[Mission-062]
前回までのMission!
ジャングルを遭難中の昴流達。
何とか脱出の糸口を見つけるが、委員長が負傷してしまう。
果たして脱出する事が出来るのだろうか?
[Mission-062]
俺の空間把握能力を持ってすれば、ジャングル脱出なんて朝飯前だね。
そんな事を思っていた若かりし頃が俺にもありました。
いつの間にか日は結構傾いて、携帯端末の明かりを付けなければ歩くのも難しくなり始めていた。携帯端末の残量も無制限では無い。こんな事なら焚火で松明でも作っておけばよかった。
そして、俺は皆に言わなければならない事がある。
「すまん、迷った」
「ハァおい今何つったぁ!?」
「ちょっとっ!」
「信じられません!」
俺の一言でみんなが一斉に罵声を飛ばし始める。
しかしちょっと待ってくれ。先ずは俺の弁解を聞いて欲しい。
大体、木で覆われて太陽の位置も分からないし、妙な磁場があって方位磁石も効かない。挙句に通信でアルカに位置を聞こうとしたら一向に出やがらねぇ。こんな状況で道に迷った俺を誰が責められよう? いやむしろこの状況で迷わない奴が居たら、その方法を教えてくれ!
等と仲間に逆切れした所で、許しては貰えないだろう。ここは素直に頭を下げるに限る。
「いやほんっとスマン!」
「このクズが!」
「サイテー」
「マジ使えませんね!」
ここは罵倒を甘んじて受け、嵐が過ぎるまで耐えるしかあるまい。
すると、担架に乗せられた委員長が皆をなだめる様に声を上げる。
「その辺にしておけ」
「でも委員長! こういう奴はここで締めとかねぇとよー」
「それよりもうすぐ夜になる、備えておく必要がある」
そうだ委員長の言う通りだ、ここで俺をつるし上げるよりもするべき事があるだろう。
「でもさ……」
フレックスが言い返しかけたが、そこでもう足元がもう見えなくなりつつある事に気付いた。
ジャングルがその本性をあらわにしようとしていたのだ。
周囲は深い闇に染まっていた。鳥の鳴き声もピタリと止み、静けさが満ちる。しかし深い闇の奥に何も居ない訳では無い。無数の生き物の気配はある。それらはこちらを窺うようで、見定めるようで、どうにも居心地が悪い。
まるで闇その物が、黒くて大きな獣のような気配すらする。
俺とジェスティ、そしてフレックスは無言で銃を構えた。
他の生徒は、携帯端末の光で周囲を照らし出す。ほんのわずかな獣の痕跡が暗闇に増幅され、今や幻視の化け物の様に俺達に付きまとっていた。
「……今日はこれ以上進むのは無理だな、六郎、何人かで薪を集めて火を熾してくれ。銃を持ってる奴は護衛に一人付いて行ってくれ、残り二人はこのまま周囲を警戒だ」
「ああ」「そうだね」「おう」
委員長の指示に従い、皆キャンプの準備を始める。
六郎と副委員長と、あと観言とメイで集めた薪に委員長が着火剤で手早く火を付ける。それで周囲に渦巻く得体の知れない恐怖が暗闇ごとかき消された。これで全員ようやく安心できると思った矢先に。
「キャッ!?」
観言が小さく悲鳴を上げた。
「どうした?」
どうせ観言の事だ、変な甲虫とかでっかい蛾でも見たんだろうと俺は問いかける。
「あの……向こうの茂みで、何かがね、見えた気がしたんだけど……」
「何を見たって?」
観言の説明は要領を得ていなかったが、それでもあれは何かの生き物だったと告げた。
俺は委員長に視線だけで許可を求め、携帯端末のオプション機能で周囲をスキャンしてみる。
〈システムオフライン、スキャンモード起動します〉
端末から機械的な音声が流れ、周囲を電波や音波、そして赤外線などで探って行く。携帯端末の拡張機能の一つであるこのスキャン機能は、検査範囲こそ狭いがKRに搭載されているセンサーを応用したものである。昆虫や微生物と言ったあまりにも小さ過ぎる物は対象外ではあるが、小動物や人間大の生き物ならばまず見逃さない。
〈周囲1000m以内を探索、生徒識別のある対象は除外します……検出、体長1m以下の小型生命体の反応228〉
これはネズミやトカゲとかの小動物の事だろう。
〈……指定範囲内に1m以上の大型生命体は存在せず、スキャンモードを終了します〉
「だとよ、鼠か何かでも見たんじゃないか?」
