[Mission-052]
前回までのMission!
初めての実機訓練を終え、配備された専用機をボロボロにした昴流達。
彼らの次なる訓練とは!
[Mission-052]
食堂には重い空気が流れていた。
軌道エレベーターは宇宙に繋がっている事もあり、基本的に全ての施設が24時間稼働し続けている。その為併設されたKR専科もほとんどの施設は24時間いつでも利用できるように解放されてある。
それでも正規の朝食の時間をやや過ぎた頃合いでは、実機訓練を終えたCクラスの生徒以外の人は見当たらなかった。正規の時間に間に合わなかったからといって、朝食が取れないと言う事は無い(人気のメニューが品切れする事はあるが)。また朝だからと言って朝食メニューしか選べないと言う訳でも無いが、皆食事があまり喉を通らない様子で、軽食を頼んでいた。
何故朝食の時間が遅れたかと言うと、破損したKRⅡの回収と輸送に思いの外手間取ったのだ。被害の甚大さにエンジニアチームがやや放心していて使い物にならなかったのも原因の一つだろう。
そう言う訳で、並ばずにメニューが選べるし座る場所にも困らないと言うのに、Cクラスに流れる空気はややどんよりと曇っていた。
訓練終わりに訪れる倦怠感とは違う、何処か重苦しい気配だ。
「しっかしさー、次の実機訓練どうすンだー?」
俺の隣に座る金髪の男子生徒、フレックスの何気ない呟きに俺達パイロットが集まった机にため息が漏れる。
「……四機中三機が破損、うち一機は大破だったな」
俺の正面に座る背の高めで肌を褐色に焼いた女子生徒、メイが何か言いたげな目で俺を見る。
仕方ないだろと言った表情で俺は言葉を返した。
「勝つ為に必要な事をしたまでだ。ってか、他の機体の損傷って全部お前の大砲の所為だろ、そこん所どうなんだよ」
いくらペイント弾と言っても、KR用の120mm砲で打ち込まれたら、頑丈さに定評のあるKRⅡとはいえ無傷では済まない。特に手足に当たればフレームごとひん曲がりかねない威力だ。俺は当たらなかったが、後で他の機体を見てみると鉄球でも当たったかのように装甲がぼこぼこだった。
「兵器とは摩耗する物だ、こういった所で戦争という行為の浪費加減を思うのだな」
メイは何か感慨深く目を閉じて頷いて見せた。
「駄目だこいつ反省する気配がねぇ」
そういう俺もまったく反省はしていないがな。
「いやお前等ちょっとは悪気を感じろよ!」
むぅフレックスに正論で突っ込まれる日が来ようとは。
「言い出しっぺの貴様に言われたくないな」
「俺は普通にペイント弾撃ち込んだだけだろ! どうすンだよエンジニアが作業をボイコットしちまってよ!」
彼の言う通り、食堂の傍らでは机に突っ伏した棟梁を中心にエンジニア勢が[断固待遇改善!][こんなの次回までに修理不可能!][機動兵器を大切に!]と書かれたプラカードを掲げ、どこぞの自然保護団体みたいな抗議活動を行っている。
おかげで実機の修復は進まず、それにたいして別の机でナビゲーター達が集まってカリキュラムやスケジュールを見直したりしている。
「どうするンだよ委員長?」
フレックスの問いに、パイロットの中では一番ガタイの良いスポーツマン風の男子生徒である委員長は俯いた視線を上げて。
「ん、ああ……まぁなるようになるだろ……」
と、気の無い返事を返した。
「……空鷹、まだ落ち込んでいるのか」
メイが心配そうに呟く。
先程の訓練で最下位だった委員長はそれ以降こんな感じに覇気が無いのである。
「別にいいじゃねぇか、教官も急な思い付きに対応しきれないのは仕方がねぇって徒歩での帰還は免除して貰えたンだしよ」
いやむしろ委員長は教官に気を遣わせてしまった事を気に病んでいるのかもしれない。これならいっそのこと徒歩で帰って汗を流した方が良かったかもしれないな。
「私に言わせれば、銃弾のほとんどは盾で防いでいた訳だしな、本体に当たった弾だけをカウントするなら最下位ではないはずだが」
狙撃手として盾で防いだ弾を命中弾として扱う事には抵抗があるらしい。確かにああも四方八方から銃弾が飛来してくる中でよくもまぁ盾で防いだものだと思う。もしあれがペイント弾じゃなくて実弾だったら最後に立っていたのは恐らく委員長の機体であっただろう。
「いやルールの趣旨を素早く理解できなかった俺が悪いんだ、皆気にしないでくれ……」
返す言葉はやはり元気が無い。
食堂の片隅でナビゲーターチームがエンジニアチームに交渉を行ってはいるが、エンジニアチームはここぞとばかりに、やれ最新の整備システムが欲しいだ、高級な鋼材が必要だ、最新の換装パーツを寄越せだのと好き勝手に注文を付けてくる。
普段なら委員長がビシッと言って、騒動が収まるんだけどな。元からまとまりの無かったCクラスは今や崩壊寸前、これではどうしようも無い。
フレックスなどはもう今後のCクラスの行く末を案ずる事に飽きたらしく、食堂の正面モニターを起動させて面白くも無い報道科のニュースを見始めている。
