[Mission-037]
前回までのMission!
辛くも第8機星を倒した昴流は、人時の平和を手にするのであった。
しかしそれは新たな波乱の幕開けか?
『第三話』始まります。
[Mission-037]
小波につられて、コクピットが緩やかに揺れた。
見渡す限りの大海原に、心は何処までも穏やかになる。
俺はそんな雄大な光景を見つめながら、呑気に背筋を逸らして伸びをする。この前までの大騒動が、まるで悪い夢だったかの様だ。
アルカの地球征服宣言から、すでに二日が経過していた。
報道科を通じて、アルカの宣言は軌道エレベーター内全てに放送され、地球圏は終末を迎えたかの様な大混乱に……はならなかった。
何故かと言うと、この一連の出来事の直ぐ後に軌道エレベーターで起こっていた通信異常が解消したのだ。それにより、今までせき止められていた火星からの情報が溢れだし、アルカの宣言はあっさりと埋もれてしまった。
さらに言えば報道科の用いた撮影方法は旧式で画質が粗かった。無人撮影機が使えないという状況では、健闘した方だと思う。しかし古い映画の様な画質では説得力に欠けてしまう。そしてアルカの征服宣言が実に胡散臭い演出だった事で、捏造された物だと疑う者が多かった様だ。つまりそれほど盛り上がらなかったのだ。
かくして軌道エレベーター及びSE、そしてKR専科は今日も平和な日常を謳歌しているのであった。
〈解せぬ、何故我の宣戦布告で恐れおののき、パニックにならんのだ! そうなればその隙に我が好き勝手に動き回れると言うのに!〉
艦橋で踏ん反り返るアルカの不満が、通信越しに聞こえてくる。
「急ぎ過ぎたんじゃないか」
俺はアルカの嘆きに呟いた。
〈何だと?〉
「もう少し謎の存在で居れば、注目度も変わったかもな」
あくまで俺は独り言の域を出ない呟きで返す。
アルカは自身の姿を晒す事で、より征服への具体性を示そうとしたのかもしれない。しかし人間は正体の分かっている物にはさほど関心を持たないモノだ。世の混乱を狙うならば、もう少し水面下で機会を狙うべきであったのだ。
〈しかし……我が宣言しなければ地球人は驚異の正体を認識できまい〉
「知らない方が怖いって事もあるぜ」
〈ふむ……〉
「どの道トップはあんまり前に出ない方が良いのさ」
それ以降の言葉は帰ってこなかったので、会話はうち切った。
何事も無ければ、それは平和でいい事だ。
現在俺達は、軌道エレベーターから5000Mほど離れた海洋上に居る。そこに停泊する異星人の宇宙船ファルアタートの甲板の上で、異星人の起動兵器のコクピットシートに俺はのんびりと座っていた。
軌道エレベーターの間近だと言うのにまったく探知されていないとは恐るべき隠蔽能力だ。
コクピット内の全天周囲モニターは、背後に軌道エレベーターSTT04の雄大な姿を、正面には見渡す限りの大海原を、そして頭上には空は雲一つない晴天を映し出す。心を癒す波の音、上空を通るカモメの声、これを平和と言わずして何と言う。
さてここで何故俺が、第九機星と呼ばれる異星人の兵器に乗っているかについて説明をせねばなるまい。
地球出身、地球在住のしかも地球防衛軍(SE)の傘下組織であるKR専科に所属する俺が、何ゆえに地球征服を目論む異星人と言う敵対して然るべき勢力と一緒に居るかと言うと――。
〈昴流よ、機体は思い通り動くか?〉
アルカが問いかける。
「ああ、俺一人でも動かせる、問題無い」
〈ふむ、生体波動の登録は成功したようだな〉
アルカの言葉に、モニターに現れた可愛いんだか不気味何だかよくわからないマスコットが答える。
〈メディカルスキャンも問題無いようですぞ、機星との拒絶反応も見受けられません〉
「だから、リスクがあるなら事前に言えっての!」
相変わらずこの異星人共は、安全に関する忠告が抜けている。幸い変な事には成らなかったから良かったものの、何か変な事に成ったらどうするつもりだ。
〈それはそうと武装の準備が完了した、甲板に送るぞ〉
マスコットは不機嫌そうに、俺に荷物を送る仕草を見せる。
「了解っと」
返事を待たずして、機体の隣で甲板が開き何かがせりあがって来る。それは台座に備えられた兵装であった。馬上で騎士の扱う突撃槍を彷彿とさせる武装で、この機体よりも長い。パッと見た感じでは切り落とされた蜥蜴の尻尾に見えなくも無いが、実はこれ紛れも無く蜥蜴の尻尾だったりする。
太い鍔の先にある部位を機体の手で無造作に掴んで、腰で支えるように構えた。
「んじゃ、適当に海面に向かって撃てばいいんだな?」
〈上に向かって撃つなよ、ファルアタートの偽装地形の範囲には限界がある。では皇機承認!〉
アルカの力強い言葉と共に、機体のモニター正面に複雑な文様が浮かび上がり、機体の火器管制に[テイル・ランス]という名前の武装が追加された。
俺は機体の腕で抱えた武装の照準を、適当に海面に合わせる。起動させると、先端部位の装甲が展開し、結晶状の機関が露出した。
そこに強い光が灯り次の瞬間、眩い閃光と共に一条の粒子が迸り水面で爆発を起こして水柱を発生させた。水柱はこの機体の頭上で弾け、虹と共に小雨を降らせる。
「思ったより威力が高いな」
遅れて生じた津波が船体を揺らす中、俺は驚愕と共に呟く。本来の持ち主と戦った時はここまで派手な衝撃はなかったはずなんだけどな。
〈それが最大威力だ、出力を絞る事で連射性が上がり消費粒子が抑えられる〉
マスコットのスミスが説明を補足する。確かに計器を見ると、機体のS粒子残量が早くも60%程度になっていた。
――何故地球人類の俺が、異星人の兵器に乗っているのかと言えば、奪った武装の試運転を行う為だったりする。
先日俺は、辛くも異星人の姫様を追う機星と呼ばれる兵器を倒した。その戦闘により対峙した第八機星は大破し、現在はファルアタートの格納庫内で機能を停止したままの状態にある。アルカでは第八機星に与えられた命令を取り消す事が出来ないらしく、このままの状態では仲間にする事は出来ない。仕方なく、せめて武装だけでも第九機星に換装出来ないかという事で今回の試験運転という話になった。
[アルカの手記-037]
「よく来たなフリよ」
「な、何なんスか、ここは何処ッスか!?」
「ここか? ここは本編とは全く関係ない良く分からない空間だ」
「はぁ……僕って確かミストに乗ってた地球人らしき相手に負けたんスよね、それでどうしてこんな所に?」
「ふむ、分からないか。ならば教えてやろう、本編で敗れ去った今お前の出番は暫くは無い。しかし、そのままでは読者に存在が忘れ去られてしまうという事を危惧して、私がお前をここに召喚したのだ」
「はぁ、なるほど。すると姫様も本編の出番が無くてここに来てるんスか?」
「何を馬鹿な、私などもう出ずっぱりに決まっているではないか! 主役だぞ! 主役たる私が出番が無いなどと何を馬鹿な!」
「いやものすっごい動揺してるっスけど……」
[続く]




