[Mission-048]
前回までのMission!
のんびりと祭りを楽しんでいた昴流達であったが、その前に再び姿を現したのは昼頃に突如として襲撃してきた謎の幼女ことアリッサ教官であった。
そして彼女は、ついに次世代の兵器を開発したと豪語するのである。
[Mission-048]
その中には大方の予想通り、貨物エレベーター前で大暴れをしたあの機動兵器が佇んでいた。
しかも何があったのか頭頂部がちょっとへこんでいる。
「何だあれKRじゃない?」
「随分とデカいな……」
「何で頭頂部凹んでんだ?」
観客席からどよめきの声が漏れる。
〈何も問題は無い(No problem)!〉
それを彼女の声が抑え込んだ。
〈これこそが私が導き出した答えだ! [MT05-Apluto,Mark2]ことアームストロング君は未来を変える! 野蛮な鎧騎士を理性を持つ鉄の塊が制する時が来た! アームストロング君起動せよ!〉
彼女の言葉に呼応するかの様に、ステージ上の機動兵器の胴体部分にスリットが開かれ、そこに光が灯る。
『アームストロング・起動します』
機動兵器から機械的な音声が響く。
「おお起動した!」
「誰か入ってるのか?」
〈括目して見よ(Pay attention)! アームストロング君観客に挨拶をするんだ!〉
『了解・私は[MT05-Apluto,Mark2]/コード20001014アームストロングです・よろしくお願いします』
〈アームストロング君、会場のスポットライトを操るんだ!〉
『了解・会場のシステムに干渉します』
すると会場周辺に設置された照明が唐突に消灯した。観客がざわめく中、スポットライトが灯りアームストロングとかいう兵器と隣の少女アリッサを照らし出す。
〈アームストロング君、会場の皆さんの携帯端末に御挨拶を!〉
『了解・会場内の携帯端末162機に対して・電波干渉を開始します』
次の瞬間、会場内の観客の携帯端末が一斉に鳴り響いた。
それは驚くべき光景であると共に、一種の怪現象の様な物だった。
今会場内にいる人達は軌道エレベーターやKR専科の関係者ばかりである。だから彼らが持つ携帯端末は全てSEの支給品であり、[ネビュラ]ネットワークに管理されている。つまり[ネビュラ]の許可が無ければ、不特定多数の携帯端末を一斉に鳴らすと言う芸当は不可能なのである。しかし、今現在[ネビュラ]はメンテナンスの為にほとんどの機能が使えない状況下にある。そんな中で一体どうやって携帯端末を操って見せたと言うのか。
「な、一体どうやって!?」
「何かトリックがあるはずだ!」
「一体どうやってIDを!?」
〈落着きたまえ(With composure)、これがアームストロング君の実力なのだ!〉
そう言って彼女が手を振り上げると、携帯端末の着信は収まりライトも点灯する。
〈さて、先程の話の続きになるがG-HARDの制約、つまり人間の搭乗を必要すると言う事だが、このアームストロング君はG-HARD対応機でありながらその制約を克服している! どうやってか? 答えは単純明快だ、作ったんだよ!〉
そう言って彼女は再び機動兵器アームストロングを指し示す。
〈機械のパイロットをね!〉
今会場に集まっているのはKR関連に詳しい人々である。すなわちこういった技術方面に置いては、専門家達と言ってもいいだろう。その彼らですら彼女の言っている事を瞬時に理解する事は出来なかった。
「え……それってどういう?」
「所謂オートパイロットってやつだろ?」
「もしかして自律機動って事か!?」
会場の呟きに対してアリッサは大仰な身振りで答えた。
〈その通り(That's right)! アームストロング君にパイロットは必要無い! 彼は与えられた命令を自分で判断し、自分で考えて行動する。つまり自律機動兵器なのだ、しかし従来のAIなどと一緒にして貰っては困る。彼は[ネビュラ]とは独立した完全なる個としての思考を持っている、つまり彼はG-HARD対応機でありながらG-HARDの規格外の構成をしているのだ!〉