『ご覧ください、これが誰もが笑顔になるべき配給祭で起きた惨劇の跡です』
平和で良い事なのだが、地上はまったくと言っていいほど事件が起きない。
その為報道科のお送りする番組は、基本的に下らない内容か、結構前の内容をしつこく焼き増しするくらいである。謎の新兵器の暴走はもう既に先週の話であり、散々報道されつくしただけにもはや同じ内容を繰り返し報道しているだけとなっている。
『さて、そしてこの事件解決の功労者、KR専科の実技担当教官、松田さんにインタビューをしてみたいと思います』
「納得いかない(Not satisfied)! あの悪党が何故英雄視されているのか! これが世間の評価妥当なら、私は世間を否定する!」
報道科のニュースに突如として奇声が上がる。声の主はいつの間にか一緒に朝食をとっていたまるで幼女と見紛うほどに背の小さい、ウェーブの掛かった金髪が椅子から零れ落ちるアリッサ教官であった。見た目が可愛い事もあってか何時の間にかアリッサ教官は生徒達(特に女生徒)に馴染んでいる様子である。
「アームストロング君の故障もあいつが頭部を凹ませたからだと言うのに! 何故あいつは報道で取り上げられて、私は減給なのだ!」
食べかけのタマゴサンドを口から迸らせる勢いで、焼き増しのニュース報道に文句を垂れる。その様子を見た同席するナビゲーターの女生徒が、ハンカチで汚れた口元を拭ってやっている。馴染むと言うか妹扱いだな。
「この様な事を許していいものか(I can never permit it)! 絶対に許さんぞ松田ァァァ!!」
アリッサ教官の怨嗟の声が食堂に響いていると。
「おぉう誰か俺を呼んだかい?」
間の悪いと言うかベストタイミングと言うか、松田教官が食堂に姿を現した。
「今こそ我が雪辱を果たす時! 死ねぇぇぇ松田ァァァ!」
ナビゲーター女生徒の静止を振り切って、アリッサが机の上を走り松田教官に向けて食堂に備え付けのプラスチック製フォークを振り下ろす。松田教官は慌てる事も無く、ボールペンでフォークを受け止めた。
「何だぁ謹慎明けのわりにゃ威勢がいいなぁおい」
「くのっくのっくのくのっ!」
松田教官はフォークを振り回すアリッサを片手で安々と押さえつける。まさしく大人と子供と言った有様だ。
「おう、そういやお前等KRⅡだがな、ありゃ上持ってってオーバーホールするしかねぇぞ」
教官が言う上とは、軌道エレベーターの上層階層、さらに言えばその終着点、軌道ステーションの事を指す。そこには実践を想定したKR専用の整備工場などが存在している。要するにKR専科の在庫パーツでは修理不可能な損傷という事だ。
「それでお前らしばらく実機訓練できねぇだろ」
他のクラスの実機が残ってはいるが、他のクラスも俺達同様に個人様にカスタマイズしているので、使用するたびに改造して終わったら元に戻すのは非常に面倒だ。かと言ってシミュレーターに戻るのもどうだろうか。
「それでよ、ちょっと仕事でアフリカ方面の機動エレベーターに行く事に成ってな、つい出だからお前等も来ねぇか? 課外学習って名目でよ、ちょっとばかし南国でバカンスとでも洒落込もうぜ」
松田教官にしては珍しく、冴えた提案であった。
アフリカ方面の軌道エレベーターは、観光方面に力を入れている所で有名だ。授業と言う体裁を保つために、多少向こうの施設の見学とか講習が入ったとしても、実機訓練を丸々座学に費やすよりは、有意義な時間の使い方と言えよう。
「松田教官イケてる―!」
「流石が俺達の教官は分かってくれるぜ!」
「これは新しい水着買うしかないですわね!」
生徒達が一気に湧き上がる。俺すらも少し浮かれていたかもしれない。
だから誰も気づかなかった。
俺達を見つめる松田教官の目が、全然笑っていなかった事に。
[アルカの手記-052]
「ではこれより、世界征服の為の特訓を行う!」
「はーまた随分と唐突っスね」
「我々は一日も早く、地球を征服し世を正さねばならんのだ、その為にはダラダラと過ごしている時間などない!」
「いう事は立派っスね、手にジュースをお菓子が無ければ」
「我々は支配者としてより一層厳しい訓練を行わなければならない!」
「心構えだけは立派っスね、それで具体的にどうするンスか?」
「うむ、そこで今からこのお菓子をしばらくの間絶とうと思う」
「ダイエットでもするんスか?」
「確かに地球のお菓子は美味しい! これ一袋で夕食が食べられなくなると言う禁断の果実だ! 先ずはこの誘惑に打ち勝つ事を目標としようではないか」
「っていうか、もしそれが地球の策略だとしたらむしろこっちが攻め込まれてるようなもんスよね」
「ふむ、やはりシンプルな塩味がベストだな」
「って何いきなり誘惑に屈してるっスか!?」
「いやコレは暫く食べないでいると味を忘れかねないから、確認の為の一袋だ!」
「いやなに言ってるのかさっぱりっスけど」
「次から! 次からは我慢するぞ!」
「味を忘れないためとか言っている時点でもう虜なのに気づいた方が良いっすよ……」
[続く]




