[Mission-032]
前回までのMission!
敵である蜥蜴型の機星が再び動き出した。
それによりKR専科は愚か軌道エレベーターは上へ下への大混乱である。
何より異星人の兵器に、地球が持つ旧世代の兵器は全く効果が無い。
改めて自分がどうにかするしかないと思い至った昴流であった。
[Mission-032]
「地球の人口が減った今を見計らって、地底の住人が攻めて来たんだわ! そう考えれば蜥蜴っぽいフォルムも納得がいくわね、だって地底怪獣だもの!」
尾乃教官の聡明な頭脳が導き出した結論に、生徒一同は帰す言葉が見つからなかった。ここ最近は色々な出来事が積み重なって、特に教官達はあちこちに呼び出され多忙だった。疲れているんだろうと優しく見守ってあげるべきなのかもしれない。そんな皆の憧れの尾乃教官だが、普段はオカルト雑誌などを愛読していたりする。
「尾乃教官とりあえず落ち着いて!」
委員長の静止に、とめどない持論を展開していた教官は我に返った。
「と、とにかく……あの兵器が潜伏している限り、暫くは厳戒態勢をとる事になります、皆さんもいつ出動が掛かってもいいように覚悟だけはしておいてください」
「っていうか、軌道エレベーター(ここ)にKRの実機ってあるんですか?」
そう言えばシミュレーターばかりやっていて肝心の実機の起動テストはやった事が無いな。基本的には訓練通りにやれば問題ないとは思うが。
「一応……訓練生の数だけ用意はされてるわ、KRⅠがね」
「「「Ⅰ型かよ!?」」」
KRのⅠ型って確かほとんど実戦経験なく払い下げられたって聞いたんだが。未知の起動兵器相手に訓練兵が乗り込むにしては何て言うか、捨て駒感がありすぎではないだろうか。
教官はその後、授業時間の短縮、消灯時間の変更、予定していた行事の延長などを伝えて、本日は休講と言い残して教室を出ていった。
急に予定を失くした俺達ではあったが、授業が無くなったからと好き勝手に振舞う事は出来ない。先程教官が述べたように、俺達訓練生にも呼び出しがかかる場合があるのだ。なるべく非常事態に対処できるようにしておかなければいけない。何人かの生徒は自主トレや、実践の為にKRⅠのシミュレータを行うために教室を出ていった。後は特にする事も無く雑談に興じる生徒が残される。
「やっぱさ軌道エレベーターを狙ってくるのかな?」
「ちょっと不吉な事言わないでよ!」
「私がテロリストならもれなく狙うけどな」
俺は教室の隅で茫然としていた。
この軌道エレベーターが狙われる?
その事が妙に現実感が無い響きとして頭に残っていた。
その可能性を考えなかったかと言われれば、そうだと言える。人類の英知であり文明の象徴であり、そして無用の長物でもあるこの軌道エレベーターを訓練以外で狙う存在などあり得ないからだ。
生徒達や教官の考えでは、ここが狙われるのは万が一の可能性だと思っている節がある。
少なくとも相手が人類ならば、狙わないだろう。それだけ、人類が地球に穿ったこの楔は影響が強いのである。
しかし俺だけは知っている。相手が人類の常識の通用しない異星人だという事を。
アルカの居場所を探して、やがてはここに辿り着くだろう。そして襲撃してくる可能性は大いにあり得る。そして異星人の技術ならばこの機動エレベーターを完膚なきまでに破壊する事も不可能ではないだろう。
この軌道エレベーターが破壊される?
このKR専科ごと?
そ込まで思い至ったからこそ、俺は背筋を震わせて放心しているのである。
SEの自立兵器では勝負にならなかった。KRⅠでも恐らくまともな相手にはならないだろう。この場でアレに対抗できるのは俺しかいないのだ。
しかしアレに載って戦うという事は、こいつらに刃を向けるという事。[さぁ、地球征服を始めよう!]と言った彼女に、俺はまだ返事が出来ないでいた。
思い悩んでいると、教室の一画で急に歓声が上がった。
そこでは芦屋やジェスティといった各チームのエンジニアが集まって、何やら多機能端末を覗いて盛り上がっている。KR関係の新製品でも発表されたのだろうか。
とりあえず絡みまくって解せなくなった思考を頭の隅に追いやり、騒ぎの元へと向かった。
「何見てるんだ?」
彼等が観ている画面を覗き込むと、そこには。
「な、[おりはるこん]!?」
訓練シミュレーターに乱入して来る謎のアンノウン機、ネットでは[おりはるこん]を自称する機体の情報が表示されていた。
「ああ、後で他の皆にも伝えようと思っていたんだけどねぇ、ハハハちょっとだけこの機体が解析出来たんだよぉ」
「マジか!」
芦屋の言葉に驚きの声を上げる。
KR専科の教官やその上層部すら実態を掴み損ねている相手である。まさかこうも早く尻尾を掴めるとは思いもよらなかった。
「まぁ実際に発見したのはシルビアだけどねぇ」
「お褒めに預かり光栄の極み!」
