[Mission-065]
前回までのMission!
過酷なジャングルサバイバルを終え、ついに昴流達は常夏のバカンスを勝ち取った!
差ぁこれから遊ぶぞと言う矢先に、またも彼等の前に障害が立ちはだかるのであった。
果たして昴流達は有意義なバカンスを堪能する事が出来るのだろうか!?
[Mission-065]
軌道エレベーターSTT03は観光目的で建造されている。
その為、地上の施設には観光客向けの設備が多く、代表的なモノとしては地球環境の研究施設と言う形で建てられた動物園や水族館などが有名だろう。他にも近隣の島をリゾート施設に改造したり、豪華客船の発着場を設けたりと集客に余念が無い。観光客の落とす金で維持費が賄われていると言われるくらいだ。
今の時期の様な、配給祭直後の時期は火星や月からの観光客で溢れ、地球上でもっとも人が集まる場所と言われている。
その為に近辺のホテルなどはあっという間に予約が埋まるのだが、何事にも例外は存在する。例えば軌道エレベーター関連の職員等は、専用の客室が常に用意されている。そして運の良い事に今回俺達Cクラスは課外授業と言う名目である為に、職員扱いなのである。
今俺達は軌道エレベーターから少し離れた島の砂浜に居る。
この島こそ、軌道エレベーターSTT03を警備するSEのKR部隊の駐屯所なのである。そしてKR専科の生徒として、俺達はここに臨時訓練生として降り立ったのであった。
太陽は止め処無く熱を放ち続けるが、ここはほど良い風がありむしろ清々しかった。
目の前には見渡す限りの大海原と、その遥か遠方に聳え立つ軌道エレベーター、そして果てしなく広がる大空。足元の粒子の細かい砂浜は、まるで宝石の如く輝いている。エメラルドグリーンの海はほど良い水温で、穏やかな波が心地よい音を奏でる。
そんな絶景の海岸だと言うのに、自分達以外のひと気は皆無なのだ、まるでプライベートビーチの様でテンションが上がる。Cクラス以外の人が居ないのは、まだ早朝だという事と、ここがKR部隊の訓練地であるために一般人の立ち入りが制限されているからだ。
俺達は男子は専科指定の七分丈のズボン状の水着。女子も学校指定の上はTシャツタイプの肩を覆う形で、下は太ももまでを覆うパンツタイプの水着を着て(ただしカレンのみ派手な色彩のワンピースタイプでスカートがフリル状の水着を着用)、この素晴らしい光景に圧倒されていた。
「海だ―!」
「うーみーだー!」
「ヤッホー!!」
皆各々で叫びながら、海にはしゃぐ。
俺達が波打ち際にこうも興奮するのには理由がある。確かにKR専科にも広大な海はある。しかしあちらは断崖絶壁か港くらいしか無く、遊ぶには適していない。俺達は南の島に住んで居ながらこういった観光客向けの砂浜が珍しかったのである。
「マジかよほとんど貸し切りじゃン!」
「過酷なジャングル暮らしが嘘みたい―」
「バカンス最高!」
気の早い連中が、準備運動もそこそこに海へと飛び込もうと走り出す。メイなんかは自作の銛と魚籠を装備して準備万端だ。
その瞬間、鋭い警笛が成らされた。
「おら手前ぇ等何勝手にバカンス気分に浸ってやがるよ?」
常夏の南国気分を台無しにしてくれる、ドスの効いた恫喝を放つのは松田教官である。
星屑が散りばめられたかの様な美しい砂浜だと言うのに、教官用のジャージと言う質実剛健な服装で、剣呑な表情を浮かべている。
「想定した時間内に誰一人ゴールしねぇたぁ情けねぇ……ここは心を鬼にして、手前ぇ等を鍛え直さんといかんよなぁ?」
心を鬼にっていうか、形相を含めても鬼以外の何者でもない鬼畜教官が今さら何を言うんだか。どうせ松田教官の事だ、無事ゴールしたらしたで何かしら理由を付けて訓練を課してたんじゃないだろうか。
「うむ、精進するが良い」
物凄く適当な応援をするのはアルカだ。
ビーチの脇で、日除けのパラソルを指し、ベンチに寝そべっている。南国風のカラフルな花柄のビキニ(とパレオ)に身を包み、サングラスを掛けている様子は、ちょっと鼻につく観光客をイメージしているらしい。
「……教官、あれは何なんですか?」
おずおずと教官に問いかけるのは、足を歩行補助ギプスで固定した委員長である。彼は足を負傷しているので体育を休む女子の如く体操座りで、レジャーシートに腰掛けていた。
「……俺に聞くな」
流石の教官も、アルカの存在は想定外らしい。
あれから何やかんやのどさくさに紛れて、アルカは俺達の課外授業に無理やり参加してきたのだ(しかも真面目に訓練をする気はないらしい)。同じKR専科の所属とはいえ、操縦科と指揮科とでは天と地とも管轄が違うので、教官も扱いに困っている様だ。アルカ曰く許可は取ってあるとの事。
「まぁ他所は他所、ウチはウチだ。おら先ずはビーチの端から端まで十往復!」
「「「ええー!?」」」
ここの海岸一体何キロあると思ってんだ!
