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[Mission-031]

前回までのMission!


 フレックスとの模擬戦闘で苦戦を強いられていた昴流。一瞬の隙をついて見事に敵の懐に潜り込み、一撃を加えようとしたその時であった。

 システムが緊急停止し、非常事態宣言が発表されたのであった。

[Mission-031]



 軌道エレベーターに併設された施設に長い事住んで居るが、これほどの警戒態勢は初めてだった。

外部に面する窓や入り口は全て隔壁が降ろされ、薄暗い通路を非常灯が頼り無く照らす。うろ覚えながら非常訓練で通った避難経路を抜けて、俺達は強固な外壁に守られた安全区画へと誘導された。そこには俺達以外にも他の学科の生徒や職員等が居て、皆不安そうに事の成り行きを見守っている。

 ここは地上に作られたシェルターの様な物で、数十人が余裕で寝転がれるスペースがあり、壁の収納スペースには防災グッツや非常食、寝袋や通信機などが納められている。この部屋自体が脱出艇を兼ねており、海を一か月程度は漂えるようになっているとか。軌道エレベーター関連の施設には少なくともこういった安全区画が十カ所以上は作られているはずだ。

 そもそも軌道エレベーターは、ほとんどの運営が自動化されている。たとえテロ組織が秘密裏に爆弾を設置しようとも、自己管理システムがそれを職員より先に察知して、自動的に無力化してしまう。たとえ攻撃を受けようとも、構造の40%までの損害ならば運営に影響無く自己修復出来てしまう。

 その軌道エレベーターを統括する[ネビュラ]システムが、非常警報を鳴らすほどの事態とは一体何なのか。

 その全ては、避難場所に設置された大型モニターに映されていた。

『ご覧ください! これは作り物などでは無く現実の映像です!』

 画面には、ここからかなり離れた離島のSE支部の様子が映し出されている。どうやらわざわざ報道科は旧式の撮影機材一式を持って出向いているらしい。

『あれは何でしょうか……か、怪物!? 昔の映画に出る様な怪物が地球防衛軍(S・E)の施設を襲っています!』

 かなり遠くから撮影している様子で、実際にはほとんどぼやけている。しかしその画面に映っているのは、報道科のレポーターが言う通り、異形の化け物だった。

 それは蜥蜴を模した大型の機動兵器だった。全身は金属質なフレームで構成され、頭部は蜥蜴の如く咢が開閉しているが、目などは無く装甲の隙間のスリットが凶悪そうな光を放っている。尻尾の様な構造体の先端からは、結晶の様な物が輝き、光線を放ち施設を攻撃している。

 見間違うはずが無い。それは、昨日俺が戦った異星人の機動兵器だった。

『支部の隊員は何とか抵抗を試みたようですが、自立兵器は軌道前に機能停止に追いやられています、歩兵用のロケットランチャーなどは、あ、今見ましたか? 不思議な力場で攻撃が本体に届いていません!』

 KRの元となった機動兵器だけあって、自立兵器は通用しないようだ。さらに宇宙人固有のバリアーによって通常兵器では致命的なダメージは与えられない。

「え、これ映画?」

「生の報道だって!?」

「嘘だろ!?」

 安全区画の中が一気にざわめき始める。それこそ軌道エレベーターが警戒態勢になっていなければ、報道科は新しく特撮映画でも撮り始めたのかと思ってしまっただろう。

『おおっと、唐突に怪物の姿が消え去りました! これも前の襲撃と同じです、さて我々は今後も三つのSEの支部を襲ったこの怪物を追いかけたいと思います』

 おおう、既に三つも支部が壊滅されている。やはり、異星人の兵器には異星人の兵器で対処するしかないのだろう。

 報道科が現場の状況を軽くレポートして放送は終わった。しばらくして警戒態勢も解除されたのだが、その場の誰もが安心出来る心境ではなかっただろう。

 未曽有の事態が起きていると言う事は、誰の目にも明らかだった。

 この衝撃の出来事の直後、多機能端末にKR専科の生徒に召集のメッセージが届いた。


 KR専科Cクラスの生徒は、座学に使われる一般的な教室に集められた。隣接する教室ではBクラスも同様に集められているはずだろう。

 無理もない、地球圏における有事に対処する為の地球防衛軍である。それなのに謎の敵対勢力の出現、そしてその兵器の操る機動兵器に手も足も出ず支部を襲撃されたのだ。

「あの報道見たか?」

「ガセだろ?」

「何処の国の兵器だろうな?」

「火星政府が秘密裏に開発した新兵器が暴走したって話だぜ?」

「それこそガセですわ」

 報道では、幸い支部の隊員に死者は出なかったと伝えられた。いやむしろ、それこそが敵との実力差の表れとも言える。異星人の兵器に対して、SEの自律兵器は一切通用しなかった。それが現す意味は一つだ。

