[Mission-064]
前回までのMission!
相変わらずジャングルで遭難中の昴流達。
罠を張り巡らせて、謎の獣を迎え撃つ。そして今命を掛けた狩の決着の時!
[Mission-064]
草木を掻き分けて痕跡を探す。足元もおぼつかない暗闇ではあるが、折れた枝や、ガランガランと木霊する鳴子の音が、俺達を導いてくれる。
「こっちだ!」
「っしゃぁぁぁ! 今夜は焼肉パーティだ!」
「肉食動物は焼いても食えないって聞くけどな……」
皆口調はふざけているが、顔は真剣そのものだ。
追撃を掛ける際に一番してはならないのは、相手が弱っているからと油断する事だと俺達は教官に教わった。たとえ獣と言えども、生きる為に何をしてくるかは分からない。あえて息をひそめ待ち伏せし、玉砕覚悟で襲い掛かってくる場合もあるだろう。
罠にかけて機動力を削いだとはいえ、依然としてこの暗闇の中では向こうにアドバンテージがあるのは確かだ。
やがて獣の痕跡が途絶えた。
再び獣の闇がまとわりつく。
「……近くにいるはずだ、油断するな」
メイが忠告する。
「ハン、誰に行ってンだ!」
「勿論お前にだが?」
「こンの!」
まったくこいつらは、仲が良いのか悪いのか。
「喧嘩もいいが、今は狩りに集中した方が良いんじゃないか?」
相変わらずの二人を、俺が飽きれて仲裁しようとした時、蕎麦の茂みから黒い影が飛び掛かってきた。
「うおぉっと!?」
俺はその影に咥えられ、茂みの中へと引きずり込まれた。
「くのっ!?」
抵抗も虚しく、どんどん仲間から引き離されていく。
このまま獣に食い殺されるのが俺の運命ってのか!?
嫌な予感が脳裏を過る。
人間何時かは死ぬもんだし、機動兵器に乗っている以上、訓練や事故や実践で何時かは死ぬだろうって意識はあった。所詮生きている事に意味なんて無い。死ぬのが惜しくないと言えば嘘にはなるが、かと言って生き延びてやりたい事ってのもこれと言ってない。
だから運命だと割り切って受け入れるのは至極簡単だ。
しかし、操縦席意外で死ぬという事については物凄く抵抗があった。
なによりこんな所で死んだら、アルカとの約束を果たせない。
獣に無残に食い散らかされた上に「何と我が戦士はペットフードになってしまったかこいつ思ったより使えなかったな」とか言われたら悲惨を通り越して喜劇に他ならない。
つまり俺はこんな所で。
「死んでたまるかぁぁぁ!!」
こんな状況下でも電磁パルス銃を手放さなかった自分を褒めつつ、出力最大で獣の身体に銃口を押しあてる。
「くらいやがれぇ!」
最大出力の電磁パルスが迸る。あまりの出力に夜が一瞬昼間のように明るくなったほどだ。インド象すら昏倒する一撃を受けて獣は。
「――キャン!?」
と可愛らしい悲鳴を上げて、地面に倒れ込んだ。同時に俺も地面を転がる。
はて、何だか妙に女の子っぽい悲鳴だった気が、それにこの声何処かで聞いた覚えが。
先ほどとは違った嫌な予感を覚えつつ、体を起こす。
獣は電磁パルス銃の一撃を受けて、所々パリパリと帯電しつつまるでモニターが異常をきたしたかの様に所々で、ノイズが走っている。やがて獣の姿が歪んだかと思うと、それは見知った人物の姿に変わっていく。
「……痛たたた、お前のそれ次から使用禁止だな」
まだしびれが残るのか、頭を振りながらゆっくりと上体を起こす。象すら昏倒させる電撃を受けて痛がる程度と言うのが恐ろしい。
目の前の全身を銀色の衣装で覆う、銀長髪のほれぼれするほどの美人こそは、急に連絡が取れなくなった異星人アルカであった。
「……手前ぇ」
「ハッハッハ! どうだ凄いだろう? 本物の動物と見間違えただろう! これぞ偽装地形の応用技術、偽装外装である! これにより我の潜入範囲が格段に上がること請け合いだ!」
「……んな実験なら、地元で密かにやればいいだろ、何でここに居やがる?」
「それはなぁ、何だかお前の部屋で呼んだ漫画のような展開になっていたから、折角とばかりに我が演出してやったのだ! どうだ結構迫力があったであろう? 楽しんでもらえたかな? うん? 何で無言で近寄ってくるのだ? おい、その銃口を我に押し付けて一体何を? ――キャン!?」
とりあえず電撃は大して効かないようなので、遠慮無く電磁パルス銃を撃つ。
「痛い痛い痛いいたたたた、ちょっ!? やめ……あああぁぁぁぁ……!」
