[Mission-034]
前回までのMission!
蜥蜴退治の最終準備をアルカ達に頼む昴流。
そしていよいよ戦いの場へと赴く事となる。
[Mission-034]
「全てはスフィアの元へ(オルシャルドリターントゥスフィア!)!」
暗転した艦橋に、威勢のいい声が響いた。
煌びやかなライトが部屋中を飛び回り、天井が円形に開く。そこから下降する台座に載った、銀長髪に銀の衣装に身を包んだ少女が姿を現した。少女が両手を広げると、その周囲を銀色の粒子が飛び交いまとわりつく。粒子は少女を彩る装飾や衣装へと形を変え、彼女をこの船、ファルアタートの指揮官に相応しい恰好へと整える。
身支度を終えた彼女、アルカは正面に手を広げ片手を腰に当てて宣言した。
「さぁ、地球征服を始めよう!」
それに対して、この場の唯一の聴衆である俺は冷静に指摘する。
「地球征服じゃなくて蜥蜴退治な」
今は軌道エレベーターに設定された基準時刻でいう所の早朝にあたる。
敵は隠密に優れた機体で、それこそ本気で隠れ潜んでいる場合こちらからは見つけようがない。
しかし幸いな事に敵はこちらを見つけようと躍起になってSE施設を襲撃している。俺達は敵が次に襲撃を起こした際に迎え撃つ事にした。そして今、スミスがファルアタートの探知機が敵、第8機星のS粒子反応を探知したと告げ、俺が転送されたのだ。
「では参ろうか」
そう言ってアルカが指を慣らすと、俺の足元に穴が開いた。
「ちょっ!」
抗議する間もなく俺はそのまま穴の底へと落下し、間髪入れずにアルカもその穴へと身を投じる。穴の中をどう転がったり滑ったかは良く分からないが、気が付くと俺は以前にも座った事のある座席へと腰を落ち着けていた。
〈姫様、第9機星ナイト[ミスト]の起動準備は終わっております、何時でも出撃可能ですぞ〉
「うむ」
偉そうに踏ん反り返るアルカに、俺は控えめな声で話しかける。
「あのさ……」
ここは前回も搭乗した機星と呼ばれる異星人の起動兵器の操縦席だ。KRよりも広い全天周囲モニターは、ファルアタートの格納庫から発進用のカタパルトにこの機体が運ばれている様子が映る。座席は空中に浮いているがふわふわと頼り無い感じは無くしっかりと虚空に固定されている。そして座席に座る俺の背後に、やはり二人羽織のような恰好でアルカが座っているのである。
「この操縦スタイルは何とかならないのか?」
「何だ不満なのか?」
アルカが不機嫌そうに尋ねる。いやそもそもそんなにサイズにゆとりのある操縦席でもないしな。さらに密着するように覆い被さってくるので、その女の子の柔らかさとか胸の膨らみとかが操縦に邪魔っていうか。
「仕方あるまい、お前の生体波動を機星に登録するのを忘れていたのだからな」
どうやらちゃんと準備を行えば、俺一人でもこの機体は操縦出来るようである。
「次は忘れないように頼むよ、もっとも次があればだけどな」
彼女の言葉が耳元を擽る感覚に、背筋を震わせる。とは言ってもいざ戦闘になれば、そんな事は気にしている余裕は無くなるのだろうが。
「さぁ我が戦士よ、ナイトミストにCの息吹を」
「こうか?」
言われて、ポケットからキーホルダーみたいな宝石をとりだす。しかし、その後どうすればいいか迷っていると。
「こうだ」
アルカの手が宝石を持つ俺の手に合わさる。
手は操縦パネルの真ん中に導かれる。宝石から発せられる光に反応して、パネルが開錠するかのように開き宝石を収めるスペースが現れる。俺はアルカの手に操られるようにそこに、宝石を填め込む。
「皇機承認!」
彼女の簡略化された認証コードを受けて、機星ナイトミストが起動し、各初が展開し始め球体から人型へと姿を変えた。
その時には機体は発射口と思しき場所に辿り着いた。少し長めの通路の先に外部への扉が開く。
