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[Mission-058]

前回までのMission!


 ジャングルでの遭難中、偶然にもメイと合流を果たした昴流であった。

 メイはさらに他の生徒の姿を見たと言うが、何故か合流はしなかった。そのことを問いかけると、ついて来いと言われ、つれて来られた先には?

[Mission-058]



 Cクラスの鉄砲玉こと3番機パイロット、フレックスは強気で短絡的で向う見ずな男だ。

 他のクラスやメンバーからは[墜落王(エース)]と呼ばれている。

 金髪をバンドマン風に逆立て、服装のセンスも革製品とかダメージ加工とか、髑髏とかを好む傾向にある。所謂悪役気どり(DQN)であり、何を置いても彼を示す言葉に[馬鹿]以上の言葉が見つからない。

 先日も銃器を分解しメンテをして組み立て直す授業にて。

「教官、銃の分解掃除終わったぜ! でもこの銃不良品だぜ!」

「ほう、どうしてそう思ったのか理由を述べよ」

「組み立てたのに部品が何個か余ってンだよ、粗悪品だな!」

「……それは貴様の頭の方だ!」

 などと言う会話が交わされたのは記憶に新しい。

 しかし頭の容積が少ない代わりに、どんな状況下でも生き抜くしぶといタイプだと思われていた。しかし、ジャングルの奥地に取り残された事が、彼の中で何かしらが覚醒したのか、妙に弱気な姿を同級生に晒しているのである。目の前で起こっていることは現実か? むしろ遭難して幻覚を見ているのはこっちの方かと疑いたくなる。

 そして、そんな彼の胸中を受け止め、優しく支えているのが恐ろしい事に彼のチームメイトでナビゲーターの百川である。模擬訓練などでは主にタイムキーパーを務める事が多い。その寸分の狂いも無く機械的に時間を読み上げる姿は、リアルに体内時計埋め込まれてんじゃないかと疑うほどである。

 基本的に無表情で、言葉の抑揚も少なく無口な方で、普段から何を考えているか判り辛い。一部の生徒の間では人造パイロットのモデルケースではないかとか言われている。以前その事をデリカシー皆無のフレックスが問いかけたら「私が死んでも代わりは居るもの」と答えたので茶目っ気はあるらしい(ちなみにフレックスにはその返しが伝わらなかったらしく、直後に両手で顔を押さえてちょっとテレていた)。

 そんな人間味の乏しい百川が優しく聞き役に徹しているのだ。驚きを通り越して恐怖すら感じる光景だ。

 現在俺達KR専科Cクラス一同は、鬼教官の殺意すら感じる策略に嵌り、目下ジャングルを遭難中である。

 その最中、クラスメイトが二人っきりだと思ってプライベートなイベントシーンを展開しているのだから、これはもう黙って見守る以外に選択肢はあるか? いや無い。

 しっかしこの二人がねぇ、はーん、ふーん、意外だ。

「俺は怖いンだよ」

 俺達に覗かれているとも知らずに、フレックスは百川の顔を見ずに語り始める。

「……どうして?」

「今までは何か現実感がなかったンだ、ただこう慢性的に生きてるっていうかさ、でもこうやって生き抜く事に大変だって感じると、途端に色々と怖くなってきちまう……」

「怖いのは皆同じ」

「そうだけどよ……もし皆に何かあったらって思うとよ、あの日常にもう戻れないとかになったら、俺ぁもう……」

「あんまり悪い方に考えるのは良くない、水でも飲んで落ち着こう」

「駄目だ百川! あ、いや……川は何か危ない奴いるし、まだ水筒に水も残ってるしよ」

「……でも水の濾過に時間もかかる、今の内に継ぎ足しておくべき」

「お願いだ、傍にいてくれ……この上お前まで居なくなったら俺ぁ――」

 その時百川は思いがけない行動をとった。

 何と暗い表情をするフレックスの頭を両腕で包み込むように抱え込んだのだ。

「大丈夫……私も、Cクラスの皆も、そんなに弱くない」

 そして覗き込むように顔を近づけて続ける。

「……勿論貴方も」

 あれほんとに百川だろうか? 百川の仮面を被った観言か葵姉さんじゃあるまいか。百川にあんな人に優しく接する一面があるとは思いもよらなかった。課外学習じゃ普段見られないクラスメイトの一面が観れると言うが、これがまさしくそうだ。