芦屋の言葉にやや高いトーンで返すのは、男性の多いエンジニアチームの中に一人混じっていた女子生徒であった。平均的な女子の身長で、スタイルはスレンダー過ぎて薄いと言った感じ。肩まで伸ばした茶髪を後頭部でお嬢様結びしていて、大きめな丸眼鏡を掛けておりそれがかなりオタクっぽい印象を与える。眼鏡を外したら実は可愛いともっぱら評判の2番機エンジニアのシルビアである。
彼女は眼鏡をクイッと上げる仕草をしたあと、不敵な笑みを浮かべて腰に手を当てて薄い胸を張った。
「いやはや実際に見つけたのは偶然だったんですけどねっ! とりあえずBクラスから送られてきた大気圏外軌道型弾道ミサイル[コルヴァズ]の設計を調べていたんですけど、そもそもどうやって紛れ込んだのかなーって思いましてー、だってほらデータ偽装するにしてもまったく虚偽のデータだとそこだけデータに厚みが出てしまって浮くじゃないですか! それで実際に[コルヴァズ]に搭載する予定の機材に紛れ込めるような性質があるんじゃないかと」
嬉々として捲し立てるシルビアに、俺は引き気味の笑みを返す。
「あーいや、良く分からないからもうちょっと手短に」
「そうですねすみませんパイロットにはよくわからない説明でしたね、ではちょっと端折ります。で[コルヴァズ]に搭載されていたブースターってKRⅢの[フリゲート]にも使われているブースターなんですよ、小型化されてますけど。これって何で同じ物かっていうとこのブースターがKR関係のブースター全部と比べても最も速い奴なんですよね、そこで私ピンと来まして、あのアンノウン機がいくら未知とはいえ全部の構成データをオリジナルで組むと流石にシミュレーターに負荷が掛かり過ぎると思うんです。って言うか確実に処理落ちします、それが観られないって事は機体構成はあくまで既存品なんじゃないかなーって」
「あー、そのな……いや続けて」
俺は、手短にと言う意見をまったく汲み取らないマシンガントークに、一歩下がりつつも会話を促した。
「それでですね、[コルヴァズ]のブースター開発会社から逆引きしましてKR関係で他に何か作っていないかと調べましたら、実はこの会社BOS計画発足前に主軸となる機体選出の為のコンペイションでKRと競った機体を開発した会社だったんですよ!」
机を叩きかねない勢いでシルビアは続ける。
「それでシミュレーターに登録されているパーツを手当たり次第に調べたら、何とKRのパーツに紛れてその競った機体N-DH試作機[クーロン]の機体データが丸々あったわけです。さらに調べると、コンペに負けたので機体自体の開発はされていないんですが、実はその会社は[クーロン]の発展系のパーツを考案していまして、それらを組み合わせたのがこの画面上の機体という事です、N-HDVer.2[クーロン改]。これが恐らくアンノウン機であると考えられます!」
そう言って、シルビアは多機能端末のデータを教室のモニターに転送する。大きく映された機体は、塗装こそ灰色で、各所のデザインに違いはあるが全体の受ける印象は間違い無くアンノウン機にそっくりであった。
「このデータ、シミュレーターに転送したら操縦出来るのか?」
何かゲームで隠し機体をゲットした気分だ。
今さっきまで何を悩んでいたのかすら忘れるほどに、身体を疼きが支配する。これもパイロットの本能って奴かもしれない。
「いやぁそれがですね……」
シルビアが申し訳なさそうに頭を掻く。
「ハハァ、操作系がKRとは違うんだよ、モジュールで動かすには専用のOSから組上げる必要があるねぇ」
「むしろコクピットモジュールから作る方が楽なんじゃないか?」
「そこまでするくらいならさぁ、開発会社に問い合わせてパーツ取り寄せて本物を作ろうよ!」
俄かにエンジニア勢が盛り上がり始める。
「あー……いやそこまでは」
流石にそれはやり過ぎだ。エンジニア達は炊き付けるとどこまで本気で提案してくるのかがわからないので怖い。
会社情報を調べ出したエンジニアチームを放っておいて、俺はモニターの情報に目を通す事にする。敵を知り己を知れば百戦何とやらだしな。
「って機体の数字おかしくね?」
モニターには機体に関する様々な詳細データが表示されているのだが、その中の機体耐久度だったり、関節の保持力だったり、フレームの剛性と言った数値が基準値を大きく下回っていた。
「ああそれ元からだねぇ」
「どう調整しても数値足らないんですよぉ」
「これ自立すら無理なんじゃ?」
エンジニア勢がモニターを囲みだしてあれこれ議論を始める。
「ブースターに制御系が組み込まれてるから、本体に出力に耐えうる強度は要らないんじゃないか?」
「なるほど機体には最低限離着陸出来る程度の耐久だけ持たせて、後は負荷を逃がすシステムで運用するって訳か!」
「いや、だとしてもこの装甲強度でこの速度出したら衝撃でバラバラになる」
「ハッハァー、電磁誘導装甲じゃないかな?」
芦屋の提案した聞きなれない単語に、俺は思わず聞き返した。
