいるだけでも、シミュレーターにはない迫力があって妙にかっこよく見える。さらには格納庫内に響き渡る最終調整で忙しなく動き回るアームの駆動音や、試運転で火を噴くブースターの振動、そして機体に装填される銃弾や、推進剤の臭いが意識を高揚させる。
ここは戦場と言う魅力に満ちていた。火器や機動兵器に魅せられた者達が集う、一種の楽園である。平和などとは縁遠い、しかして平和の為と謳われる兵器の音と匂いに満ちていた。
「か、確認は取れました……でも。出動準備を終えている機体には既に正規パイロットが決まっておりまして、今から乗り換えろと言う訳には……」
「誰も操縦を代われとまでは言わねぇよ、ほら記録にゃ予備機が二機あんだろ? そいつを貸せって言ってるわけよ」
「し、しかしですね……今から出撃準備を行うとなると、正規のパイロットを待たせるわけにもですね」
強引に話を推し進める教官に、何とか食い下がろうとするSE隊員であったが、背後から体格の良い隊員、パイロットスーツを着ている事から恐らくパイロットであろう男が声を掛けた。
「面白い! 噂の鬼教官の愛弟子の実力、是非ともこの機会に拝んでおこうじゃないか! 勿論整備の腕も込みでな。ただし俺達は出撃時間を厳守する、間に合わなければ置いていく!」
「別に愛弟子って訳じゃぁねぇが、良いぜ、予備の二機は全部こっちで面倒みる、上手く出て行ったらあとはあんたの部下扱いだ、好きに使ってくれ」
どうやら交渉が纏まったらしい。講義をしていたSE隊員が渋々端末を操作すると、格納庫に整備用アームに吊るされた二機のKRⅢが運び込まれた。それを眺めて満足そうに頷いたあと、松田教官は俺達を振り返った。
「つー事でだ、今なら先着二名まで生の戦場を体験出来るぜぇ? 立候補者は居るか? とりあえず時間ねぇから普段のチームで行って貰うぞ、ほら自薦他薦は問わねぇぞ?」
と、いきなり言い放つのだから困り者だ。
流石の急展開に、いくら無謀や無茶な行動に慣れたCクラスとはいえ全員が押し黙った。
「えっと、急に言われても……?」
「これって……実戦だよ、な?」
「な、何故我々が戦場に立たなくちゃいけないんですか……?」
至極真っ当な委員長の意見に、松田教官は頭を掻きながら答えた。
「あん? そりゃいずれは立つんだからよ、初体験は早いに越したこたぁねぇだろ?」
そういう問題だろうか。やはりこの教官頭のどこかがおかしい。
この場合一番危険なのは機体に乗り込むパイロットだろう。ナビゲーターやエンジニアはそれを加味してか手を上げるようなことはしなかった。よって自然と視線は俺達パイロット勢に注がれる事となる。
「……どうする?」
「いや、だってよぉ、確かに実際に銃弾ぶっぱなせるのは気持ちいいけど」
「相手は未知の兵器か……シミュレーターの知識は役に立ちそうにないな」
俺達も顔を見合わせ、困惑した表情を浮かべる。
俺としては実戦の空気は既に味わっているので、やりたい奴にやらせればいいとは思うが。何より機星が出現した以上、早急に理由を付けて(成績に影響が出無いように)何とかこの場を離れてアルカ達と合流しなければいけないのだ。
誰もが立候補しないでいると、それまで押し黙っていた尾乃教官が一歩前へと出た。
「貴方達はまだまだ未熟です、それはSEの人達も分かっているでしょう。ですから今回は後方支援、と言うのは建前でほとんど後ろに着いて行って現場の空気を味わうだけの見学となるでしょう」
それは確かにそうだ。いきなり初めて会ったチームと連携を組めと言われても困るし、向こうも俺達の動きに合わせては本来の実力が発揮出来ない。俺達に出来る事は、出来る限り邪魔をしない様に後ろをくっ付いて行く程度だろう。
「先の戦闘の情報を確認しましたが、あの未確認兵器がKRの堅牢なコクピットを破壊したと言う報告はありませんでした。ですからよほど無茶をしない限り撃墜されても命をとられる事は無いと思われます」
KRシリーズに搭載されているコクピットモジュールは、宇宙船の操縦席や脱出ポッドにも使われている。非常に堅牢な構造をしており、下手をすれば本体を構成するフレームよりも頑丈なんじゃないかと噂されるほどだ。少なくともKRが登場して今まで、撃墜されたKRは多数存在するが、稼働中のコクピット内で(無論搭乗口は閉じた状態で)、死んだ人は皆無らしい。
「私達はKRの頑丈さと己の腕を信じて、なるべく近くで敵機の様子を確認し、この戦いを記録する必要があります。その事を踏まえて、今回の任務の適任者を私が選ぶとすれば一番の候補は空鷹くんですが……」
そう言って尾乃教官の視線は、委員長の足に装着された移動補助ギブスに注がれる。
「――流石に万全でない者を載せる訳にはいきません」
「……申し訳ございません」
「謝る必要はありません、タイミングが悪かっただけの事です。そして次点を選ぶとなると」
委員長をやんわりと慰めて、続いて視線を送るのは長身の褐色娘、メイであった。