 確かにこんなイベントシーンを見せられては、じゃぁ後は二人でごゆっくりと踵を返すしかあるまい。

 俺は隣で同じように出歯亀をしているメイと顔を見合わせ、同時に頷いた。

 そして音を立てず静かに退席しようとした、その時だ。

「ああああ! フレックスぅぅぅぅ!?」

 何時の間にか行方知れずになっていたジェスティが、茂みの向こうから大声を上げて姿を現したのである。当然突如の乱入者にいい雰囲気の二人はパッと距離を離してしまった。

「お、おお……ジェスティ! 無事だったか、良かったな!」

「フレックスぅぅぅ! 心配したんだよ! 僕ははぐれちゃったけど、たぶん近くにメイと昴流も居るはずだよっ!」

 むぅ、ここまでバラされてしまっては、再びあの空気になるのは難しそうだ。俺とメイは目線で頷き合って起き上がった。

「こんな所に居たのか、全然気づかなかった」

「よう、元気かー?」

 俺達の登場に、フレックスは一瞬破顔するほどの笑顔を見せた後、すぐに表情を取り繕って、普段通り睨めつけてくる。

「ああン? 手前ぇらよく無事だったなぁ?」

 これが彼の普段の態度なのだが、先程の姿を見た後では虚勢にしか見えない。

「そっちも無事そうだな」

「ってか、こっちは川でピラニアに食われそうになったくらいだけどな、そっちはなんかあったのか?」

 俺の問いかけに、フレックスは急に重苦しそうな表情をし出した。そして絞り出すような声音で続ける。

「……俺は、見つけちまったんだ、誰かの、死体を」

 その言葉が皆に浸透するのには、暫くの時間を要した。

 急に重くなった場の空気に耐え切れず、ジェスティが乾いた笑い声を上げた。

「あはははは、まったくフレックスは、冗談もいいけどTPOに合わせたネタじゃないと皆笑い処がわからないじゃないか!」

 しかしジェスティの言葉を否定するように、フレックスはゆっくりと首を振った。

「冗談じゃねぇンだよ、向こうの方で俺は見ちまった……俺達の中に、既に死んだ奴が居ンだよ」

 ザァァ――と、木々が揺れる。

 そんな馬鹿な在り得ないと、口先で否定するのは簡単だ。しかしここは普段のKR専科では無い。未開の土地ジャングルだ、誰がどうなってもおかしくはない。

 しかし一体誰だ。

 今の所確認出来ていないのは、委員長の空鷹に副委員長の葵姉さん、そして六郎とシルビアだ。ううむ、この中じゃぁシルビアが一番死にそうだが。

「とりあえず死体を見よう、案内しろ」

「こっちだ」

 何処までも冷静なメイに促され、フレックスは死体を見つけたと言う場所へと重い足取りで向かう。

「気を落とすな、死体と曖昧に言うって事は誰の死体か特定出来ない状態って事だろう、なら我々以外の者かもしれないぞ」

 茂みを掻き分けながら、メイが気休めを言う。その場合、俺達はその誰だか判断出来ない状態の死体を拝みに行く事になるんだが……うん、飯を食う前で良かった。

「これだよ」

 茂みを抜けた所で小さな広場に出た。そこは昨日の雨に流されてはいるが、何かが襲われたような形跡がある。そして散乱する白骨化した死体。

 いや白骨化してんなら確実に俺達じゃねぇよ。

 彼の言う死体を一瞥してメイが簡潔に述べる。

「これは猿だな」

「は、え、猿?」

「多分この辺の樹上に住んでいるんだろう、骨が全体的に小さいし、頭蓋骨が人間とは形が違う」

「ハン、に、人間と猿の頭の区別なンか付くかよ!」

 いやつけよ、それくらい。頼むから。

 これだから極限状態に馬鹿が居ると困るんだ。あーもう、ちょっと一瞬背筋が凍ったぜ。

「マジかよ……俺はてっきり、あー良かったー、ンじゃ誰も死ンでねぇンだな!?」

「まぁ今の所は」

 メイもこいつの馬鹿さ加減に飽きれたのか、ちょっと含みある言い方をして見せる。

