[Mission-069]
前回までのMission!
バカンスも夜の部へと移行し、キャンプファイヤーで親睦を深めた昴流達であった。
しかし、急な警報と共に姿を現したのは?
[Mission-069]
地球防衛軍(SAFETY・EARTH)の本分とは、地球圏の防衛である。
では一体何から守るのか。大概は世界転覆を狙うテロリストや、隕石などの災害等の対処に当たるのが主な任務だろう。もしかしたら一部の勢力が武装したKRで侵攻してくることまで想定しているのかもしれない。
しかしだからと言って、異星人の襲撃に対しても迅速に立ち向かえと言うのは酷な話だろう。
今から約四十分前の事だ。ここより北の海域にて海中資源調査の為に展開していたSEの部隊が、謎の兵器を見つけたと言う。その兵器の特徴が、STT04に出現した機体に特徴が似ていたらしい。その事もあって、俺達は急遽SE基地の会議室に呼び集められた。
正面の大型モニターには、傘形陣に展開された輸送艦隊が映し出されていた。
その様子に生徒達がはしゃぐ。
「今って通信出来ないんじゃなかったっけ?」
「ハッハァ何でも、前回の時に報道科の手柄から有線撮影機器を持ち込むようにしたらしいよ」
「それをですね、恐らくKRに搭載されているG-HARDを通じて専用通信で送っているのではないかと」
どうやらこの映像は、実際のライブ映像の様だ。
〈目標を視認可能範囲に捕らえます!〉
〈各艦隊第一種戦闘配置!〉
艦内通信が入り、海面を無数の照明が照らす。それはさながら夜の中に突如として現れた昼間の如き眩さだった。
画像の遠方に、小さく動く何かが映る。
「これじゃ何か見えねぇぞ!」
「旧式の設備じゃ解像度に限界があるんでしょ」
「でもKRのセンサーならいけるでしょ?」
やがて画像はズームされ、対象が大きくモニターに映し出された。センサーが対象の輪郭を読み取り、画像を見やすいように処理していく。
その機体は水上を走る獣の姿をしていた。
全体は異星人の機動兵器の特徴でもある煌びやかな銀色だ。虎か獅子を思わせる猫科の猛獣を意識したかの様な形をしており、背中部分に折り畳まれた翼状の機関が窺えた。それは生物と言うよりも彫金や銅像に近い、伝説や物語に登場する鷹獅子を思い起こさせる。頭部には鬣のような装飾と、紋章が描かれ、スリット上の部分から光が漏れだしそれが眼光の如く軌跡を残す。
四肢を優雅に動かし、海面の上を駆ける様に進んでいる。海を走っている時点で、現行の人類の技術では到底考えられない構造をしているのが判る。
「何……あれ?」
「トカゲの次はライオンかよ」
「私としては、トカゲよりは良いデザインだとは思いますけれど」
「動物型って整備性悪いんだよねぇ!」
「そういや前に出てきた人型はどうなったっけ?」
生徒達から個性的な意見が溢れ出る。
その反応を見て、尾乃教官が同席するSE隊員に話しかけた。
「どうやら、外見的特徴はSTT04に現れた個体と類似していますね」
その言葉にSE隊員が頷いて答えた。
「では、今よりこの個体を所属不明敵勢兵器(EWUP)-No.03としましょう」
「近隣の避難状況は――?」
「現在第4、第5、第6部隊が当たっています、しかし作戦区域内に目立った観光名所も無いので心配はないかと」
俺はそんな会話を聞き流しつつ、部屋の隅に移動した。
ここで専門家達の推測を聞くよりも、遥かに確実に情報を得る手段が俺にはあったのである。俺は携帯端末から専用の回線を繋ぎ呼びかける。
「――それでアルカ、あれは一体何なんだ?」
〈ふむ、そちらでも確認出来た様だな。アヤツは第10機星、ビースト[ギオル]だ。ミストと同階級ではあるが、機動性や機体反応は向こうの方が上だな、こちらが攻撃特化とするなら向こうは防御特化と言える、少々厄介な相手だ〉
「少々って……具体的にどう厄介なんだ?」
〈ふむ、えっとな……指向性のS・バリアであるソラ・クレストが厄介で……しこうせいとは何だ? 後はえっと環境適応性? なんか凄いらしいぞ!〉
「……スミスにチェンジで」
〈な、我の説明の何が不服だと言うのか!?〉
「それが分からない時点で駄目だお前は、おいスミス、代わりに説明を」
〈致しかたありませんな、これも我等の勝利の為……第10機星はこの惑星の様な大地や大気のある環境下での運用を想定された機星でございます。置かれた環境下に適応した形状に変化する特性を持ち、また防御兵装であるソラ・クレストは範囲こそソラ・バリアに劣りますが堅牢さは機星随一であり、向かい合っての戦いではソラ・ソードですら貫けるかどうか怪しいものでございますな〉
「つまり真正面から突っ込むなって事か」
