[Mission-042]
前回までのMission!
松田教官にKRⅡをプレゼントされ、その整備をいいつけられたCクラス一同、渋々整備を始めようとした瞬間、突如として謎の声が響き渡るのであった。
[Mission-042]
声のする方を見ると、エレベーターの奥に積まれたコンテナの上に、小柄の少女がいつの間にか立っていた。
少女は俺達より頭一つほど低く、フリルの付いたふわっとしたワンピースの上からかなり大きい白衣を着こむと言う変わった恰好をしていた。腰まであるウェーブの掛かった長い金髪と、碧眼の瞳はお人形の様なあどけなさ持っている。しかしその眼差しは年下や同年代とは思えない、大人びた雰囲気を放っていた。
「ハッハッハ! ついに追い詰めたぞ(I cornered it at last)松田ァァァ!」
その少女は松田教官を指刺すと、叫ぶような大声を張り上げた。
俺たち生徒一同は、見知らぬ少女の登場に呆然とするしかない。同じく唖然とした表情の尾乃教官は、松田教官に恐る恐ると問いかける。
「えっと御子さんですか?」
「馬鹿言うなぁい、あんなでっけぇ娘が居るような歳じゃねぇよ。アリッサとか言う月で会った技術者だ、ムーンテクニックスの所属だったか? 何かと因縁つけてきて困ってんだよ」
松田教官が苦々しく呟く。
「あら、もしかしてコレとかですか?」
尾乃教官が少々意地悪そうに小指を立てて問いかける。恐らく先程の仕返しだろう。それに対して松田教官が吐き捨てるように返した。
「そんな生易しいもんじゃねぇよ」
松田教官の言葉に、今度は少女が口を開いた。
「そうだ(You go girl)! 私とそいつの関係は、そんな生易しい物ではなァァァい!」
少女は大げさに天を仰いで、松田教官を指さす。
「そこの男が、私の技術の結晶! アームストロング君をあっさりと撃破した所為で私のKRを超える兵器を作ると言う崇高な研究は予算を打ち切られ、挙句私自身も教官職として地球勤務に飛ばされる事となったのだ! それも全て貴様の所為だァァァ!」
「いやそりゃ流石に逆恨みだぜ、大体実技指導ならその実力を証明してみろってけしかけてきたのはそっちじゃねぇか」
「松田ァァァ! 今日こそ貴様を打ち倒し、最強の称号を我が手に収める時が来たぞォォォ!」
松田教官の言い分をかき消すように、少女は獣の咆哮の如き奇声で宣言する。うん、この台詞を聞く限り、言葉が通じるタイプの人種ではなさそうだ。
「出ろォォォアームストロング君ッッッ!」
少女の宣言と同時に、積み上げられたコンテナの一つが内部から抉じ開けられる。その中からは紅い光を灯した機動兵器が姿を現した。
それはエレベーター内に並ぶKRとは違った外観をしており、全体的に丸かった。
重装甲な機体を支える為か脚部は太く、とてもではないが素早くは動けないように見える。蛇腹状の関節の付いた腕は、機体の動作の遅さを補うように柔軟に動くらしく、巨大なクローアームが自身の力強さを示す様に、力付くでコンテナの外壁を押し広げる。頭部の様な物は無く、胴体に直接カメラアイが取り付けられ、その時点でもKRの基本骨格から大きく逸脱した存在である事が分かる。
「このアームストロング君が! お前に引導を渡すだろうさァァァ!」
「付き合ってらんねぇぜ」
松田教官はそう吐き捨てると素早く携帯端末をとりだし、先ほど固定器具を解除されたばかりのKRⅡに向けて操作する。すると起動設定すらしていない機体に光が灯り、コクピットハッチが開放される。
「一機貰うぜ!」
そのまま飛び乗ると、目にも止まらぬ速さでスタンドアローン状態で起動させ、機体を操縦してコンテナから現れた機体に背を向ける様にフロアを後にした。
「逃がすか(Do you miss it)ァァァ松田ァァァ!」
少女もコンテナから現れた機体に飛び乗ると、頭頂部のハッチを開き内部へと滑り込む。
少女を乗せた機動兵器は、コンテナを掴むと軽々と持ち上げて、松田教官の乗るKRⅡに向かって投擲した。松田教官はスタンドアローン状態だと言うのに軽々と機体を操作し、飛来するコンテナを華麗に躱して去っていく。少女もまた、機動兵器を操りコンテナから飛び降りると、ハンガーラックに固定されたKRⅡをなぎ倒しながら、逃げ出した松田教官を追って走り去っていった。
後には、投擲され拉げたコンテナと散乱するその中身、そしてなぎ倒されたKRⅡなどが残される。幸いハンガーラックに固定されていたおかげで、倒れた程度で破損はしていない様だが問題はそう言った事では無い。
唐突に現れて嵐の様に災いを振りまく少女に、俺達はまったく反応出来ずにその場に立ち尽くす事しか出来なかったのだ。
悪夢の様な鬼教官の帰還と、それを追って現れた謎の兵器を操る少女の登場、今後の波乱が何とも予感させられ、誰しもが口を閉ざしていた。尾乃教官ですら口を開けたまま唖然としている。
そんな中、黙々と工具を操る音だけが響いていた。
「こっちの固定具が解除されたぞ、誰かシステムチェック入れ!」
こんな波乱の中でさえも、手を休める事も無く早くも三機目の固定具を解除し終えたエンジニア一行には驚嘆する他あるまい。
果たしてその集中力を見習うべきか、それとももっと周りの状況に注意を払うべきかは意見が分かれる事だろう。
[アルカの手記-042]
「人と言うのはいつどこで恨みを買うか分からんものだな」
「そういう姫様は、誰か恨んでいる人とか居ないっスか?」
「うむ、やはり兄上達だな」
「おおう、何か王族の内輪揉めって定番っスね」
「あれは忘れもしないスフィア創生歴200582の不死鳥の月、食卓のプリンは確かに人数分あった。それなのに私が舞い込んできた蝶に気をとられている内に兄上は何と……私の分まで……くう」
「いや辛いならみなまで言わなくてもいいっスけど、っていうか恨みの理由っしょぼ! あとその時って姫様まだこんくらいの子供の時じゃないっスかどんだけ根深いんスか!」
「そしてあれは忘れもしない創生歴200587の大輪の月、兄上は私の大事にしていた人形の首を……」
「いや多分向こうはもう覚えてもいないと思うんで、そろそろ忘れてもいいと思うんスけど……」
[続く]