「まったくフレックスは早とちりなんだから、あーもう体重が二キロくらい減ったよ!」

 とジェスティは汗を拭う。

「……私は知ってた」

 そう語るのは百川だ。

「ハン!? 何で……俺ぁ怖がるかと思ってお前を近づけないようにしてたのに」

「……大体状況で察せる」

 そう言って、百川はチラリと俺とメイに視線を送ると。

「それにいい感じにドッキリ大成功」

 意味深に頷いて見せた。

 どうやら、覗かれていたのは俺達の方だったみたいだ。

「何だよ心配したじゃンかよ! 良かったなぁー誰も死んでねぇンだとよ!」

 一方フレックスは安心して感情が何処か暴走したのか、百川を抱きかかえるようにして振り回す。

「……は、離……」

「ハハハァ! まぁ俺様の認めた連中に限って、そんなヘマはしねぇと思ってたけどな! ハハハ!」

「…………うー」

 振り回されて、百川の表情が次第に紅くなっていく。まぁこの年になって子供みたいに抱きかかえられて振り回されるのは恥ずかしいだろう。やがて。

「痛ってェ!?」

 百川がフレックスの腕に噛み付いてようやく自由を取り戻す。

「何だよ噛むこたぁねぇじゃンかよ」

「……とりあえず全員合流しよう」

 百川はフレックスの言葉は無視して、メイに先導を託す。そして振り返ってフレックスに短く。

「……続きは帰ってから」

 そう呟いたのだが、舞い上がっていたフレックスは歩き始めたメイを追って掛け出した後だった。

「っしゃ! 待てよメイ! 俺が先導するって、何? 場所なンざ勘でどうとでもなるぜ!」

どうやら、百川の呟きを聞き届けたのはどうやら俺だけだった様だ。チラリと百川の様子を見ると。

「……うー」

 顔を両手で覆って後悔してらっしゃる。

 どうやら先程の全てが演技と言う訳ではなさそうだ。

 クラスメイトの思いもよらない可愛らしい一面を、俺は心のアルバムにこっそりと保存するのであった。


[アルカの手記-058]


「イベントシーンだ!」

「うぉいきなりなんスか姫様!?」

「こんな所でまさかのイベントシーンだぞ! 予想外であった、いやはやどう選択したかは覚えていないが、まさかこんなシナリオになるとはな!」

「あー、最近そういうゲーム始めたんスか」

「一つ一つ思い出を積み重ねると言うのも、悪いものではないな」

「っていうか、このシーン……狙ってるキャラだとしたら完全に別の相手とのカップリングなんスけど」

「バッドエンドも一つのイベントだ、それに先にバッドエンドにしてから攻略した方が感慨深いだろう!」

「ああ、フルコンプ狙うんスか」

「しかし、いつに成ったら我のイベントは発生するのだろうな?」

「そりゃ姫様、部屋に引きこもってばっかっスからね、自分で動かなきゃイベントは起きないっスよ」

「何を言う、こういう場合向こうからわざわざ我の部屋に訪れると言うシーンを待っているのだぞ!」

「向こうが誰かってのは聞かないで置くっスけど、そもそも相手は姫様の部屋知ってるんスか?」

「…………はっ!?」

「根本的な問題があったっスねー」

「いかん、我が何時も奴の部屋に好き勝手出入りしていていつの間にか、家が隣同士の幼馴染な気分でいた」

「まぁそもそも姫様の部屋によそ者が入る事はスミスが許さないと思うっスけどね」

「ふふふ、この手のイベントは障害が多いほど燃えるのだ!」

「っていうか、相手が姫様の部屋に来る理由がまずないっスけど?」

「それなら問題はない、奴の部屋から色々と漫画やゲームなどを持ち去っているからな、そのうち返せと怒鳴り込んで来るに違いない!」

「それで姫様が良いっていうなら良いんスけど……」



[続く]

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