[Mission-043]
前回までのMission!
しばらく留守にしていた松田教官の帰還し、新しくKRⅡが支給された。そして謎の少女の襲撃を受けながらも、いいつけられたメンテナンスを続ける昴流達であった。
[Mission-043]
作業は日が彼方へと沈み込む前に終わった。
旧式のKRⅡとは言え、全くの初期状態からパイロットが操縦出来る様に調整するには普通なら数日はかかる。それを11機も同時に行って、その日の内に終わらせる俺達Cクラスの技術力は誇っていいのかもしれない。これも日々シミュレーターで無茶な挙動を繰り返し、機体整備に四苦八苦した成果と言えよう。
格納庫からKR専科までの道のりを歩いていると、珍しく観光客の姿を見た。何人かがラフな格好で騒ぎながら道を通り過ぎて行く。地球と火星は、定期的に交通の便も出ているので観光客自体はわりと居たりする。しかしそのほとんどは地上に降りたりはせず、軌道エレベーター内で過ごしたり、そこから航空機等で世界遺産などを廻りに出て行くのがほとんどだ。
珍しく地上に降りた観光客が何処に行くのかと行き先に目をやって見る。すると普段はただ広いだけの駐車場が、照明にライトアップされた催し会場へと変化していた。多くの出店も軒を並べて、まさにお祭り騒ぎと言った有様だ。
日が暮れれば人の気配は皆無になる駐車場が、今や大混雑だった。普段見慣れている景色が一変して賑やかになると、まるで自分の方が見知らぬ土地に迷い込んだのではないかと思えてしまう。
煩わしくないと言えば嘘になる。しかし過疎化した地球は娯楽に飢えている、一夜限りのお祭りごとくらい目を瞑ってもいいだろう。
屋台から漂う香りに誘われて、晩飯はここで済まそうかなと考えていると、背後から声を掛けられた。
「我が戦士よ、こんな所に居たか!」
振り向くとそこに女神が居た。
すらりと長い手足はまるで飾られた花のようであった。胸から腰、そして尻から太腿に掛けてのラインを銀色の衣装で包んで、それが非常にバランス良く凹凸を作る。宝石の様な瞳、蕾の様な唇、そして鼻筋はすっきりとしていて、腰まで伸びた銀色の髪は、洸に光を纏っており夕暮れ時によく映える。髪はまるで星々を携えた銀河のように輝いていた。
こちらを見つめて浮かべる笑みは、一目見たら忘れる事は出来ないであろう。
彼女こそ、遠くからわざわざ地球を侵略しに来た奇特な異星人アルカである。
「さぁ、お祭りとやらを案内して貰おうか」
俺はこの祭りの賑わいに負けない輝きを放つ異星人を、とりあえず適当な茂みに叩き込んだ。
「わっぷっ! 何をするか!」
俺も続いて茂みに入りながら、静かに言い付ける。
「いやお前、人が折角あまり前に出るなと忠告した矢先に何を一人エレクトリカルパレードっぽく輝いてんだよ!」
幸い周囲は祭りに浮かれる観光客ばかりなので、異星人が一人輝いた所でさほど注目は集めなかった。しかし油断は禁物だ、何処で誰が見ているか分からない、迂闊な行動や目立つ行為はなるべく避けるべきだ。
「お前がそう言うならば仕方あるまい」
そう言ってアルカは茂みの奥で両腕を広げると、髪に纏わり付いていた銀粒子が全身を覆うように広がった。そのままその場で一回転すると、まとわりついた銀粒子が身体を覆い隠すようにして新たな服を形成する。次の瞬間アルカは俺達KR専科の生徒が着る様な制服姿へと変わっていた。
「これで文句は無かろう?」
そう言ってアルカは身にまとった制服を見せつけるようにポーズをとる。
「そういえば、いつもどうやって衣装を変えているんだ?」
「ああ、これはSMだ」
アルカがスカートの端をつまみ上げる。
「機星の外装にも使われている。通常は半粒子状態で保持しているのだが、これは構成パターンを弄れば繊維にも金属にも変化し、必要に応じて武器にも防具にも、また潜入用の衣装にも成るのだ。もっとも粒子の総量自体は変化しないので変形させる形状には制限があるがな」
そう言いながら、アルカは残った粒子を手元で、ブローチやハンカチから小型のナイフにまで様々に変形させつつ弄ぶ。
ふむ、これもまた超化学の代物だな。しかし聞く限りでは非常に便利そうだ。
「それって俺にも操れたり出来るのか?」
「生体パターンを登録すれば多分は……まぁもしかしたら身体と融合して分離不可能になるかもしれないが試してみるか?」
「いや遠慮しとく」
何故異星人共は、俺の体に悪影響がある物の使用を躊躇わないのだろうか。
「さて、これで祭りとやらを堪能できるな!」
確かに制服姿ならば俺と一緒に行動しても違和感はないし、そう注目はされないだろう。
「いや今度は同じ専科の連中に見られた時にどう説明するかだな」
制服を着ている以上、同じ専科の生徒からの注目は避けられない。
転入生とでも紹介しようか……。
「安心するがいい、衣装データをダウンロードするついでに生徒名簿に偽造した私の個人情報を仕込んでおいた。私は入学はしたが親の都合で海外に行っていた訳アリ在校生と言う設定だ」
相変わらず現代科学がまるでお手玉の様に扱われるなぁと感心する。機動エレベーターに併設されたKR専科の情報等は、ついでとばかりに[ネビュラ]の管理下にある。その為生徒の名簿などは地球、いやもしかしたら火星圏でも随一のセキュリティに守られているはずなのだが。
地球人類の英知を結集したセキュリティなど赤子の手を捻るも同然とでも言いたげなのか、妙にドヤ顔のアルカを連れて、人通りが少ない時を見計らって茂みから抜け出す。幸い皆煌びやかな配給祭に目を奪われていて、俺達を気にする様子はなかった。しかし立ち上がった所で、見知った声が響き渡る。
「昴ぅ流ぅっっっ!!」
この呼び方と、ドガドガと地面を蹴り込む足運びには覚えがある。
「茂みに女の人なんか連れ込んで何をしとるかぁぁぁ!」
走り寄る勢いのまま観言はパコーンと景気良く、俺の頭を空のペットボトルで叩いて来た。
「痛いぞ観言」
呟きはした物の実は大して痛くは無い。って言うか何故彼女は、俺が他の女性と一緒に居るといつも走り寄ってくるのだろうか。俺ってそんなに軟派なキャラに見える?