〈然様ですな、第10機星はソラ・クレストを持つ代わりに、ソラ・バリアは装備されておりません。上手く側面や後方から攻撃出来れば撃破は容易いでしょう〉
「判った第9機星をなるべく身軽に素早く動けるように調整しといてくれ」
そこまで話したところで、会場に急遽別モニターが表示された。何事かと皆の注目を集める中、モニター画面には妙に高揚した様子の金髪ロングウェーブの幼女が映し出される。
〈括目するがいい(Pay attention)! これから私が行う人類史に残るデビュー戦を! 松田ァァァそこで見ているか!? 私の活躍をその目に焼き付けるがいい!〉
画面は恐らく輸送機の格納庫内だろう。アリッサ教官が妙にハイテンションで[アームストロング]機に乗り込む様子が映し出される。ちなみに今この場に松田教官は居ない。
「アリッサちゃんだ!」
「おいおい出撃する気かよ……」
「あと、何か凹んでるんだけど?」
「そういや思いっきり挟まれてたもんな」
その[アームストロング]機には、巨大なヤシガニとの戦いで負ったと思われる頭頂部の凹みがやっぱりあったりする。
皆が心配する中、もう一つの画面ではSEの自律攻撃機が輸送船団より発進し異星人の兵器へと迫っていた。
自律攻撃機は旧世代に置いては最強の攻撃手段であった。遠隔操作の無人機や、誘導式のミサイルは超高精度で高威力のミサイルを指示一つで目標に無数に叩き込む。KRによって無力化されるまでは戦場では第一線で活躍していた人類の武器の一つである。
攻撃機は綺麗な隊列を組み獅子型の異星人兵器へと迫る。その機動は熟練のパイロットの如く巧みで、人間には到底不可能な軌道すら描く。俺を持ってもこの無人機に用意に攻撃を充てることは難しいだろう。そして敵機を射程距離に捕らえた無人機は、目標に無数のミサイルを発射する。
誘導式のミサイルは四方八方から目標へと迫り――しかし、獅子型兵器がスリット部分を発光させた瞬間、ミサイルは機能を停止し海面へと堕ちる。同時に自律攻撃兵器も機能を停止して、敢え無く海中へと沈んでいった。
〈報告! やはり前回と同様に無線誘導兵器等は無効化される模様です!〉
異星人の兵器はKRと同じG-HARD対応機と考えていい。いくら高性能と言っても[ネビュラ]システムのアシストを必要とする誘導式の兵器が通用する相手では無い。
〈了解、第二段階へ移行する!〉
誘導兵器の使用を諦め、今度は輸送艦甲板に砲撃戦仕様のKRⅡが射撃形態で姿を現す。同時に海中から水中戦装備に身を包んだKRⅡも出現し無誘導魚雷の発射口を敵機に向けた。
無誘導とはすなわちAIやセンサーによる誘導機能を持たないロケット弾の様な物の事だ。一応直進する様にジャイロセンサー等はあるが、基本的に命中させるには射手の腕が要求される。
〈第二射、攻撃開始!〉
指示と同時にKRⅡの砲撃が飛び、無数の魚雷が水中を進む。近年では滅多に見られない迫力の海戦である。
命中の悪さは弾数で補おうと言わんばかりの大盤振る舞いであった。飛来する砲弾を敵機はまさに獣の如き動きで、海面を飛び跳ねるようにして躱していく。水雷と砲弾が無数の水飛沫と轟音を撒き散らす中、獅子型の機体は怯む事無く艦隊へと肉薄する。
〈第二射終了! 命中弾無し、第三段階へ移行!〉
指示を受けて輸送艦隊が散開し始める。接近する敵機に対して距離を置きながら包囲網を形成するつもりの様だ。確かにKRと同様の操縦システムを持つ輸送艦隊ならば、無人機の様に機能停止に追いやられることはないかもしれないが、しかし如何せん機動力が違いすぎる。敵の水面を駆ける動きに艦隊は逃げ切れず、早くも敵機が間近に迫りつつあった。
〈敵機接近!〉
〈護衛にKRを回せ!〉
〈駄目です砲戦仕様の為、間に合いません!〉
〈乗船員退避―!〉
戦闘の一隻に敵機の爪を叩きこまれる。沈没しなかったのは流石だが、甲板は拉げ、辛うじて海面に浮いている有様で戦闘続行は不可能の様だ。
そこに。
〈お待たせしたな(Thank you for waiting)! どうやら世界は私が活躍する時を待っている様だ! 行くぞアームストロング君!〉
アリッサの方の画面は[アームストロング]機のモニター画面に切り替わり、開かれた格納庫からは戦場の様子が映し出されている。
〈ついにデビュー戦だ! KRの出資企業共の度肝を抜いてやれ!〉
アリッサの号令と共に、アームストロング機が虚空に躍り出た。
どうやらアリッサ自身は機体に乗り込んでいる物の、指示を与えるだけで操作自体はしていないらしい。前回の反省から、非常時には手動で内部から直接指示を与えられるようにしたらしい。
敵機と船団の合間に、海面に盛大な水柱を上げてアームストロング機が着水した。
