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[Mission-039]

前回までのMission!


 新兵器の軌道実験を行っていた昴流は、異星人の口論に巻き込まれるのを避ける為、逃げ出すように転送装置に身を委ねた。しかし転送された先は身動きが取れず薄暗い変な場所であった。もしや転送事故かと恐れおののく昴流の前に現れた者とは一体?

[Mission-039]



 色々と怖い想像が頭を過る中、唐突に目の前に光が入り込んで来た。そこで俺はようやく自分が、何か狭い箱の中にすっぽり収まっている事に気づく。

 箱の扉を開けたのは、()(こと)であった。

 彼女は髪を短く整えているものの、いつも癖毛が跳ねていてそれが可愛く見える。低い身長に童顔、化粧っ気の無さも相まってかなり子供っぽい。しかし今は薄いピンクのキャミソールにパンティだけと言う下着姿で、相反する色っぽさを持っていた。腕に脱いだばかりと思われる上着を抱えて、クリッとした丸い瞳を限界まで開けて、口も半開きで固まっている。え、何でこんな所に? という何が起こったのか理解出来ない様な表情を浮かべて立ち尽くしていた。

 ちなみに俺も同じような表情を浮かべている。

 彼女越しに外の風景がチラッと見えるのだが、そこにも下着姿の女生徒が窺える。って事は……嫌な予感が全身を駆け巡る。

 どうやらここは、女子更衣室のロッカーの中の様だ。

 とりあえず何か弁解の言葉を口にしようとした瞬間、彼女はハッと意識を取り戻す、そして素早く足元の鞄からバスタオルをとりだすと俺の頭上のハンガーに掛けた。どうやら外から俺を見えなくしたらしい。そして声を潜めて慎重に問いかける。

「…………何でアンタが此処に居るのよ……? 返答次第じゃ大声で叫ぶけど、OK?」

 すぐに大声で叫ばない観言さんの優しさに感謝しつつ、俺も声を潜めて言葉を選ぶ。

「観言落ち着いて聞いてくれ、これは……不慮の事故なんだ、ここが更衣室だとは知らなかった」

「大きく表示出てるし、多機能端末の電子ロックで女子生徒の承認が無いと入る事も出来ないんだけど?」

ヤバい観言の目が俺を訝しんでいる。しかし、どう返答すれば身の潔白を表明出来る? 転送の事故でとか言ったら話がややこしくなるし。

「……えっとな、俺は」

 何とか自然な流れでここに至った理由を説明しなければ。さもなくば俺は、この場の全女子からリンチに合う事になる。それは避けたい。全人類に喧嘩を売るよりも、更衣室内の女子と敵対する方が恐ろしい。

「……その、かくれんぼで」

 直後に彼女のエルボーが鳩尾に突き刺さった。痛みに息が出来ず、思わず折れる身体を何とか根性で支える。今倒れる訳にはいかない。

「アンタってもうっ、はぁ……いいわ、馬鹿なのはもう治し様が無いのは分かってた事だから。私のロッカーを選んだって事は、そういう事なのよね? わかったわ……助けてあげるしかない様ね」

 何だか物凄く酷い言われ方をしているが、溜息交じりに諦めた様子で呟く観言が女神の様に見えたのは事実だ。

 観言はロッカーの戸を少し閉じてから、着替え中の他の女子生徒に声を掛けた。

葵姉(あおいね)―、ちょっと忘れ物しちゃったから更衣室の施錠私しとく―」

 観言に話しかけられた副委員長が言葉を返す。

「そうですか、遅れるようでしたら尾乃教官には私から言っておきますけれど」

「そんなに遅れないと思う、でも着替え中に扉開けるの悪いし」

「そうですね、ではお願いします」

 観言は実に巧妙に扉の施錠役を請け負って、更衣室の皆が出て行くのを見送った。そして他の生徒が出て行ったのを見送ってから、俺をロッカーの中から蹴り出した。

「ったく、分かってるの? こんなの懲罰房行きよ! うちのチームを解散に追い込むつもりなわけ!」

 観言の怒りもごもっともだ、ここは何とか気の利いた台詞で機嫌を取っておきたい。

「えっとその観言、助かったよお前が居なかったらどうなっていた事か」

「謝辞の前にせめて経緯を説明しなさいよ!」

 ぬぅそれは無理な相談だ。と言うか、異星人の転送技術を調子に乗って使ったら女子更衣室のロッカーの中に転送されましたと言っても、恐らく信じては貰えないだろう。何とか誤魔化さなければ。