ついに会場から歓声が沸き上がった。
従来のAIはネットワーク[ネビュラ]を介して制御されている。言ってしまえば[ネビュラ]システムの端末として存在していると言える。そしてG-HARDとはその[ネビュラ]を通じて対象機器に干渉するシステムである。しかしこのアームストロングはG-HARDに対応しつつネットワーク[ネビュラ]に依存しない機体制御システムだと言う。それはすなわちアームストロングからはKRに干渉できるが、KRからはアームストロングは干渉できないという事に他ならない。
〈会場の諸君にもようやくこの機体の素晴らしさが理解出来た事だろう! さぁアームストロング君、会場の皆さんの声援に答えて踊って差し上げろ!〉
『了解・ダンスプログラム・起動』
サイズはKRと同程度とはいえ、装甲の厚さや全体のマッシブ感が段違いに高い機体が、会場の声援に合わせて軽快に踊る様子はかなりシュールであった。
話を聞いた限りでもかなりすごい技術と言うのは分かった。しかし、パイロットの搭乗を必要としないという事で俺の興味は失せたと言っていい。いずれ開発競争でぶち当たるかもしれないが、その時は戦ってぶっ倒せばいいだけの話だ。
「そんで、異星人としてはなんか感想あるか?」
物は試しにと、ずっと隣で綿菓子と格闘しているアルカに意見を求めてみる。
「うむ、フワフワとしているように思ったのだが、存外べたつくのだな」
「いや綿菓子の感想じゃなくてってあーもうベタベタじゃねぇか!」
とりあえずハンカチを渡してやる。
「なんだあの木偶の坊の事か、根幹の発想としては我らが機星に通じる所はある、しかし所詮は地球界隈の技術よ、爪先にすら届かぬ技術格差は埋めようもあるまい」
ほう、自分所の技術を把握していない癖によくもまぁ偉そうに。
しかしアルカの言い分にも一理ある。[ネビュラ]に捕捉されずに対応機を操るという芸当は、機星がやって見せた技術である。もしかしたら機星に搭載されているシステムの一端があのアームストロングには搭載されているかも知れなかった。
そう言った意味では、あの新兵器が人類の進化を促すと言うのもあながち誇大妄想ではないのかもしれない。
会場の方では、未だに歓声が収まらない。盛り上がりに応じてアームストロング機の踊りもさらに激しくなっていった。
〈ヤーヤーヤー、さて流石にそろそろ潮時だ、アームストロング君、踊りを中止しようか、引き上げるぞ……んん? アームストロング君……?〉
アームストロング機はアリッサの静止命令に反応を返す事は無かった。かわりにダンスに激しいスピンを加え始める。
するとアームストロング機からカランと何かが零れ落ちて、ゴトンと会場の床に球状の物体が転がった。それには見覚えがある。確かKRで使われる投擲用の榴弾だ。主にトーチカや瓦礫の破壊、もしくは対人戦に使われる爆弾の一種である。しかも、踊りに合わせてそんなのがゴロンゴロンと転がる。
〈おーう(Oh)。武装解除するの忘れてた(テヘ〉
いや見た目も相まってその姿は確かに可愛かったんだけどさ。
「総員退避!!!」
誰かが叫ぶと同時に、蜘蛛の子を散らす有様で会場から人が離れていった。その直後に転がった球体が破裂し、周囲に煙を振りまく。
爆発でない所を見ると消火剤か催涙ガスの類だろうか。それでも会場内はパニック状態に陥った。
〈動くな(Freeze)! アームストロング君、ただちに機能を停止しろ!〉
『命令受諾を拒否・現在・ダンスプログラムを・実行中です』
〈何故だ! 完璧なアームストロング君が何故命令を受け付けない! 何処か故障で模したと言うのか!?〉