その登場演出だけは及第点を与えられるだろう。
〈アレは何だ!?〉
〈味方機か!〉
〈頑張れー!〉
艦隊から盛大なエールが送られる。
アームストロング機は脚部からフロートユニットを展開し、海上で敵機を迎え撃つ。突如現れた新たな機体にも、獅子型の機体は躊躇う事無く爪を立てる。
〈迎え打つのだ! アームストロング君!〉
『了解――』
アームストロング機の可動域の広く、戦艦装甲並みに頑強な腕が、敵の爪をガツンと受け止める。火花と共に海面を飛び去ろうとした敵機を、アームストロング機のもう一つの腕が抑え込んだ。敵機とアームストロング機では、子犬と虎ほどのウェイト差がありそうなのに抑え込む出力は、確かに目を見張る物がある。
〈よしアームストロング君、砲撃用意だ!〉
『了解、240mm対艦砲展開、します』
アームストロング機の椀部が展開し、マニュピレータ兼クローが収納され、巨大な砲塔が姿を現す。旧文明時代の戦艦に搭載されている様な巨大砲なんて始めてみた。
〈磁力線放出、射出軌道確保! プラズマキャノン発射用意!〉
アリッサの指示を受けて、アームストロング機の椀部が、激しい荷電を始める。
旧文明時代に一部の戦艦しか搭載されなかったプラズマキャノンを搭載しているとは恐れ入った。KRと同等サイズのあの機体の何処に爪込んだかは定かではないが、アレを単機で撃てるならば、そして見事当てられるならば、いくら機星とはいえ無事では済まないかもしれない。
〈目標を補足! てー!〉
『機体の姿勢制御、に問題が生じています。この状態での射撃は、衝撃により転覆する恐れがあります』
〈何を言っている! 攻撃こそ最大の防御だ! 防水耐圧処理は完璧だし! 沈んだとしても問題無い!〉
『機体制動にエラー発生、現状の姿勢制御での射撃は不可能です』
〈ええい細かい調整は私がやる! いいから大人しく砲撃をしろ!〉
やはりと言うか案の定と言うか、アームストロング機は搭乗者の指示を聞かず、身動きを停止する。全員の視線が凹んだ頭頂部に注がれたのは言うまでも無い。
そんな木偶の棒と化したアームストロング機に、獅子型の兵器は容赦なく牙を剥く。
〈納得いかない(Not satisfied)! 何故いつもこうなのだァァァ!〉
高威力のプラズマキャノンを虚しく彼方へと迸らせながら、アリッサの悲鳴と共にモニター画面にノイズが走り、画面が暗転した。
続いて、艦隊の方も敵機の襲撃に遭い、次々に輸送艦とKR機が撃破されて行く。
〈作戦続行不可能!〉
〈総員緊急脱出!〉
〈退避―退避―!?〉
間もなくしてモニター画面は何も映さなくなった。
「迎撃部隊は全滅の様ですね」
妙に冷静な様子で尾乃教官が呟いた。恐らくはこの一部始終をあらかじめ予想し進言はしていたのだろう。
人間は己の目で見た事しか信じられない可哀想な生き物である。ここの上官も例外では無く、一度艦隊を壊滅させないと旧世代兵器が通用しないと言う事実に向かい合えないのだろう。あとアリッサの件については特に言及しない方向で行く様だ。
「ただちに本隊の出撃を!」
SE隊員の方は、まさかこうも簡単に壊滅するとは思って居なかったらしく、慌てて主力部隊への出撃要請を掛けようとしていた。その時。
「おおっとちょっと待ってくれるかい?」
唐突に作戦会議室に松田教官が姿を現した。松田教官は通信機を片手に、SE隊員に要求を告げる。
「今に許可をとった。本隊にうちの生徒達を同行させて貰おうか」
いきなり何を言い出すんだこの人は。
[アルカの手記-069]
「おお! 夜だと言うのに何と明るいのだ!」
「ナイトパレードっスからね、無駄に明るくして注目を集めてるんスよ」
「これはどう言ったお祭りなのだ?」
「ええっとちょっと待ってくださいっスよ、パンフレットによると、旧文明時の周辺国の豊穣際などを残っている文献から可能な限り寄せ集めて作ったとの事っス、要するに単に騒いでいるだけっスね」
「何と素晴らしい、我等の式典とは全く違って、何とも楽しげではないか!」
「そりゃうち等の式典はお固いっスからね、一般市民にゃ祭りみたいなものっスけど、当事者の僕等はお祭り気分じゃ駄目っスよ」
「不公平だ! 我等もこの祭りよの様に楽しく無責任に騒ぎたいぞ!」
「それは姫様が式典を楽しもうとしてないだけっスけど、姫様にそれを期待するのは酷っスよね」
「それで! 何処に並べばパレードに参加出来るのだ?」
「いやこれは観るだけっすよ」
「何と……我もあの台車の上に乗ってみたいぞ、どうにかならんのか!?」
「……式典の時の神輿の上はあれほど嫌がっていたのに、何が違うんすか」
[続く]




