[Mission-038]
前回までのMission!
とりあえず敵の機星から奪った武装の為しうちをする昴流。果たしてこれが新たな力となるのか。
[Mission-038]
「とは言っても、こう取りまわし辛いと使い勝手が悪いな」
射撃兵装はありがたいが、こうも大きいと近接戦闘の時に邪魔になる。一応槍としても使えるらしいが、KRの武装に槍は無いので使いこなすにはかなり練習が必要そうだ。
「むしろ蜥蜴の方に乗り換えるって事は出来ないのか?」
長いだけで使い勝手の悪いこの槍は、もとはと言えば蜥蜴の尻尾だ、そして尻尾と言うならば話は変わる。機体の体勢を問わず繰り出せる尻尾による攻撃や、素早く精密な射撃には中々苦しめられた。極めつけは不可視状態になる機能だ。あれが使えれば、今後の戦闘が非常に有利になるはずなのだが。
〈第八機星は貴様に破壊されて現在修復中だ。第九機星の修復を優先したので搭乗出来る様に成るまでにはまだかなりの時間を要する〉
格納庫の状況がモニターに表示される。ファルアタートの底辺部は巨大な機星の格納庫兼整備ドックとなっている。画面の中では卵形態の第八機星が静かに自己の修復を待っていた。
「なら尻尾じゃなくて見えなくなる機能を装備するとか」
〈機星の持つ機能には本質に依存する能力と、他の機星と共通の機構を持つ能力に分かれる。特にフリスの不可視化は本質の能力であり、その仕組みは分からない〉
つまり彼らにも、蜥蜴がどんな仕組みで不可視状態になっているかは分からないという事か。存外いい加減だな異星人のテクノロジー。
「ちなみにさ、この第九機星の本質の機能って何なんだ?」
S・ソードは蜥蜴の尻尾先にも展開されていたので恐らくは共通の機構を持つ能力の方だろう。そうなると、この機体にはまだ俺の知らない機能が眠っているという事になるんだが。
〈生憎とサーヴァントは機星に関しては権限を持たない、特に武装に関しては触れる事すら出来んのだ〉
「じゃアルカ、お前知ってるか?」
スミスを諦めて、何か知っていそうな姫様の方に呼び掛けてみる。
〈……さてな、聞いた事も無い〉
返事は素っ気無かった。
さてこの会話をさらに追及すべきかと悩んでいると、今度はスミスの方から姫様に報告が入った。
〈姫様、遥か上空ですが、軌道エレベーターと呼ばれる建造物に近づく物体がおります〉
〈何……!? まさか、我が宣言を受けて増援部隊を寄越したと言うのか!〉
何処までも自信過剰な姫様だ。あんな胡散臭い宣言にSEが本気を出して対策を練る訳が無い。
「そりゃ物資搬送船だよ、そういや補給物資が届く頃だったな」
新暦WW。技術や文化の多くが火星に移り、地球は過疎化していた。
軌道エレベーター付近の施設は、食料などは近隣から買い付けるものの、ほとんどの生活物資を火星からの補給に頼っていた。特にKR関係の資材に関しては、この補給でしか手に入らない。故にKE専科としてはこの物資搬送船が生命線と言える。
「って事は、今夜あたりお祭りだな」
物資搬送船はSEにとっては貴重な物資を運ぶ手段ではあるが、同時に観光客を運ぶ客船でもあった。その為補給物資がある時は、必ず各所で歓迎のお祭りが行われるのである。古い物資を使い切る目的もあるかもしれないが。
〈お祭り……? お祭りとはなんだ?〉
俺の呟きに姫様が食いついた。
「まぁ大したもんじゃない、出店とか催しとかが出張って、何か騒がしくなるんだよ」
正直祭りはあまり好きじゃなかった。人混みにもまれるくらいなら、シミュレーターに籠って自主練していた方がマシである。
〈出店とな、聞く限りだと楽しげではないか!〉
〈姫様なりませんぞ! 皇機種たる者、その身分にあった振舞いをですな〉
〈スミス、貴様の考えは古すぎるぞ、今は柔軟にこやつらの文化を観察し新たなる時代をだな〉
