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[Mission-041]

前回までのMission!


 エレベーター前に呼び出されたCクラス一同を出迎えるように現れたのは、今まで出張で居なかった松田教官である。相変わらずの凶悪な視線に怯え竦むパイロット達であった。

[Mission-041]



 そこで委員長が一歩前に出て皆を代表して問いかける。

「それで松田教官、我々は何故ここに呼ばれたんですか?」

「あぁー? あーそうだった、本題を忘れる所だったぜ」

 松田教官はとぼけた表情でそう言うと、俺達に向けて大声で叫んだ。

「おう喜べ、普段良い子のお前等に俺からプレゼントだぜ!」

 その言葉に素直に喜べるほど、俺達は純粋でも良い子でもなかった。むしろ普段怖い人物からの不意の優しさほど恐ろしい物は無いと身に染みて知っているのである。

「プレゼン……ト?」

「意外な……」

「あれだ、どうせ新手の嫌がらせか何かに決まってる!」

「いや多分、追加の講習とか宿題だ!」

 様々な憶測が飛び交う中、松田教官が搬送用エレベーターへと近づいていく。

「人の好意を素直に喜べないと録な大人になんねぇぞ」

 という事は、松田教官はさぞひねくれた子供時代を送っていたのであろう。彼の操作で、重々しい音を立てて扉が開閉された。

「月の連中に指導はしたんだがよ、どうせ使いこなせねぇと判断して余ってたKRを貰って来てやったのよ」

「「「おおっ!」」」

 松田教官の言葉に生徒達から珍しく歓声が上がる。

 ここKR専科は、SE直轄のKRの操縦過程を訓練する施設である。しかしその訓練の大半はシミュレーター等による模擬訓練だけで、まともな実機を使った訓練はこれまでほとんどした事が無い。そもそもシミュレーターでは最新のKRⅢなのに、KR専科にある実機はKRⅠくらいと言うていたらくなのである。これには生徒達だけでなく上層部からも色々と言われてきたらしい。

 いくら技術があってもこういった物は最終的に実機にどのくらい乗っていたかが重要視されるのだ。最新技術を習得させても、即実践投入出来ないのであれば無意味である。しかしだからと言って、火星圏でしか製造されずSE内でも数を揃えられていないKRをおいそれと生徒に訓練用として与える訳にもいかない内情も分からないでもない。そう言った意味では、今回の松田教官の動きには様々な政治的思惑や裏事情を潜り抜けてきた凄さが窺えた。

 開き切ったエレベーター内には、規則正しく積まれた宇宙交易規格コンテナと、転倒しない様に専用の大型ハンガーラックに固定された12機の起動兵器、KRⅡの姿があった。

「「「ってかKRⅡかよ!!」」」

 ここでまた生徒達の不満の声が上がる。

 現在火星圏政府C.W.O.Uが正式採用しているKRシリーズは、開発から50年ほど経過し今ではⅠ~Ⅲまで存在する。最初にリリースされたKRⅠはほとんど時代遅れと評され、解体されたりKR専科の様な訓練施設で辛うじて残るのみである。最新式のKRⅢは高性能を誇る物の扱いが難しく、KR専科でも日夜訓練しているのは周知の通りであろう。さらに言えば何処も欲しがっている為に供給不足が嘆かれている。

 それでは今目の前に並んでいるKRⅡに関してはと言うと。はっきり言って人気は今の所低い。KRⅠにあった問題点を改修し、地上戦に特化した頑強さと堅牢な機体構成は当初は歓迎された。しかし結局頑丈とはいえ重装甲に身を包んだ戦車や装甲車に劣り、機動性では勝る物の航空機には及ばず、さらに言えばコストは戦闘機の数倍という中途半端さが浮き彫りとなってしまった。従来兵器、特にミサイルを無効化する機能も地上戦ではあまり有用では無い事も痛かった。

