[Mission-040]
前回までのMission!
ちょっとしたハプニングに巻き込まれた昴流は、その後食堂にて本日は休講と知らせを受ける。
しかしCクラスだけはエレベーター前に召集を受ける。そう、あの男が帰ってきたのだ。
[Mission-040]
軌道エレベーターSTT04はその名前の通り、地上と宇宙を繋ぐエレベーターである。
物資搬送船から搬入された荷物は、静止軌道上のステーションから起動エレベーターを使って地上に降ろされる。さらに言えば赤道上に建設された他の軌道エレベーターにオ―ビタルリングを通じて運ぶ事も可能だ。
本来は地上から荷物を宇宙に上げる為に使われるモノだが、地球から宇宙に上がる積み荷は人員くらいな物で、それだけでもこの軌道エレベーターの形骸化が窺えるという物だ。
火星と地球との距離は、接近した場合で約5400万km。人類の現在の科学力を持ってすれば、片道数か月でたどり着ける距離である。しかし、火星と地球が接近するのは2年に一度、最も対象が動いているので周回軌道を待ち構えるなどの手段を用いて、輸送船は年に一度は定期的に着くように運用されている。
ともあれ、火星から補給物資が届くのはそれこそ年に一度のお祭り騒ぎなのだ。一度に到着する荷物も想像を超える量である。とは言っても、その大半が地球で生産されていないKR関連の資材だが。
それら資材は地球上に点在する各軌道エレベーターに分配され、さらに軌道エレベーター各階に配給され、そして最後に地上施設の物資が地上に降ろされる。元々の量の何十分の一くらいの量ではあるが、それでも見上げるほどに巨大な貨物エレベーターに目一杯積み込まれて送られてくるのだから、もともとの物資搬送船の巨大さは想像も付かない。
本来であれば、到着した荷物は機械が勝手に持って行き必要な所に運ばれる。その為貨物の受け取りに人が介入する必要は全くない。それなのに何故俺達Cクラスが貨物エレベーター前に集合を掛けられたのかは、誰にも分らなかった。
彼が姿を現すまでは。
「おう、ひよっこ共、相変わらず冴えない面構えしてんなぁ?」
貨物エレベーターに先行して到着した人間用のエレベーターから姿を現した男は、どう見ても観光客には見えなかった。そもそもこちらは作業員用であり、観光客はこことは別の場所から地上に降りる。このエレベーターはまず一般人は使わない。しかしそれを差し引いても男の目付きや態度は尋常では無い雰囲気を纏っていた。
姿は一応教官用の制服を着こんでいるが、全体的に着崩しており、規律などを守る気は毛頭無いと言った印象を体現している。背は高いがやや猫背気味で、身動きもこじんまりとしているがそれは何処か、肉食動物が音を立てずに獲物に近寄る仕草を彷彿とさせる。髪はぞんざいではあるが短く揃えられ、辛うじて教官という体面を保っている。顔はイケメンには間違いないが、何より目付きが鋭すぎてどう見ても堅気には映らない。そう、一言で表すならば危険な男であった。
松田教官が帰還を果たしたのである。
「オラどうした、お前らの大好きな実技担当の御帰還だぞ、もっと喜べよ?」
松田教官の言葉は、絶望に彩られ口を開く事を忘れた俺達Cクラスに無慈悲に向けられた。俺達はその目に射竦められて、まともに声が発せない。身体に刻まれた恐怖が心を震わせるのだ。
松田教官は立場こそ、俺達Cクラスのパイロット候補生の教官ではあるが、しかしその実態は軌道エレベーター内でその名を知らぬ者は居ないとさえ言われる鬼教官である。
曰く地球防衛軍(SE)でもその力を恐れられ、故にKR専科の教官という立場に身をやつして居るとか。
曰くその昔、単身で一個中隊を相手に勝利を収めたとか。
曰く何度死んでも地獄から蘇る不死の戦士だとか。
曰く火星からの誘致を何度も断っているのは、人間の姿が実はロボットで本体は軌道エレベーター統括システム[ネビュラ]そのものであるとか、等々。
様々な噂の絶えない人物なのである。ちなみに外周一周や訓練地の草むしり等の地獄の様な罰則を考案した要注意人物でもある。
「月への出張お疲れ様でした」