「終わった者から泳いでよし!」
泳ぐ前に体力使い切るわ!
「10キロ泳いだ奴から自由行動な」
もうそろそろこの教官を黙らせないと、訓練中に死人が出るんじゃないか。誰もが不満を顕わに砂浜を走り始めた所で、アルカが徐に体を起こした。
「ふむ……そこの男、確か松田と言ったか?」
何と怖いもの知らずといった所か、松田教官をいきなり呼びつけたのである。
「あんだ嬢ちゃん?」
流石に管轄違いの生徒を恫喝するわけにはいかないのか、松田教官は少し柔らかい反応を返す。
「折角のリゾート地だと言うのに走らせたり泳がせたりでは味気が無いぞ、鍛えるにしても、もう少し遊び心が欲しいものだな」
どうやら俺達が永遠と走り続けるのは、アルカとしては楽しくないらしい。
しかし頼むから止めろ。松田教官を炊き付けるなと口に出したいのを何とか抑えて、ハラハラしながら二人のやり取りを見守る。
「ほう?」
教官は興味深そうに口の端を吊り上げる。ああなんか嫌な予感。
「折角レジャー設備が整っているのだ、ここでしか出来ないトレーニングと言うのもいいのではないか?」
「何だ、折角だからこいつらを遊ばせてやれって?」
「そうは言っていない、だが走らせたり泳がせたりは何処でも出来る、我が星でも訓練兵の練習には遊び心を重視している、基礎訓練も大事だが折角の環境を活かさないのももったいないではないか」
「……一理あるっちゃあるが、簡単に言ってくれるぜ、こっちにだって色々と制約があんだぜ、そんな中で独創性に富んだ訓練をさせろたぁな」
「ふむ無理ならば仕方ない、松田とやらは凄腕の教官と他の生徒も噂していたからな、このくらいの工夫は朝飯前だと思って居たが、いやはやただただ生徒を走らせ疲弊させる程度の訓練が限界となればもう口は挟むまい」
「……いや待ちやがれ、誰も不可能とは言ってねぇ」
そう言って松田教官は、こちらに背中を向けて、施設の方に歩きながら携帯端末をとりだす。
「おい、尾乃ちゃんそろそろ元気になったか? この辺で使えるレジャー施設をいくつかピックアップしてくれ……」
どうやらアルカの挑発に乗って、何やら独創的な訓練を仕込む様だ。
そんなやり取りを傍で聞いていた俺達は、気が気でなかった。
「……この上どんな拷問が用意されるんだ!」
「いっそ普通にマラソンとか水泳とかトライアスロンで終わればよかったのに!」
「またジャングルは嫌ですわ!?」
まったく、松田教官が何か考える時は、大抵録な事に成らないのだ。新たな地獄の特訓が生まれる可能性だってある。折角ジャングルでは誰一人欠ける事無く生き残ったと言うのに、こんな事でクラスメイトに欠員を出したくはない。
不安が広がるクラスメイトを、委員長が応援する。
「皆落ち着くんだ! こうなったら教官が何かを考えついて戻って来る前に、今課せられているメニューを終わらせるしかない! 今課せられたメニューを終えたら自由時間って言葉を流石に覆したりはしないはずだ!」
委員長の言葉に、皆は止めかけた足を再び動かす事となった。むしろ今までよりも意欲的に砂浜の行軍を開始する。その様子は訓練と言うよりも、解放を条件に労働させられている奴隷のように見えた。
そんな皆の様子を憐れみながら、俺はベンチに寝そべっているアルカへとこっそりと近づいた。
「余計な事をするなよ!」
「何だ、退屈そうだから面白くしてやったと言うのに……!」
アルカは何が不満なんだ? と頬を膨らませる。
そりゃ確かにお前からすれば面白いかもしれんが。
「とにかくお前は部外者なんだから、ここでは観光客気分で寛いで居ろ」
「これはこれで結構暇なんだがな……」
そう言って、アルカはベンチの上で大きく伸びをした。そこで大きく張りのある胸が強調され、真っ白な肌が日差しに輝く。ここに他の観光客が居たのなら、このプロポーションと美貌に注目が集まる事だろう。
「ちょっと昴流ぅ! さぼってんじゃないわよ!」
走っていない俺を見咎めて、観言が声を掛けてくる。
「とにかくすぐに終わらせるから、それまで大人しくしてろよ!」
「うむ、了解した」
会話を打ち切って、俺も訓練に戻る。
しっかし、銀髪で肌が白いからか、派手な柄の水着が妙に似合っている。もし訓練が課せられていなければ、迷わずこのロケーションを一緒に楽しむ所なのだが。
うむ、早く自由時間を迎えないとな。
そう決意した矢先、俺は何かに足をとられて転倒した。