「で、頼んでおいたものは出来てるか?」
〈まったく、あの様な野蛮な物を機星に装備させるなど末代までの恥……〉
画面上のマスコットは、不満を漏らしながら機体の椀部に新たな武装を取り付ける作業に入った。
それは追加武装と言っていいかは微妙な代物であった。
言ってしまえば、機体の腕を覆う円形の装甲板である。急造して貰ったのでデザインなどは特に考慮されていない所為か、この機体に似合っているとは言い難い。一応表面にSバリアーを展開して攻撃を防ぐ事が可能であると説明を受けた。しかし何度使用できるかは耐久テストを行っていないので不明との事だ。多少機体のエネルギーの節約になればいいのでその辺は気にしないことにする。そもそもバックラ―とは敵の攻撃を防ぐ為のものでは無い。
中世期の西洋で戦闘に使われた小盾(バックラ―)は、身を守ると言うよりは相手の武器に当てて行く形で軌道を逸らしたり、隙を作って懐へと攻めて行く為の武器と言える。
この機星の主武装であるSソードは高い火力を誇るが、致命傷を狙うには懐へと潜り込む必要がある。そして敵は尻尾を槍や鞭のように操り懐への侵入を拒んで来るだろう。一撃や二撃は覚悟で特攻すると言う手もあるにはあるが、しかしアンノウン機の時の様に機体が大きく損傷しては攻撃力を削がれてしまう。
Sソードで防ぐといざと言う時に使えなくなってしまう恐れもある。理想は模擬戦闘の時に武装ケースで防いだ様な、何かで防ぐ形での接近だ。そうしてギリギリまでSソードを温存する。その為にも、攻撃射程までは盾のみで防ぎ切るのが好ましい。
「貴様の盾には、確かな勝算があるという事だな?」
「確かな物なんてないさ。ただ一つ言える事は武器を持って戦う事に関しちゃ地球人にだって多少歴史があるって事かな」
原始的で野蛮と言うならば、それで結構だ。こちとら守るべき体面とか、見栄えに構っている余裕は無い。
戦う事に意味など無い。
そもそも戦う事自体が理性的では無い。むしろ本能に則った行動に近いのだ。ならばこそこの戦いは、より野生に近づいたモノに有利となる。
〈転送座標をリザードフリスの目前500Mに固定しますぞ〉
通路の中に力場が発生する。眼前の出口に光が集まり扉を作りだす。後はそこに向かって全力で突っ込めばいい、そうすれば戦場に一直線だ。
周囲は3メートルほどの球形の殻の中。手に握る操縦桿とペダルで繋がる神経系。意識を預けて俺は一つの機械と成り果てる。もはや鼓動も感覚も知覚の外。機体は身体の延長線上、俺の乗るナイトミストは神経で繋がってると言っても過言ではない。
「さぁ、踊ろ(たのしも)うか」
呟いて、持ち込んだ多機能端末からお気に入りの曲を流し始める。インストゥルメンタルのベースに合わせて、シートを指で叩く。馴れ親しんだ世界に身体内を鳴らす。
「なんだこの音は?」
操縦桿を前方に倒しながら、彼女の問いかけに答えた。
「俺の鼓動」
[アルカの手記]
「さぁいよいよ出陣であるな」
〈あああ、またしても姫様を戦場に送り出す事しか出来ない私をお許しください!〉
「別に構わんぞ、むしろ私は楽しんでいる、こうワクワクドキドキとしているのだ」
〈姫様は戦場で血が滾るタイプなのでありますか……まぁ支配者と言うのはそういう類なのかもしれませんな〉
「昨夜は眠れなかったしな、窓際にてるてる坊主もつるしたぞ!」
〈……何か私が思っていた興奮とは違う様な気がしますな〉
「お菓子も規定額以内に収めるのに苦労したぞ!」
〈一体誰がその様な……?〉
「ん? 昴流がなお菓子は持ち込むなら300円以内と」
〈むむぅ、緊張感が足りないのは姫様だけではございませんでしたかっ!?〉
「後なバナナはおやつには含まれないらしい」
〈そもそも機星の操縦席で飲食をするとは何事ですかっ!〉
[続く]