そんな危険人物に特に気負った様子も無く声を掛けるのは、同じ教官職である尾乃教官である。
「おう尾乃ちゃん、そっちも実技代行ご苦労さん」
彼が出張の間、尾乃教官がCクラスの実技を代行していた時間は俺達にとって天国のようであった。
「月の方はどうでしたか?」
「いやいや自律式の戦闘機にしか乗れない奴等に教えるのは骨が折れたぜ、犬にお手教える方がマシだ。それでこいつ等どうだった、弾除けに使える程度にゃなったかい?」
「そうですね、技術の習得練度は想定以上です、流石は松田教官の愛弟子といった所でしょうか」
「ハッ、こいつ等なんざ弾拾いがいいとこさ」
KRの現場用語で弾拾いとは、銃弾を補給したり、破損やパージしたパーツを現場から回収する後衛部隊を示す。非戦闘部隊と言う訳だ。
「しかし成績は優秀とはいえませんね、模擬訓練の成功率も芳しくありません」
「ほぉう?」
ギラリと松田教官の瞳が光り、俺達に獣の如き視線を投げつける。思わずパイロット一同はその場で背筋を正して整列した。
「あ、でも他のクラスも松田教官の指導の下で頑張っていますし一概に彼らに原因がある訳では」
尾乃教官が慌ててフォローを入れてくれるが、松田教官の険しい表情は変わらなかった。松田教官は尾乃教官の静止を振り切って、俺達の方へ無言でゆっくりと近づいてくる。その様子は、外敵を前にしてそれでも悠然と闊歩する虎を思わせる。
まず松田教官は1番機パイロット空鷹の前に行くと。
「おう、機体破損率は平均でどれくらいだ」
「は、はい……教官の言われた通り、現在で大破はゼロです! 平均破損率は45%です」
ふむ、と呟いて次に、2番機パイロット煤の前に。
「で、言われた通りの命中率は達成しているな?」
「あ、ああ……射撃命中率は70%を維持している……」
今度は3番機パイロットフレックスの前へ。
「ちゃんと撃墜してるかぁ?」
「お、おう……ちゃんと目標数は撃墜出来てるぞ」
最後に教官は俺の前に立った。
「それで、生き残ってるかぁ?」
この質問はつまり任務中に、撃墜されていないかと聞いているのだろう。
「……アンノウン機にやられた」
あれは任務に含まれないと言われても、俺の中で黒星には違い無かった。
「通常任務中は?」
「アンタは俺が他のクラスに遅れをとると思うか?」
むしろ挑発的に教官を睨み返して見せた。そんな事はこの男にはあえて言葉で言う必要は無いと感じたのだ。
「……いい返事するじゃねぇか」
険しい表情を和らげて、松田教官は元の位置へと戻っていった。
「えっと……ですから、成績不良のペナルティとかはまだ早計かと」
言葉を続けようとする尾乃教官に、松田教官は和らいだ表情で返した。
「何でさ、俺の言い付けた成果達してんなら文句は無ぇよ、それともそれじゃ足りねぇから何か罰与えてやれってか? そりゃ酷ってモンだぜ、尾乃ちゃん見た目によらず鬼教官なんだな」
「違いますっ!」
揶揄われて顔を赤くして叫ぶ尾乃教官が可愛い。
尾乃教官とのやり取りで松田教官からの気配がかなり和らぐ。流石は尾乃教官、我らの清涼剤である。それによってCクラスの面々も緊張が解れた様子だ。
[アルカの手記-040]
「なるほど、この男は我が戦士の師匠と言う訳か」
「なーるほどっスね、この眼光の鋭さ、この威圧感ただ者じゃないっスよ」
「ほう見ただけで分かるのか?」
「そりゃもちろんそうっスよ、僕の師匠と似た雰囲気持ってますもん」
「む、そう言えば機星はいったい誰に戦い方を教わるのだ?」
「えーそりゃ僕等みたいな兵士階級は上位の階級からとか、僕なんかは武装が同じって理由で[クルド]様から教わったりしたっスよ」
「ほう、やはり誰にも初心者の頃はあったのだな、で、その[クルド]は誰から教わったのか?」
「えーどうなんスかね、原初の機星の方々だし、最初から強かったイメージあるっスけど、やっぱその辺は初代の皇機種に教わったりしたんスかね?」
「ではその初代の」
「キリ無いんで止めませんスかッ!?」
[続く]
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