「空中戦ともなれば貴女の活躍が期待出来るかもしれません、どうですかメイさん?」
メイはしばし考えた後、後ろのカレンとシルビアを振り返り、彼女達の表情を見た。後ろに控えた彼女達は、メイなら出来ると信じている瞳を送る。それを受けてメイは、尾乃教官に向き直った。
「分かった出撃する。当然この戦果は成績に反映されるんだろうな?」
「学業とは違うので成績は難しいですけど、頑張ったら個人的に食券を送りますね」
「仕方ないな」
そう呟いた直後に、メイはカレンとシルビアに抱き付かれた。
「お姉様ならきっと活躍間違いなしですわ!」
「私精一杯整備するからねっ! 頑張ってくださいね!」
仲間からの抱擁に、やや迷惑そうな表情を浮かべるのがメイらしい。
「さてと、後一人だけど」
尾乃教官が視線を巡らせると、満を持してと言わんばかりにフレックスが手を上げた、しかも両手を。
「っしゃっ! なら俺しかいねぇよな!? だってよ、ヒーローってのは困ってるやつらを助けるのが役目」
「あなたは駄目」
「ハン! なンでっ!?」
速攻却下されてやがる。
「貴方の操縦技術が皆より劣ってるって訳じゃないのよ? でも、今回の任務は後方支援がメインだから貴方の特色を生かす機会は多分無いと思うの」
フレックスの特徴と言えば、縦横無尽に張り巡らせる弾幕とか、二丁持ちから繰り出される乱れ撃ちとか、天運に身を任せた大胆な命中精とかか。確かに集団戦では活かしづらいな。
そして、残った俺に皆の注目が集まる。
「って事で消去法で貴方なんだけど、どう?」
「消去法かよ……」
そこはせめて嘘でも褒め言葉を織り交ぜて誘われたかったな。
しかし困ったな、なるべく早くこの場から離れたかったんだが。パイロットとして機体に乗り込む以上、任務が完了するまで操縦席を離れるわけにはいかない。ナビやエンジニアに操縦代行を頼む事も出来なくはないが、どう説明したら納得してくれるかの検討もつかない。
それに、実機のKRⅢに乗れると言う絶好の機会を逃すのも惜しい。
いや、むしろ実機に乗り込んで敵機星の性能を視察しておくのも悪くないかもしれない。敵機の情報があれば、いざ機星に乗り込んだ後の戦いが楽になる。
いっそそれと無く任務中に故障を装って適当な所に不時着して、アルカ達に転送で機星のコクピットに送って貰えば成績に影響無く、この場から姿を消せるはずだ。この非常事態では、戦線を離脱して不時着したパイロットの回収は後回しにされるはずだ、それまでに敵機星を倒してKRⅢのコクピットに戻れば全て解決だ。
「いいぜ、ようやく俺の腕の見せ所って訳だ」
俺は不敵な笑みで頷いて見せた。
「あくまで後方支援ですから、余計ない事はしなくていいですからね?」
何故尾乃教官は、俺に対しては聞きわけの悪い子供に諭す感じの口調なんだろうか。別に俺って母性本能をくすぐるタイプのキャラじゃないんだけどな。
話がまとまった所で、松田教官がSE隊員に尋ねる。
「それで、出撃予定時刻は何時だ?」
「ハイ、22:00を予定しています」
「つー訳で、時間がねぇぞ! 後30分でキッチリ整備しなきゃいけねぇんだが、出来るか?」
松田教官の問いかけに、俺達は全員自信満々に答えた。
「30分ですか? 整備用アームは使っていいんですよね? なら問題はありません」
「ってか二機だけだろ? 全員でやりゃ10分で十分だぜ!」
「何気に普段から教官の指導を受けてはいませんぜぃ!」
「ハッハァ! パイロットのお二人さんはカスタムの要望をデータにまとめて端末に送ってくれないかい? 倉庫からパーツリストを探すのも結構時間がかかるんだよね」
「喋ってる時間が勿体無い、エンジニア班はもう作業に移っていいか?」
やる事が決まれば俺達の動きに迷いは無い。その様子に松田教官は満足そうに笑みを浮かべた。
「っしゃ暴れてこい!」
「「「了解!」」」
こうして俺達の戦いが始まった。
[アルカの手記-070]
「夜のプールと言うのも悪くないな!」
「そうっスよね、海と違って危険は少ないっスしー」
「まぁやたらとナンパは多いがな」
「それは仕方ないっスよ、オプションと思うしか」
「昼間の様に一々畳んで物影に運んで居ると一向に気が休まらん」
「日中は姫様の美貌に目が眩んでよほど気概のある奴しか来なかったっスのにね」
「暗がりだからと意気込んで来られてもな、むしろ来るなら勇気を振り絞って来いと言いたい、闇に乗ずるなどという戦士らしからぬ者に我の興味は引かぬな」
「まぁ闇に乗ずるっていうなら僕の専売特許っスけど、こうも欲望の思念丸出しですと僕も少し辟易と言うか……むしろ昼間と違って姫様ばかりに声が掛かるのはアレっスか、オスはやっぱり胸しか見てないって事っスか!」
「別に我は気にしないぞ、好きに物色して気に行ったのに声を掛ければいいではないか」
「こっちからアピールするなんてメスの沽券にかかわるっスよ! 女はあくまで待ちの狩りっス!」
「何処と無く野生的ながら通じるものがある気がするな」
[続く]