「電磁誘導装甲?」
エンジニアに知識で勝るとは思っていないが、KRの装備に関しては素人と言う訳ではない。そんな俺でも初めて聞く単語だった。恐らくは正式にKRの装備としては扱われていない技術だろう。
「表面に電磁誘導被膜を形成する装甲さ、物理的な衝撃を緩和、もしくは別方向に反らす事で強度を高める効果がある。これも[クーロン]の初期装備として開発されたものだよ。まぁコンペの時には技術的な問題があって搭載は見送られたらしいけど」
「ああ、確か恐ろしいくらいに動力喰うんだよな」
「でも[クーロン改]なら動力はブースターに独立してついてるから本体の分回せるんじゃないですか?」
「だとしてもぉ、稼働時間は1、2分って所だねぇ」
稼働時間を削って展開するバリアーみたいなものらしい。これが機能している限りは、機体に掛かる負荷は無視できると言う。銃弾や斬撃なども軽減されるらしい。アンノウン機の恐るべき機動力と、そしてこちらの全力攻撃を受け流す防御力にはこの様なカラクリがあったようだ。
「と言っても、万能な魔法ってわけじゃないよ。まず連続して同じ場所に衝撃が加わると皮膜が壊れて効果を失ってしまう、あと一点集中系の衝撃にも弱いね」
しかし機体重量を増やさずに強度を高められると言うのはとても魅力的だ。
なるほど敵の優位性は判った。
驚異的なブースターの性能と、それを邪魔しない、いやむしろ捻じ伏せる特殊装甲。興味深い、鋭く研ぎ澄まされた刃物の様に尖った機体だ。是非とも、いや何としても次こそは満足の行く戦いをしたいと思った。
そして敵の構造が判れば、今度はどう攻略しようかという戦略が色々と湧いてくる。これが体の疼きの正体だ。言うなれば、武者震いの一種だろう。
「これKRに応用は出来ないのか?」
思わずエンジニア勢に問いかけてみる。
「うーん、もともとKRは稼働時間に難があるからな」
「って言うかKRⅡの拠点防衛装備にこのシステムを転用したシールドがありませんでしたか?」
そう言ってシルビアが画面に映した装備は、KRの機体よりも大きい巨大な盾と言うよりも壁の様な装備だった。
「シールドって盾だけ? 本来全身に施す物じゃないのか?」
「こういうのは、展開面積に応じて燃費が悪くなるんだよ。[クーロン改]はむしろ機体の強度を排してこれに頼り切っているからこそだけど、もともと強度のあるKRではむしろ無駄が多いね。拠点防衛ならそもそも後方を守る意味も無い」
なるほど、もともと頑丈に作られているKRにさらに強度を高める装備を施しても過剰装備になるだけだ。それよりは盾の様な武装に施して取りまわしで死角をカバーする方が、汎用性が高い。これは結構いいアイディアかもしれない。
「じゃあさ、このシールドもっと小型化出来ないか? KRⅢに装備できるくらいに」
「そりゃまあ元々装甲素材として開発されてるからね、小型化は可能だけど、燃費の問題で連続使用は難しいよぅ?」
ドンと構えて攻撃を防ぐ事は出来ないって事か。もともと俺の戦闘スタイルは、動き回る事が前提だからそれで問題はない。
「一瞬だけでも使えれば問題無い、設計データだけでもいいから早急に作ってくれ」
「それくらいならすぐに出来るけどさぁ、そう急ぐ事も無いんじゃない? 暫く訓練もなさそうだし実践データは取れないよ?」
不思議そうな顔をする芦屋に、俺は含みある笑みを浮かべた。
「それはどうかな?」
ぶっつけ本番でいきなり新武装を試すと言うのは心もとない。
「何か当てでもあるのかい?」
「さてな、とりあえず設計出来たら俺の端末に送ってくれ」
そう言い残して俺は教室を後にした。
先ずは蜥蜴退治だ。そこで試して、メインディッシュに備えるとしよう。
[アルカの手記-032]
「やはり人類に機星に対する戦闘力は無いようだな」
〈まぁしかしながら、彼らが使うKRと呼ばれる兵器はあまり油断できないかもしれませんが〉
「何故だ? 機星に対抗できるのは機星だけでは無いのか?」
〈彼らの使うKRも性能こそ劣りますが、一部に機星に使われているシステムの複製品を積んでいる模様です、まぁ機星に致命だを与える武装はないようですが〉
「ならば全然脅威では無いではないか」
〈数の力とは恐ろしゅうございます、性能こそ及びませんが、量産性は機星を凌駕しております。圧倒的数の利で襲われては機星のエネルギーも心許ないかと〉
「それは困ったな」
〈しかしながら、地球人が機星に対抗できるなら、我らはそれを利用してやればよいのです〉
「どうやってか?」
〈奴らが機星に手負わすなり倒すなりした後に我等がそれを掻っ攫えばよいのです〉
「おお何と言う策略!」
〈さすれば我等は苦労せず機星の軍団を調達できるのです〉
「これで地球征服は決まったな!」
〈後は圧倒的数の利を得た人類をどうにかすればよいだけの事でございます〉
「何故だろう、それが一番大変そうな気がするが?」
[続く]