「それに誤解だ、えっと彼女がちょっと人混みに酔って気分が悪いと言うから介抱してやってたんだ」
「うむ? 何を言っている無理矢理茂みに連れ込んだのは貴様ではごふぅっ!」
余計な事を口走るアルカをとりあえず肘鉄で黙らせる。
「えっとな、彼女はさっき知り合ったKR専科の生徒だよ、ほら制服着てるだろ?」
「そりゃ言われなくても分かるけど、何か随分親しそうねぇ?」
観言さんが妙に疑り深い目で見つめてくる。何故だ、疑われる要素が何処かにあっただろうか? これ以上どう観言に説明しようかと悩んでいる間に、肘鉄に悶絶していたアルカが復活を果たして口を開いた。
「ふむ、始めましてだな。私は美角在流華だ、彼にはこの前色々と助けて貰ってな、その縁で今日はこの祭りを案内して貰う事に成ったのだ」
ようやく状況を察したのか、アルカは生徒の設定を踏まえて観言に話しかける。
「助けて貰ったって……何かあったの?」
観言の問いかけに、アルカはちょっと考えるような仕草を見せて。
「それは……人前ではちょっと言えん、プライベートな話になる」
「アンタ何やったのよ!?」
ほらそんな誤解するような言い回しするから観言の矛先がこっちに向いたじゃんかよ。
「だから誤解だって、ちょっとKRの操縦関連で困っていたから、通りかかった俺が助けたってだけだよ」
「KRの操縦? ああそう言えば彼女の制服、指揮科のよね……」
観言に言われて改めてアルカを見て気づいた。アルカが着ている制服は俺達が来ている物とは少し意匠が違っていた。俺達の制服が所々に緑のラインがあるのに対して、彼女のそれは銀色で、服のデザインも少し教官職の物に近く豪華である。これは指揮科と言うKR専科でも少し特殊な科に所属する生徒が身に着ける制服である。
指揮科と言うのが何かと説明するならば、一言で言えばエリートコースである。正式名称を、戦略指揮系統科と言って所謂幹部候補生の養成学科である。
勿論一般の入試は設けておらず、入るには推薦や口添え等の企業や政府の後押しが必須である。その為一般コースである俺達パイロット候補生のKR専攻科とは所属は同じでも似て非なる存在であり、むしろ日常的に対立関係にあると言っていい。
「ハッ……!? まさか昴流を引き抜きに!?」
指揮科の制服を見て観言が過剰反応を示す。これは他学科から引き抜きにあうほど俺のパイロット技能を認めてくれていると喜ぶべきか、指揮科がパイロットを引き抜いて何の利益があるんだと諭すべきか。
「ふむ、その言い回しは正しくは無い。何故なら昴流とは既に戦士の契約を結んでいる、彼は我が剣として尽すと約束したのだ」
「まさか! もうそんな仲だなんてっ!?」
確かにそんな約束はしたが、誤解ですって観言さん。俺そんな心の奴隷とかじゃないですから。色々と突っ込みたい所ではあるが、二人のやり取りは白熱していて口を挟む余地が見つけられない。
「何を驚く事がある、戦士昴流の腕を見れば誰もが放っておくはずが無い事は明白ではないか。指揮官としても放っておく云われはあるまい?」
「だ、大丈夫よ、落ち着け私……す、昴流はチームメイトを置いて何処かに行ったりなんかしないんだから。きっと一時の気の迷いよ、最後は必ず私達の元に帰って来るんだから!」
もはや俺自身は蚊帳の外で、二人のやり取りが勝手にクライマックスを迎えつつあった。
「彼は我と共に歩む道を選んだのだ、これは彼が自らの意思で決めた事、仲間ならばそれを尊重してやるものではないのか?」
「くっそやっぱり美人で背が高くて胸が大きい女の方が良いのか昴流ぅぅぅ!」
最後の怒りは矛先がなんか違う気がするぞ観言よ。
[アルカの手記-043]
「ふむ、そう言えばいつも[ファルアタート]の自動整備に任せっきりだが、機星は何時もどういった整備を受けているのだ?」
「はぁ唐突っスね」
「エネルギーはCから供給されるS粒子であろう、推進剤もS粒子から得られる波動推力だし、機星のSMは自動修復だからな」
「そうっスね言われてみれば、自己修復出来るのに何を整備されてるんだって気がしますっスね」
「なんだお前も分かってなかったのか」
「いやそりゃ基本整備中はスリープモードっスよ、あーでも構成素材の補充とか、機関に詰まったS粒子の残滓とか掃除してんじゃないっスか? 外でたら粉塵とかも激しいっスからね」
「ほうつまり綺麗に掃除されていると言う訳か」
「そりゃそうっスよ、じゃなきゃ毎回あんなに外装がピカピカしてないっス」
「なら私も整備ドックに入れば風呂に入らずとも清潔になる訳だな!」
「……全身バラバラにされるっスけどね」
[続く]