 今何故俺達KR専科の生徒が集められたのか。

 未だ軌道エレベーター付近にしか実戦配備されていないKRが本格的に実践投入される時が来たのだ。

 尾乃教官が教室の扉を開けた時、湧いた鍋の如く騒がしかった教室が一瞬にして静まり返った。教室に居る全員が、緊張の面持ちで教官の言葉を待つ。

「はい皆この映像は見たわね?」

 そう言って教官が正面モニターに映したのは、やはり報道科が捉えた異星人の兵器の姿であった。

「さて知っての通り、緊急警報の原因はこれね。今の所は所属不明の兵器という事になっているけど」

 教官の言葉に、何人かの自重出来ない生徒達が騒ぎ始める。

「やっぱり宇宙怪獣ですよね!」

「SEはどう対処するつもりですか!」

「KRが! 俺達の出番なンだよな!?」

 湧き上がる生徒達を、教官はパンパンと手を叩いて静まらせる。

「はいはい騒がない、謎の怪物の正体についてはいずれ専門家がちゃんと調べてくれるでしょ、SEの対処については今上で話し合っているようだけど、恐らく近いうちに出動が掛かるでしょう」

 教室がどよめく。

 いきなり実機で初陣という事もそうだが、相手が全く未知の兵器という事もある。生徒全員が不満気な声を上げた。

「そんな急過ぎる!」

「せめてシミュレーション過程を終えてからでも!」

「っていうかKRの攻撃が通用する相手なのか?」

 その中で、Cクラスの良心こと委員長は真面目な面持ちで教官に問いかけた。

「尾乃教官は、相手の正体は何だと思われますか?」

 流石は委員長だ、他の生徒達の様に狼狽えたりせず、率先して状況を分析しようとする心構えは是非とも見習いたい。

「さてね、私もまだ詳しくは判っていないわ、だから現状では推測に過ぎないけれど」

「お願いします」

「この謎の怪物にはいくつか不可解な動きがみられるわ。先ず一つ目に、SEが出動してからしばらくの間、一方的に攻撃を受けている。こちらの攻撃を無力化しなおかつ無人機を機能停止に出来ると言うのにSEの出方を窺って居るように見えるわね、恐らくこの怪物にはある程度の知識があり何か目的があっての襲撃と思われるわ」

 あの短い映像で、そこまで推測できるとは流石は教官だ。確かにあの異星人の兵器はアルカ達を探しているはずだ、恐らく昨日俺が戦闘した事で敵は戦闘に慣れたパイロットが搭乗していると考えたのだろう。だからSEの施設を襲撃したのだ。

「二つにこの敵に用いられている技術は、恐らく火星か木星の技術である事がうかがえるわね、この機体のデザイン自体は地上様に見えるけれども、各部の形状は宇宙での運用を想定されているわ」

 異星人の兵器は宇宙から来たのでこの推測も間違ってはいないだろう。

「映像一つでそこまでわかるんですか?」

「専門的に分析したわけじゃないから、この程度はまだ推測の域を出ないわ。それでも以上の事を踏まえて導き出せる結論は……」

 そう言って教官は少し考え込む様に頬に手を当てて、瞳を閉じた。その姿が妙に艶めかしく感じるのは、大人の魅力の成せる業であろう。

「そうね、あれは恐らく――第二次火星移住計画の際に地球文明放棄に反対した旧文明人達が地底で密かに作り上げた地上奪還用決戦兵器ね、操っているのは恐らく地底人と化した旧文明の人々だわ!」

 おい宇宙での運用何処行った。



[アルカの手記-031]


「ふむ、緊急避難場所と言うのもいいな」

〈いきなりどうなされmしたか姫様?〉

「我が艦[ファルアタート]にも緊急用の避難区画を設けてはどうかと思ってな」

〈はぁ[ファルアタート]にでございますか……〉

「うむ、元々は戦闘用の船ではないが、現状では別の戦闘艦を用意すると言う訳には行くまい」

〈[ファルアタート]はどちらかと言えば、補給艦と言った扱いですからな〉

「機星も一機だけでは、敵にここで接近される危険も皆無ではあるまい。そうなった時の乗船員の避難場所くらいは用意しておいた方がよいと思うのだ」

〈今我が艦に乗船員はおりませんが……〉

「我がおるではないか!」

〈現在[ファルアタート]内に置いて最高指揮官は姫様でございます、果たして指揮官が真っ先に避難すると言うのも如何なものかと〉

「今他に乗船員はいないのであろう! 我も安全が確保したいのじゃ!」

〈ならば緊急時には転送で避難なされては?〉

「それもそうだな……」



[続く]

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