こいつ等の言い争いは一度始まると凄く長引く。そもそも互いに意見が平行線なので、決着付かない所が厄介だ。
「そろそろ講義の時間だ、送ってくれ」
俺は割り込む様に言葉を発した。
〈……機星の座席からは転送出来ん、一度格納庫に降りろ〉
「はいよ」
スミスが言い終わると同時に、機星の乗る甲板が沈み始めた。そのまま最下層の格納庫に機星が収まるのを見届けると、コクピットで外壁を開閉させて格納庫へと降り立つ。
ファルアタートの格納庫は非常に広く作られており、基本的に無人である為真っ暗だ。機星自体が薄く発光している為足元くらいは見えるが、それ以外は何処までも闇が広がっている。
格納庫片側の奥は、この前出撃した射出口へと通じている。もう片方は反対方向の射出する為の出口だろうか、しかしこっちは閉鎖されているらしい。方角としては艦橋方だがもし機星の射出口として使うならこっちの方を普通は使う物なんじゃないだろうか? それに封鎖している扉に浮かんでいる紋章も気になる所だった。機星にはそれぞれパーソナルパターン的な文様があるらしく、その扉の文様は今まで見た事が無かった。俺の単なる考え過ぎならいいんだが、もしかしたらこの格納庫には、俺の第九機星や第八機星以外の、もう一機が隠されているのかもしれない。
しかし、たとえそうであっても俺には関係ないかと思い直す。
「じゃ、人目の無い所に転送してくれ」
俺は誰も居ない格納庫で、独り言を発するように呟く。すると通路の一部がせり上がって、転送用のゲートを作りだした。
この転送技術はファルアタートを起点として約5000Mを有効範囲としている。転送の条件はある物の、有効範囲ならば何処からでもファルアタートへ、そしてファルアタートから任意の場所への双方向転送を可能にしているらしい。しかし転送範囲内であってもファルアタートを経由せずに転送は出来ないのが少し手間だが。
現在KR専科を転送範囲に入れて貰っているので、こうやって気軽に異星人の船にお邪魔する事が出来るのだ。だが便利だからと、あまり出入りするのも考えモノかもしれない。特に転送の瞬間を見られたら、どう説明すればいいやら。
そんな普通の学生ならば考えなくていい事に頭に悩ませつつ、俺はゲートを潜った。
転送される感覚と言うのはどうにも説明し辛い物がある。エレベーターに乗ったら、実は洗濯機だった感じ? ジェットコースターな観覧車と言うか、とにかく慣れない内は目を回す代物には間違いない。
意識と身体の感覚が繋がるのには少々の時間を要した。
意識が戻っても体の身動きがとれなかったのだから尚更だ。目を開けても周囲は薄暗いままで、全く状況が判らなかった。
そして次第に恐ろしくなった。
まさか例の2%の転送事故に巻き込まれて、時空の狭間に挟まったんじゃないかとか、転送の座標がずれて構造物の間に入ってしまったんじゃないかとか嫌な事を考えてしまう。
[アルカの手記-038]
「ふむ使用に問題は無いようだな」
「おやおや僕の武器を使ってるんスか、当人に断りも無く使うのはどうなんスかねぇ?」
「いいではないか、どうせ格納庫に横たわるしか出来ない分際で」
「それを言われると辛いんでスけどね」
「しかし私は尻尾を生やした事が無いからな、あれの使い勝手が今一良く分からないんだが、実際どうなのだ尻尾と言うのは?」
「そうっスね、使ってる時は体の一部ってかんじっスから特に違和感はないんスけど。まぁバランスはとりやすいっスよ、走る時とか便利ッス、後泳ぐ時とか」
「機星なのだから走ったり泳いだりする必要は無かろう?」
「そうっスね、あとちょっと手が届かない場所にある荷物とる時とか、テレビの主電つけたいけどコタツから出たくない時とか、背中が痒い時とか便利っスね」
「……私も生やそうかな尻尾」
[続く]