「それはその、あっと……いや可愛い観言さんに助けて貰って凄く嬉しいよ、あ、ピンク似合うね!」

 その言葉で、観言は自身がまだ下着姿だった事を思い出した様だ。途端に顔が真っ赤に染まり、顔を俯ける。そして禍々しいオーラを纏いつつ、優しく告げた。

「いいわ……シャワー室の更衣室じゃない分は加味して、半殺しで許してあげる……」

 うん観言さん、それ許してないね。



「いやぁ、早朝訓練サボったはずなのに、何でそんなにボロボロになっているんだぃ?」

 食堂で隣の席に座った芦屋(あしや)が、ロールパンにバターを塗りながら実に愉しげに、俺の怪我を指摘して来る。

「今日はちょっとハードな自主練だったんだよ」

 芦屋の反対側には、まだ不機嫌そうな様子の観言が座って朝食のトーストをかじっている。この件についてはしばらく飯を奢るという事でこれ以上触れないという契約を交わした。俺もこれ以上説明のしようが無いので、こういう時に観言の物分かりの良さは助かっている。

 この話題にはこれ以上口を挟むつもりは無いと言いたげに、俺はクロワッサンを口に頬張った。俺も観言も口を閉ざしたとなると、流石の芦屋も肩を竦めて大人しくなった。

 そんな俺達とは対照的に、本日の食堂は普段よりも何割増か騒がしかった。

 物資搬送船が少なくとも昼頃には物資の納入を行う事や、それに伴った観光客向けの配給祭、あとはいまだに報道科がしつこく流す、例の未知の兵器についてとか。

「ほらアレまだやってるぜ」

「アレって、結局報道科のガセだったんだろ?」

「でもSE支部の壊滅は事実だとか」

「そう言えばもう一機現れたんだってね」

 もう表だって騒がれる事は無くなったが、たまにこうして話題に上がる程度には覚えられているようだ。当事者の俺としては一刻も早く忘れ去って貰いたい。

 そこに。ちょっといい? とばかりに珍しく尾乃教官が顔を出した。

 尾乃教官は基本的に売店で買った軽食を片手にいつも仕事に励んでいるイメージなので、食堂に来るのは珍しかった。

「あら丁度皆居るわね、ちょっとこれ借りるわよ」

 教官はそう前置きして、食堂のモニターに文字を表示させる。

「今日[ネビュラ]システムの管理会社が、この前の通信異常の件を調査する為に大規模なメンテナンスを行うから、本日は休講って事で」

 そこで食堂各所から歓声が上がった。

 KR関係は[ネビュラ]システムに依存している割合が多く、システムが使えないとなるとやれる事がほとんどない。今さらスタンドアローン状態で実機に乗り込んで校庭を走った所で、後の整備の方が大変で割に合わないのだ。

「あ、でも今日補給物資が届くんですよね? それ大丈夫なんですか?」

「え―折角の休みなのに、上にあがれないと意味ないですわ」

「配給祭は延期って事?」

 生徒達の不満に、尾乃教官は機敏に対応する。

「管理会社が言うには、設備自体は使えるけど手動操作になるそうよ、あとサブシステムだけで動かすからなるべく負荷を減らして欲しいって。軌道エレベーターのシステムとは別系統をチェックするから、補給物資は問題無く送られます」

 そこで再び歓声が沸き上がった。

 しかし、教官は補足するように。

「あ、Cクラスの皆は午後に、搬送用の大型エレベーター前に集合ね」

 そこでCクラスの生徒からは不満の声が沸き上がった。

 生徒達の不満をさらりと受け流して、教官は素敵な笑みを浮かべて続けた。

「喜びなさい、松田(まつだ)教官が帰って来るわよ」

 その言葉に、Cクラスの声は悲鳴に変わった。



[アルカの手記-039]


「お祭りか、甘美な響きだな」

「あーそういや姫様お祭り行った事無かったスね」

「うむ、お祭りとは一般の者達が楽しむ事であり我ら支配階層が出向くモノでは無いときつく言われてな」

「あーお兄様方結構お堅いっスもんねー」

「祭りの際は部屋に閉じ込められたし、出られる様になったら今度は特別席に座らされて動けないしでいい思い出が無かったぞ」

「そりゃ災難っスね、一番上の兄様なんか昔こっそり部屋を抜け出して遊び歩いてたりしたんスけどね」

「何だと!? 我には厳しく言っておきながら自分は堪能していたと言うのか! あの裏切り者め!」

「っていうか、姫様どちらかと言うと祭られる側っスからね、むしろこっちの祭りじゃ主役っスよ」

「変な飾りだらけの椅子に何時間も座らねばならんのだぞ、退屈でしょうが居ない、挙句座席ごと持ち上げられて永遠移動するなど何が楽しいのだ!」

「いや、やってる側は案外楽しいと思うんスけど」



[続く]

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