「痛ってぇー!」
見ると海藻とかが絡まった漂流物が足元に転がっている。誰だ綺麗な砂浜にこんなゴミを捨てる奴は。
「ちょっと大丈夫?」
何人かが様子を見に来る。
「あー大丈夫だ、ちょっと引っかかっただけ、って何だコレ?」
足に引っかかった漂流物を引っ張ると、砂浜に埋もれた本体が引き摺り出される。それは思った以上に大きな漂流物だった。所々に海藻や流木などが絡まっているが、よく見れば小さいながらも人型をしている様にも見える。それに海藻に紛れて、衣服の様な物も見える。
「え、ちょっとこれって……死体?」
観言が思わず呟くと。
「失礼な(How rude)! 誰が死体か!」
唐突に漂流物が起き上がって抗議の声を発した。
「うぁ、海の藻屑が喋った!」
「誰がモズクか!」
漂流物だと思った物体は、よく見ると衣服がボロボロとなりウェーブの掛かった金髪に無数の海藻を付けた幼女だった。
「もしかしてアリッサちゃん?」
「もしかしなくてもアリッサ教官だ!」
そう言えば行には居たのにいつの間にか居なくなってたな。まぁこっちもそれ処では無かったし。
アリッサは体に纏わり付いた海藻類を取っ払いながら、やや涙ぐんだ声で経緯を語り始めた。
「ううう、救助のヘリも私を無視して去っていき何とかここまでたどり着いたと言うのに、誰も私の心配をしていないとはいったいどういう事か」
そういや教官陣も特に探してた様子はなかった様な……、何かちょっと不憫に思えてきた。
「それもこれも……私を亡き者にしようと企んだ松田の所為……んん?」
波打ち際から這い出そうとしたアリッサだが、何かに引っ張られるように海へと戻される。どうやら足に絡まった海藻が海へと引っ張られている様だ。
「誰だ私を引っ張るのは……?」
そう言ってアリッサが見つめる先で、海面から巨大な何かが姿を現した。
一言で言えばそれは巨大なヤシガニであった。
軽く説明するならば、ヤシガニとは陸上で生息するヤドカリの一種で湿度の高い場所ではたいてい分布している。通常のヤドカリよりもはるかに大きい事で有名だ。大きな鋏はヤシの実を割る事が出来るほど強力であり、青紫の綺麗な外殻を持つ。
大きいとは言っても大体40cmほどで、少なくとも今目の前に現れた、ちょっとしたテトラポットくらいの巨大に育つ事は無かったはずである。
「ひゃああああ!?」
「た、助け(Help)……!」
観言が悲鳴を上げて、アリッサは腰を抜かしてへたり込む。
地球環境の変化でピラニア同様巨大変異した個体なんだろうが、これはもう化け物の一種である。
ヤシガニは威嚇する様に鋏を振り上げ、咆哮を上げた。これの何処がヤシガニか。
「うぉなンだありゃ!?」
「お、おい誰かパルスガン持ってこい!」
「今助ける!」
慌てふためくクラスメイトの中で、迷わずヤシガニに駆けよったのはメイであった。手には手製の銛を構え、そのあまりにも巨大なヤシガニに勇敢に挑んでいく。瞳は爛々と輝き、口元は涎が溢れていた。
「今夜はカニ鍋だ!!」
「「「いや食うのかよ!」」」
俺を含めた何人かが突っ込みを入れた。
[アルカの手記-065]
「なるほどここが観光地という奴か!」
「ええっと、パンフレットによるとこの辺の島は観光に特化しているらしいっスよ、来て良かったっすねぇ姫様!」
「それで、観光とはいったい何をする事なのか?」
「そりゃ風景を楽しんだり、アクティビティを堪能したり、買い物をしたりっスかね」
「風景なら先程十分見たぞ」
「いやまぁ原生林も風景っちゃ風景っスけど。この場合はホテルやレストランの内装とか、街並みとか、客向けに整備された人口珊瑚礁とかを言うんスよ」
「なるほどわざわざ見せる為に整備された景色か、それを自然と謳うとは人間も愚かな事よのう」
「まぁ金属片で植物を象って緑豊かとか言っている僕等とどっこいな気が……」
「では先ずは観光だな! それでどうすれば観光となるのか?」
「えっと待ってくださいっスね、パンフレットに巡回ルートが」
「うむ? 我とお茶がしたいだと? ほう、丁度喉がが乾いていた所だ、観光地とやらのスタッフは気が利くではないか」
「ああ、姫様それナンパっスよ! 勝手に知らない人についていかないでって……え、僕が? 可愛い? いやー良く言われるっスけどー♪ えー? まぁお茶くらいならーいいッスかねー?」
[続く]