 結局KRⅡは従来兵器との明確な優位性を示す事が出来ず、その発展型であるKRⅢが開発されるまで、KRは欠陥品というレッテルを押されてしまったのである。

 現在ではKRを運用する為の下準備も整い、燃費の問題を抱えるKRⅢを補う形でKRⅡが再評価されてはいる。

 だがそれを差し引いても俺達には、このKRⅡから倉庫で埃被ってたから貰って来た感が拭えないのである。

「今さらKRⅡって……」

「完全に払い下げ品じゃないですか!」

「KRⅢが良かった!!」

 生徒達の不満に、 松田教官が厳しく言い放つ。

「お前らにKRⅢはまだ五年は早ぇ!」

 年数が妙に現実的なのが嫌だ。

「ともあれお前等にゃ早速こいつに乗り込んで、専科格納庫まで運んで貰うからな!」

 そう乱暴に言い放つと、松田教官は踵を返してこの場を去ろうとする。完全に後の始末を俺達Cクラスに丸投げするつもりの様だ。

「しかし教官、本日は[ネビュラ]のメンテナンスでネットワークシステムに繋げないんですが?」

 去りゆく教官の背中に委員長が言葉を振り絞る。

 そうだ、[ネビュラ]システムがメンテナンスで使えないという事は、オンラインのアシストがほとんど利用できないという事になる。三つのコクピットモジュールを連結して三位一体となって操縦するKR独自の操縦方法も使えないという事だ。それに対して教官は酷くぞんざいに答えた。

「ああ? そんなんスタンドアローンで動かしゃいいだろ」

「「「うぇっ!!」」」

 俺も含めた大多数の生徒の口から呻き声が漏れる。

 スタンドアローンとは全部手動で、しかもネットワーク等のアシストを使わないでKRを運用する方法である。この場合最低限のオートバランサーや、基礎挙動のみで機体を動かすしか無く、せいぜい歩く事と重機代わりに物を持ち上げる事くらいしか出来ない。逆に言えば、教官の言う通り格納庫に運ぶ事位は出来るのだが、しかも初めて乗る機体で、各種搭乗手続きや長旅による消耗のチェック、起動に必要な初期設定等もこの場で行えというである。その面倒臭さは通常訓練の比では無い。まず機体をハンガーラックから固定具を外すだけでも大仕事である。

「積み荷全部運び終えたら後は自由時間だ、配給祭でも堪能するといいぜ」

 松田教官は実に気前良く振舞っている感じを演出しているが、果たしてこの機体を今日中に全部格納庫に押し込めるのかは甚だ疑問である。

「と、とりあえず……呆然として手も始まらん、作業を始めるぞ!」

 委員長の一声に、皆ぞろぞろと動きだし始めた。

「なるべく同時進行で作業を進めるぞ。俺が進行状況を把握して指示を出す、(あおい)はナビゲーター、六郎はエンジニアをそれぞれまとめてくれ」

 委員長の指示を受けて、副委員長がそれに合わせて最適な行程を組み上げる。

「分かりました。先ずは全員で固定具を外しましょう、その際にエンジニアは機体の点検を同時に行ってください。それが終わり次第、パイロットが操縦席に乗り込んで初期設定を、ナビゲーターは携帯端末でシステムチェックと進路設定、それが終わったらパイロットの操縦に合わせて道中の扉の開閉や障害物の有無等の補佐を行ってください」

 そして真っ先に機体に向かうは、1番機エンジニアにして我等Cクラスのエンジニア棟梁、六郎であった。

「お前等、普段の練習の成果見せるぞ、パイロットやナビの手空かせる様な温い整備した奴ぁ後で座禅だ!」

「「「了解!」」」

 エンジニアの後に続いて、パイロットやナビゲーターも機体の固定具外しの指示を仰ぐ。気合の入ったエンジニア勢の手際は素晴らしく、早くも一体目の固定具の解除が終わろうとしていた。

 このままいけば早急に終わらせられるかと淡い希望を抱いたその時。

「ハーッハッハッハッハッハッハ!」

 唐突に、この場の雰囲気を根こそぎ打ち壊さんとする謎の奇声が鳴り響いたのである。





[アルカの手記-041]


「プレゼントか、そう言えば最近貰ってないなぁ」

「急にいきなり何なんスか姫様……」

「私も欲しいなぁ、プレゼント!」

「だから急過ぎるっスよ! 大体本星に居た時色々と貰ったじゃないっスか、ビルに名前入れられたり、島に名前入れられたり、紙幣に顔入れられたり……」

「嬉しくない訳ではないが、それはプレゼントとはちょっと違う気がする」

「あ、あと彫像貰ったじゃないっスか!」

「美術館に安置されて貰った気がしないのだが」

「我がままっスねー、あ、姫だから当然か」

「いや、よく考えても見よ我宛の気持ちの籠ったプレゼントが一つも含まれてないではないか! 我はもっとペンダントとかヌイグルミとかささやかな物が欲しいのだ!」

「えー専用機星とか皇機種の紋章とか持ってるじゃないっスか」

「え、それってそういう立ち位置の贈り物なのか!?」



[続く]

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