[Mission-036]
前回までのMission!
正面から蜥蜴型に勝負を挑んだ昴流。敵の猛攻を掻い潜り、とどめの一撃と言う所まで迫る。
しかしその瞬間、卑怯にも敵は姿を消す能力を発動させたのであった。
[Mission-036]
そう言えば敵には高度な隠蔽機能が備わっていると言っていた。
って言うか戦闘中に姿を消すなんて卑怯な真似はしないって言ってなかったか!?
俺は周囲に神経を巡らせ、気配を探る。直後、機体側面に敵の機影が現れた。
同時に背後から敵の刃が迫る。
その攻撃は不覚にして不意の襲撃。死角から迫る必殺の刃で、敵にとってみれば絶対の自信を持った奇襲であっただろう。その一撃は俺には見る事も叶わない不慮の攻撃にして、予見出来た攻撃に過ぎなかった。
何故なら曲のノリは最高潮、機体の調子も絶好調、意味の無い機体の操縦、理由の無い闘争、場所を選ばない歌唱の中で、そのタイミングを逃す事など俺にはあり得無い。
「――Before this wing is broken♪」
身を逸らして攻撃をかわし、刃で尻尾を斬り付ける。敵のSバリアーごと敵の尻尾は切り飛ばされ、次いで刃が胴体の中枢を貫いた。
曲の終了と共に、敵機のスリットの光が消えて、地面に崩れ落ちた。
静寂が妙に心地良かった。そうかこれが最後に立つという事、生き残るという事、勝利という事か。最近味わっていなかったが、やはり恐ろしく愉しいモノだ。
「――うぅむ、終わったか?」
背後にアルカの吐息と鼓動を感じて、俺はようやく意識を取り戻した。
忘れていた呼吸を再開させ、体全体に酸素を巡らせると、途端に溢れるほどに汗が出てきた。充足感のある戦いの後はいつもこうだ。たった3分未満の戦闘だと言うのに、まるで数時間戦ったかの様な疲労感だった。項垂れるように座席に背を預けようとして、ふくよかな感触が背中に当たり後ろに人が居る事をようやく思い出した。慌てて体を起こそうとして、ふわりと背中から両腕に抱すくめられた。
「よい、よくぞ頑張った。少し休むがいい」
アルカの優しげな言葉に、俺は少しばかり甘える事にした。
「――ああ強かった……もうごめんだ」
「そうだな、一段落付いたら急ぎお前の生体波動を登録する事にしよう。このまま同乗し続けたらお前の操縦に殺されかねない……」
そう言えば戦闘中、背後からやめろだの助けてだの悲鳴が頻繁に聞こえた気がする。
しかしこれが機星の強さか。まさに決闘、まさに死闘、命を削る戦いであった。いや、本当に命を掛けた戦いだったのだ。
足元に転がる敵の残骸を改めてみた。機能を停止していると、休止状態の球形には戻らないようだ。胴体の真ん中には俺が穿った刃の穴が、死を象徴するが如くぽっかりと空いていた。敵の機体に胴体以外に操縦席が入りそうな場所はない、という事は一撃で仕留められた様だ。
俺は改めて敵機に向けて、深く頭を下げた。何となく敬意を払いたくなったのだ。
「この様子じゃパイロットは助からないかな……」
真剣勝負とはいえ、そして異星人とはいえ人を殺してしまった。その実感や感触はないが、気分の良いモノでは無い。
「ふむ、パイロットが我の様な対話用外装を指すのなら、安心するといい、機星にパイロットは存在しない」
「あ、そうなんだ」
「少なくとも地球に派遣された機星には搭乗者は居ないはずだ」
つまり無人機と言う訳か。
「ん? ならこの第9機星もパイロットは不要って事か?」
「いや機星の自律個体は兄の支配下にある、我らの意思で動かすには貴様の働きが必要だ」
という事は、この先も俺の腕一つで何とかしていかないといけないって事か。気の滅入る話だ。
〈姫様、地球の報道という奴が近づいてきました!〉
モニターに遠くから姿を現す報道科のトレーラーが映される。ようやく機星同士の戦いを嗅ぎつけやってきたようだがもう遅い、後は敵機の残骸を回収して引き上げるだけだ。
「そろそろ動くか?」
アルカに目配せすると。
「いや、少し待て」
そう言って彼女は座席を降りると、カシャンと出会った頃に着けていたフルフェイスの宇宙服の様なヘルメットを装備した。そして何も言わずに搭乗口を開けて外へと出ていく。何をするかと見守っていると。
〈地球人に告ぐ!〉
唐突に、周囲を取り巻く報道科の無人撮影機に向かってアルカの声が響く。
慌てて全天周囲モニターで探ると、アルカは第9機星の頭部の横で、さも征服者っぽい恰好でポーズを決めていた。
〈我々は遠き[カレント・スフィア]より来訪せし皇機主である! これより地球は我等によって征服される事となるだろう!〉
もはや止める暇も無かった。彼女は全人類に向けて高らかに宣戦布告をしてのけたのだ。
〈全てはスフィアの元へ(オルシャルドリターントゥスフィア)〉
この日、地球圏は異星人からの宣戦布告と言う未曽有の事態に巻き込まれた。
そしてその影に人知れず巻き込まれた憐れな青年(俺な)が居る事を、今はまだ誰も知らない。
機星がファルアタートに転送される光を見ながら、俺は高らかに笑うアルカを見た。
〈ハハハ、さぁ我が戦士よ、地球征服を始めよう!〉
俺は疲れた表情で、呻くように呟く。
「たった一機でここまで苦戦したっていうのに、どうやって今後も戦い続けるつもりだ」
その言葉が聞こえたらしい。アルカは自信満々に言ってのけた。
〈お前が戦えばいい、残り十機の機聖も、地球の軍も、立ち塞がる敵全てを切り開けばいい、それが出来ると私は信じている!〉
「それが買いかぶり過ぎだっていうんだ」
正直言って無茶ぶりにもほどがあった。
多くを求め過ぎだと思う。
不可能だときっぱりと断りたかったが、しかし心のどこかで期待される事自体は悪い気がしないと思ってしまった。それが運の尽きだ。
〈次も期待しているぞ♪〉
その天真爛漫な、純真無垢な、俺を心底信頼し期待を込めた笑みを前にして、野暮な事を言える奴が何処にいるだろうか。
「……仰せのままに」
むしろ次も期待に答えたいと思っているから始末に負えない。
[Mission- continue……]
[アルカの手記-036]
「ううう……うぷ」
〈大丈夫でございますか姫様?〉
「ううむ、機星の機動力侮っていた。我はもうあやつの操縦に同席したいなどとは言わん」
〈でしょうな、流石に戦闘中のコクピットは慣れない者には拷問でしかないでしょう〉
「あやつは何故平気な顔をして要られるのだ……」
〈それはまぁ日頃から訓練しているからでしょうな、あと実際に操縦している物には次の動きが予想できるので酔いにくいとか、さらに言えば戦闘中ならばそもそも集中していて周りが見えていないという事もあり得ますしな〉
「ともあれあの様な乱暴な動きをする乗り物には、当分乗りたくも無い。ささっと登録を済ませてあやつの専用機としよう」
〈よろしいのですか? あの様な地球の民に機星の操縦を委ねるなど……危険なのでは?〉
「あやつの操縦ほど危険なモノもそうはあるまい! ええい我は決めたのだ、もう機星に乗るなどと言う危ない事はせんとな! もう乗らんぞ、絶対にだ!」
〈変なトラウマを負ってらっしゃる……〉
[続く]