とりあえずアルカが叫ばなくなり、ビクビクと小さく痙攣を始めた頃合いで携帯譚あmつのバッテリーが無くなった。
「ったく人騒がせな」
「……くぉの、我に向かって何たる仕打ち! ちょっと漏れたではないか!」
何が漏れたかは聞かないでおく。
「自業自得だ。とにかくとっとと通信異常を解消させろ、こっちは怪我人も出てるんだぞ」
「通信異常? それは我の預かり知る所ではないが?」
「嘘を付け、現にこうして俺達が遭難してるのはお前が通信を遮断しているからじゃないのか?」
「いや、我がファルアタートで追いついた時には既にこの状況だが」
ここでアルカが嘘を付く理由も無い。
って事は本当にこの辺は電波の通じない魔境だったって事なのか? いやいくら何でも衛星通信が不可能ってのは在り得ない。
「それに、焦らなくても救助なら来ているぞ」
そう言ってアルカが指さす方向から、軽快なプロペラのタービン音が響いてくる。
「あれは貴様のお迎えではないか?」
確かにあの輸送ヘリは行に俺達が乗っていたのと同じ[ホーネット]に間違いない。
しかし同時に外部スピーカーから助かったと思う気持ちを根こそぎ吹き飛ばす、松田教官のドスの効いた声が流れる。
〈オオーイ、誰もゴールに辿り着けねぇとは不甲斐無ぇにもほどがあんぞ! ゴールテープを持って三日間粘った尾乃教官に申訳無ぇとは思わねぇのか! 全員一から鍛え直しだ覚悟しとけよ! それとも全員死んだか?〉
一瞬本気でこのジャングルに行方をくらまそうかと考えないでもなかった。しかしようやく帰還出来る日常が恋しくないはずも無い。
色々と腑に落ちない物を胸に抱えながら、俺は迎えのヘリに手を振ったのだった。
[Epilogue]
辺りは静けさが肌に染み込む様な、心許ない闇に満ちていた。
ジャングルの奥地は、私の心を一回りも二回りも大人にしてくれる。
私は高性能バイザー越しに空を見上げる。
「なるほど(I see)、南十字座がそこだから方角は間違っていない様だ」
方角を確認して私はバイザーを白衣の下に戻す。
ここまで非常に長い道のりだった。雨には打たれ空腹に倒れ、思わず口にした木の実に腹を壊し、水場に辿り着けば変な魚や鰐に襲われ、それでも私は生きながらえてきたのだ。
それもこれも。
「許さんぞ(Unforgivable)松田ァァァ! こうして私を始末出来たと思って居るのならばぁ残念だったなぁ! 私は生きているぞォォォ!」
枝にあちこち引っ掛けて衣服はボロボロで体中垢と泥まみれで、体力も限界ではあるが、それでも歩く力を緩めないのはひとえに復讐心のなせる業だ。
このまま松田の思い通りにジャングルで朽ち果ててなる物かと言う気力が、私をここまで歩かせたのだ。はぁお腹空いた。ドーナッツとか食べたい。
その時、不意に遠くでヘリの音が聞こえた気がした。
「奇蹟だ(It's a miracle)! おーい、私は此処だー、人類の至宝である私は此処だぞォォォ! おい聞こえてんだろ! うわっぷ!」
全力で手を振ったにも関わらず、ヘリは私の頭上を通り過ぎていった。
さらに無我夢中でヘリを追いかけた拍子に、流れの速い川に足をとられてしまったではないか!
「私は、必ず帰って来る(I will surely come back)! 必ずだァァァ!」
激流に私の声はかき消された。
[Mission- continue……]
[アルカの手記-064]
「痛たたたた……まったく冗談の分からん奴だ」
「お疲れさまっす姫様」
「うむ、折角我が自らサプライズイベントを提供したと言うのに」
「しっかし姫様自ら獣になる必要あったんスか?」
「これはこれでなかなか。動物型の外装は機星データにあったから前から使って見たかったしな」
「ああ、一応色んな星に潜入出来る様に生体外装は考えられてるっスから」
「あとこの星の生態調査も兼ねていたからな」
「なるほど自然に潜り込むには獣の姿でって事っスか、なかなか考えてるんスね」
「ついでに奴らの周辺から危なそうな獣を追い払う必要もあったしな」
「おお、ちゃんと安全は確保してたんですねお優しいっス」
「まぁな、何せ欠員が出たり、流血沙汰になっては視聴者から批判が出るからな、出演者の安全は最低限確保しなければいかん」
「……何処に投稿する気ッスか」
[続く]