その時全員の視線が、踊り続けるアームストロング機の頭頂部の凹みに注がれたのは言うまでも無い。
しかしこれは困った。機械の暴走ならば主電源を落とすか、[ネビュラ]システムから干渉して機能を停止させる事が出来るのだが、あの機体は[ネビュラ]から独立している。対抗するにはKRで抑え付けるしかないんじゃないだろうか。
そんな危惧を抱いていると、会場のアナウンスから鋭い声が響いた。
〈中央会場にて非常事態発生! KR専科Cクラスは至急KRⅡ格納庫に集合せよ!〉
その声は尾乃教官であった。いち早く事態を察した教官が、早くも事態収束に向けて動き出したのである。現在ここで動かせる機動兵器は昼に搬入したKRⅡだけだ。しかも今の所、直接起動準備を行った俺達Cクラスだけしか操縦者登録を完了出来ていない。という事はこの状況下で集められる理由も自ずと想像が付く。
「くっそ、おいアルカ一人で逃げられるか?」
「まぁ十分楽しませて貰った、この混乱に乗じてファルアタートに帰るとしよう、祭りの締めくくりを見れんのは少し残念ではあるがな」
「そんな大層なもんじゃないさ、祭りで羽目外しすぎた奴を取り締まるなんざ、余興の一つだ、こんなのは醍醐味でもねぇ」
それに祭りの終わりなんてのは、実にしめやかで詫び寂しい物だ。宴もたけなわな内に立ち去るに限る。
「なるほどそういうものか、では今が絶好の立ち去り時ではあるな」
配給祭のこの後のスケジュールがどうなっているかは把握していないが、少なくとも新型兵器の暴走以上に盛り上がる演目は用意していないはずだ。
明日の報道は大盛り上がりであろう。
それに搬入直後にKRⅡが活躍したとなれば、KR専科の評判も上がるはずだ。そしてKRⅡの搬入を決断した松田教官の手柄という事に成る。もしかしたら搬入の件もこの時の事を想定して俺達が呼び出されたとするなら、松田教官は何を何処まで想定していたのだろうか。恐ろしい話である。
「アルカも黒幕気取るんなら見習った方が良いぜ」
一応役割としてはボスキャラ同士には違い無い。しかしこのボンクラ異星人が逆立ちした所で、松田教官の悪さにはそれこそ爪先ほども届かないであろう。
俺の呟きにアルカは、不思議そうな表情を見せた。
「自らの望みを叶えるのに、あれこれと手足を動かすなど非効率的だ。我ならばもっと簡単な願いの叶え方を知っている」
「へぇそりゃどういった方法で?」
アルカは徐に俺を指さして見せた。
「お前に頼めばいいのさ、だろう? 我が戦士よ」
「……そりゃ確かに」
呟いて、俺は格納庫への道を走った。
[Mission- continue……]
[アルカの手記-048]
「そう言えば貴様休日は何をしているのだ?」
「え、休日っスか? え……いや何を言っているか分かんないスけど」
「何故わからん?」
「いやーこう見えて僕兵器っスよ? 兵器の休日って戦争とか戦いが終わった後に格納庫で布をかぶせられて放置されたり、博物館に展示されたり、荒野で野ざらしになってて子供達の遊び場になってたりって感じなんスけど」
「そう難しい事を考えんでも良かろう、ならこういう休日を過ごした言って希望でも構わんぞ」
「じゃ参考までに姫様はどんな休日をお過ごしっスか?」
「我か? 我はまぁ居心地の良いカーペットに寝転がって漫画とかゲームのコントローラーを片手に、時折スナック菓子と炭酸のハーモニーを堪能しつつゴロゴロと」
「支配者史上最悪なほどに素敵な自堕落さっスね」
「いやはやそう褒めなくても良かろうに」
「褒めてねぇっスよ」
「それで貴様はどうなのだ?」
「えーとまぁ希望で良いんなら、ほど良い日差しの中、川を優雅に泳ぎたいっスかね」
「アウトドア派なのだな」
「それで魚を獲ったり、水温で体温下がったら日向で日光浴したり出来たら最高っス!」
「生活様式はトカゲ準拠なのだな……」
[続く]




