[Mission-033]
前回までのMission!
仲間との雑談で、蜥蜴型に対する戦法を思いついた昴流。
それを実行に移す為の準備に奔走する事となる。
[Mission-033]
「うむ、遅かったな我が戦士よ」
自室に戻った俺を、ベッドに我が物顔で寝そべり漫画を読む宇宙人が出迎えた。
腰まで届く銀色の髪、琥珀色の瞳、整った端整な顔立ちはお話の中の登場人物のようだった。全身に纏う銀色のスーツは体の凹凸をはっきりとさせ、かなりのスタイルの良さを強調させる。そんな美女が自室で帰りを出迎えてくれると聞けば、大抵の男は鼻の下を伸ばして喜ぶだろうが、しかし彼女は幸運の女神では無い、たぶん疫病神の親戚か何かだ。
そんな彼女の自然な態度に、俺は脱力した声で返答する。
「何でここに居座ってんだよ……」
「ほう、まるで迷惑そうな物言いだな」
迷惑だから言ってるんだけどな。
確か軌道エレベーターから5000m離れた近海に停泊中の母艦に隠れているんじゃなかったか? それが何で、壁一面の収納スペースには漫画や映画が並べられ、収まりきらないそれらが部屋の各所で山積みとなったお世辞にも整理整頓が行き届いているとは言えない俺の部屋に居ると言うのか。
そう言った問いかけに、当の宇宙人アルカはさも当たり前の様に。
「あちらはする事が無くて暇でな」
と答えた。身内の兵器に追いかけられているとは思えない気楽さである。
「向こうは思いっきりお前を探していたぞ」
「ああこれの事か」
そう言ってアルカが部屋のモニターに指を向けると、報道科の異星人の兵器との邂逅シーンが映し出された。どうやら状況は理解したうえでのこの態度らしい。大物なのか何も考えていないのか。
「見つかる心配はないのか?」
「探知能力では我らが若干有利だ、むしろ下手に動けば確実に捕捉される。機星の修理にはまだ若干の時間を必要とするからな、やはり何もする事が無い」
達観していると言うか、お気楽と言うか。
「まあ丁度いい、この敵について折角だから色々と教えてくれ」
「奴は第8機星リザード[フリス]、隠密行動に優れた機体だな」
アルカは手にした漫画から目を逸らさずに答える。
「隠密ってのはあの唐突に消えた能力か」
「そうだ、奴は我々でも捕らえきれないほど完璧に姿を消す事が出来る、本気で姿を消した奴はいかなる探知機でも補足は出来ない」
「厄介だな、対処法方は?」
「むぅ……」
「どうしたこれから倒そうって敵だ、機密情報だろうと教えてもらうぜ?」
「いや待て、今漫画が面白い所だ」
「ああもうスミス!」
俺は部屋のモニターに向かって、宇宙人の従者の名前を叫んだ。
〈何用だ騒々しい〉
モニターに可愛くも不気味なマスコットキャラが映し出される。こいつはアルカの従者でサーヴァントスミス、一応現在は母艦ファルアタートの管制システムの代わりを担っている存在である。
「お前ん所の姫様駄目だ、役に立たねぇ」
〈貴様姫様に向かって何と言う口を! その駄目な所が姫様の良さなのだ!〉
「ダメダメなのは否定はしねぇのかよ」
〈人には向き不向きという物があるのだ、向いておらぬ事に駆り立てて芳しくない成果を得るくらいならば、いっそご活躍の時まで寝転がっておられた方が良い時もある〉
その発想には俺も同感だ。このスミス案外気が合うかもしれない。
「じゃ姫様の代わりにこの蜥蜴モドキの事を教えてくれ」
〈リザードフリスに関しての事ならば、そう詳しい事はわからぬぞ。同じ兵士級である第9機星とスペック上の違いはそうは無い、こちらが高軌道型なのに対して向こうは遠距離強襲型と言う違いはある〉
「確かに姿を消して後ろから襲われたら厄介だな」
〈その心配はあるまい、奴も[カレント・スフィア]の機星の端くれならば姿を消して背後から襲い掛かるなどと言った卑劣な戦法は決して取らぬ〉
「そういうもんか? 俺なら迷わずに安全確実に仕留める方法を使うけどな」
〈だから地球の民は野蛮なのだ! 誉ある機星同士の決闘だぞ! 正々堂々と名に恥じぬ雄姿と栄光をだな〉
「それが勝率に貢献するなら重んじるけどなっと」
多機能端末が震えたのを感じて、ポケットから取り出す。 そこには先程芦屋に頼んだデータが送られて来ていた。
「仕事が速くて助かるぜ。スミス、そこには補修材とか余った資材はあるか?」
〈装甲板ならば非常時にファルアタートの補修材としてストックはあるが、何に使うつもりだ?〉
とりあえず端末のデータを部屋のモニターに転送する。
「これを作って貰いたくてな、所々は機星用に調整するとしてどのくらいで出来る?」
〈むぅ、急造すれば一時間もかからぬが、しかしこの構造では1、2回の使用で壊れてしまうぞ!〉
「一度でも防げりゃそれでいい」
〈非効率的な!〉
「何だどうしたというのだ!?」
スミスの狼狽に、これまで無関心だった姫様がようやく顔を上げた。
「いや、お前らが人の事を野蛮だ何だと散々言うからさ」
姫様に向かって、まるで催し物の司会者の如き不敵な笑みを浮かべる。
「原始の戦いを御覧に入れようと思いましてね」
[アルカの手記-033]
「地球人の文化と言うのは面白いな」
〈ほう何をお読みになっているのでございますか?〉
「何やら自分達の歴史を漫画にした作品だ、自身の歴史を娯楽にするなど我等には発想すらなかった手法だな」
〈歴史とは今まで先祖が歩んだ道であり、そして我等がこれから歩み道でございます。支配者は特にそれらを重要視するのでございます。その様な重要な物を娯楽にすると言うのは私は如何なものかと〉
「スミス貴様は頭が固いな、如何に先祖が偉大であろうと、民に支持されなければ所詮情報に過ぎぬ」
〈確かに支配者と言うのは、歴史的な後押しと自身の統治の正当性が如何に民衆に指示されるかを考えて来たものでありますな〉
「その点漫画は素晴らしいぞ、これならば子供でも楽しめる上、飽きが来ない」
〈おお勉強嫌いの姫様をそこまで集中させるのであれば、確かに素晴らしい媒体かも知れませんな!〉
「よし我等の歴史も漫画にしてみてはどうだろうか? 本国で大人気になるやもしれんぞ」
〈確かに本国ではあくまで記録であり、歴史に対する認識が低そうでしたからな〉
「さーってと、えーっとまず……ふむ……おや?」
〈……姫様もしかして、我等が偉大なる歴史をお忘れでは……?〉
「い、いや違うぞスミス!? ちゃんと覚えている……しかし冒頭部分があやふやでな」
〈まぁ原初の記録と言うのは断片的なモノしか残っておりませんからな〉
「そうだ確かおじいさんとおばあさんが……」
〈おじいさんとおばあさんは出てきませんぞ!?〉
[続く]