まったく人騒がせな観言さんだ。そう嘆息しようとしたが。
「……うそ、絶対1m以上はあったもん! おっきい獣だった!」
観言はスキャンの結果を認めなかった。
「じゃあ何か? その動物はスキャンを逃れるステルス能力でも持ってるっていうのか?」
言っておくが、樹上に居ようが地面に潜って居ようが、体色を変化させようがこのスキャンからは逃れられない。生物である以上何も痕跡を発しない事は出来ないのだ。このスキャンは体温や呼吸等の様々な要素を調べるのである。このスキャンで検出出来ないのは、俺達みたいにKR専科所属の信号を発していて除外されるか、もうすでに死んでいて死体となっているかである。
「スキャンが始まる前に範囲外に逃げたのかも……」
「あのなぁ……」
スキャン範囲は半径1000mだ。あの一瞬で範囲外に逃げるとなると空でも飛ばないと無理だろう。
「それともお前の見た獣ってのは、羽根でも生えていたのか?」
「……でも、確かに見たの、信じてよ!」
嘘を言っているようには見えないが、誰だって見間違えることはある。そこに。
「分かった、全員警戒を緩めない様に。今夜は男子が交代で周囲の警戒に当たる。もし水辺から追ってくるような賢い奴なら簡単には諦めないだろう、対策は明日考えよう」
「委員長信じるのか?」
「疑って対策を怠った結果生じる損害と、信じて講じた対策が無駄になる損害、どちらかを選ぶならなら俺は後者をとる。それに――」
委員長は不安げな観言を見て、確信を持ったように頷いた。
「あの三森が眼で見た情報を間違えると思うか?」
その意見には俺も頷くしかない。
何と言っても観言はCクラスのナビゲーターの総合指揮を担当しているのである。戦場に飛び交う無数の情報に目を通し、重要かそうでないかを一瞬で見極める。その観言が、この様な危機的状況下で誤情報を伝えるか? 答えはノーだ。
むしろ、スキャン結果と観言のどちらを信じるかならば迷わず観言を選ぶだろう。
「昴流……」
「分かってるよ、お前の言ってる事が嘘じゃない事は、だからどんな奴かを聞いてるんじゃないか」
もし観言の言う通り、こちらを狙っている獣が居るなら厄介だ。その獣はどうゆう訳かこちらのスキャンを逃れる術を持っているのだ。そして恐らく向こうからはこちらの動きが丸見えなのだろう。
「何かB級映画っぽくなってきたな」
「ちょっとふざけてる場合!?」
いやいたって真面目だとも。
しかし何が悲しくて、ジャングルで未知の生物と戦わなきゃならんのか。こういうのは旧文明ならば軍人とか傭兵部隊の仕事だろうに。そして大体彼らの末路は主役一人を残して全滅と相場が決まっている。さてこの場合、主役が俺だと文句は無いんだが。
「いやはや、とんでもない事に成ったな」
ただの遭難からいつの間にやら映画の世界だ。
それが、あの時の夜と重なって……むしろちょっと楽しんでいる自分が居るのだが、それは言わないでおく。
[アルカの手記-062]
「うーむ、困ったな」
「おや珍しく真剣な顔してどうしたんスか?」
「我が戦士がばっかんすに行っているのでな、お土産を頼もうと思ったんだが」
「いや今彼そんな呑気な場合じゃないと思うんスけど」
「何だと! 使える主君にお土産を持って帰るのは戦士の務めであろう!」
「カッコいい事言っているように見えるっスけど、これ結局ただの我がままっスからね!」
「我としては現地でしか味わえぬお菓子などが良いと思うのだが、こう言った木彫りの像とかも趣きがあっていいと思うのだ」
「あー、これなんか何味なんだ! って気になるっス。あ、僕こういった髪飾り系もイケるっスよ」
「しかし我が戦士の出掛ける際の口調からすると、恐らく適当にマカダミアナッツとかになりそうな気がするな」
「いいんじゃないっスか、マカダミアナッツ美味しいっスよ?」
「買えるのだ! 我が戦士が常駐する島にも堂々と売り出されているのだ! そんないつでも食べられるモノよりも、この時にしか味わえない思い出が我は欲しいのだ!」
「あーでもそういう気持ち彼わかってくれなさそうっスね」
「まったく乙女心を理解しない奴だな」
「……乙女……心?」
[続く]




