[Mission-054]
前回までのMission!
甘い言葉に騙されて、まんまとアフリカ大陸まで連れて来られたCクラス一同は、松田教官の罠に掛かりジャングルへと投下されてしまう。昴流の運命や如何に!
[Mission-054]
気が付くとそこはジャングルであった。
熱帯雨林とは、年間を通じて高温多湿なアフリカ大陸等では広く見られる地帯を指す。高さ50m以上の樹木が生い茂り、その中で多種多様な生物が犇めく様は、人類が文明を築く遥か以前の原始の生態系を見せつける。
ここは動植物の楽園だ。
いくら文明人と言えども、個人ではこの大自然に容易く蹂躙される事だろう。
まぁもっとも、枝にパラシュートが引っ掛かり木の実の如くぶら下がっている現状はむしろ、見事に自然に溶け込んでいると言っても過言ではないが。
「あの教官、頭イかれてんのかね……」
生徒をヘリから投棄するとは鬼を超えて修羅だな。
「さてとどうするか……」
落下時は流石に慌てふためいたもののいざ落ち切ってしまえば冷静となる。と言うかぶら下がってからそこそこの時間が経過して、嫌でも冷静にならざるを得なくなったと言うべきか。
このまま樹上生活に適応出来るよう進化を待つのも悪くはないが、流石にそれを待つよりはポケットからナイフを取り出す方が状況打開には近道だろう。
とりあえず無暗にパラシュートを切ったりはせず、まず引っかかっている枝の方の切断を試みる。何本か引っかかっている枝を掃うと、ほどなくしてズリズリと自重で落ち始めるので、太い枝に手を掛けて木の幹の方へと移動する。途中で枝に、パラシュートの紐の一部を引っ掛け(反対側を手に持つ)、それをストッパーにして幹を安全に降りて行った。
途中で飛び降りたが苔の生した地面は柔らかく、落下の衝撃をほとんど吸収してくれる。
持っていた紐を手放し、残った方を手繰り寄せるとパラシュートも地面に落ちてきたのでそれを両手でキャッチする。傘の部分を折り畳みつつ、紐や骨組みと格闘する事数分、何とかパラシュートを元の格納状態に収める事に成功した。
もっともパラシュート自体の機能は使い捨ての為、再び高所から飛び降りる事は出来ないが、これはこれで組み替える事で簡易テントになるサバイバル仕様なのだ。重量も1kg未満と持ち運びにも便利だ。
以前の経験からサバイバル講習は真面目に受けるようにしていたので、いざこういう事態になっても次にやるべきことが見えてくるのである。
っていうか。
「結局また遭難かコレ……」
いい加減原生林に囲まれるのも慣れてくるという物だ。
とりあえず、ポケットから携帯端末をとりだしてみる(この制服には携帯端末専用のポケットがあり、とりあえずそこに入れとけば端末を落として紛失する事も壊れる事も無いという)。
起動してみる。
「とりあえずここ何処?」
〈統括ネットワーク[ネビュラ]とリンクが切断しました、周囲の地形と詳細地図との照合不可、現在地不明です〉
むぅやはりか。あの教官が携帯端末で簡単に帰ってこられる所に俺らを送る訳が無い。恐らく周囲に人が住んでいない前人未到の秘境に置き去りにされたのは明白だ。
案の定、通信は圏外。この状況は何処かデジャブを感じずにはいられない。
しかし前回の俺とは違う所もある。それは。
「アルカ、スミスでも良い、今居るか?」
携帯端末の新たに追加された[生体波動通信]とやらに語り掛けてみると。
〈うむ我が戦士よ、ばっかんす? とやらに向かったのではなかったか? それとも早くも我の声が恋しくなったか〉
通話は不可能と言う状況なのにもかかわらず、端末からアルカの声が響いて来た。これぞあいつらが俺の携帯端末に勝手に追加した機能だ。何でもCを使って俺の生体波動を検知し、その波動に通信情報を載せて送受信しているらしい。普通の電波通信では無いので、(今後そう言った目には是非とも遭いたくはないのだが)地下深くに幽閉されようが通信可能なんだとか。
「今はそうかもな」
〈ほう珍しく素直だな〉
人間生身で大自然に放り出されれば素直にもなるさ。
「とりあえず現在位置を教えてくれ」
〈現在位置? 何か大きな大陸にいるな〉
それは分かってる。
「もっと詳しく」
〈ふむ、木が沢山あるな〉
異星人を頼った俺が馬鹿だったと言うのか。
「もういい……スミスに代わってくれ」
そもそも地球の事を何も知らないこいつに縋るのが間違っている気がしてきた。
ほどなくして通信から、マスコットの音声が響く。
〈貴様姫様に何たる言い草か! 恥を知れ! 今我々は潜伏活動中だ、大規模な惑星スキャンを掛ける余裕が無いのだから、この星の地形を把握できなくても仕方あるまい〉
「じゃあ何か物資の補給とか出来ないのか?」
せめて水と食料くらい送って貰えれば、危機感も薄れるんだが。
〈現在位置では転送の有効範囲外だ、それに[ファルアタート]の転送は生体波動、つまり人物を起点としている為に物質のみの転送は行えん、諦めろ〉
くそ超科学持ってるくせに仕えねぇなこいつら。仕方ない、気楽な話し相手が出来ただけでも良しとするしかなさそうだ。
幸いにも軽装とはいえリュックの中に、ペットボトル飲料一つに手つかずのお菓子少し、課外授業という事で持ち出し許可された携帯端末の拡張パーツ一式が揃っている、バッテリーは節約すれば一週間はもつだろう。パラシュートもテントとして使える。サバイバル用具一式を身に纏っていると分かれば、意外にもやる気が出てきたりするものだ。
不意に、密林の奥から得体の知れない獣の鳴き声が響いた。それに合わせて様々な動物の鳴き声や、茂みを動く音、羽ばたく音がそこら中に響き渡る。
咄嗟に携帯端末を拡張パーツに差し込み非殺傷銃形態に組み替えようとしたのだが、焦って取り付け口を間違えパーツがバラバラと地面に転がる。
何時の間にか森のざわめきは収まっていたが、樹海特有の薄暗さが妙に心を疲弊させる。
うーん、駄目かも知んない。
所詮文明人の気概など、大自然の前にはこの様にちっぽけなのだと思い知るに至った。
[アルカの手記-054]
「何故だ! 何故わからない!?」
「そりゃこっちの台詞っスよ!」
「チップスはうす塩であろう!」
「いいやコンソメパンチっスよ、これがベストアンサー!」
「何という事だ! 折角我の価値観が共有出来ると思って居たのに、こんな所で対立構造が出来てしまうとは! 世界は何と恨み辛みに満ち満ちていると言うのか!」
「いやいやそれはこっちの台詞っスよ、この世界に踏み込めばこの味の良さに気づかないとはどうかしてるっスよ!」
「うす塩は全ての基本だぞ! これを失くしてチップスの何が語れると言うのか!」
「いやいやいや嗜好品と言うのなら、美味しさに重点を置くべきではないっスか!」
「何ぃ? それほど言うのならちょっと交換してみようではないか!」
「そうっスね!」
「……うむ、美味いな」
「美味いっスね」
「やはり塩ばかりだったから味の変化は嬉しいな」
「こうなるとサワークリームとかいけるっスよ!」
「な、何だと!? サワークリーム……だと、まさか貴様もうそこまで!?」
「……いや、単なる味の一種じゃないっスか?」
「単なる味の一種だと……? 貴様どの様な心がけでお菓子を口にしているのだ!?」
「いや逆に姫様はどんな覚悟で口にしてんスか……?」
[続く]




