[Mission-029]
前回までのMission!
課題の反省文不許可の罰としてトイレ掃除を言い渡された昴流は、同じ罰を受けているフレックスと言い争いになる。その時昴流は、もしアルカに手を貸すならばいずれはこの同級生達と刃を交えなければいけないという事に気づくのであった。
[Mission-029]
流石に体格で勝っているフレックスが相手では、肉弾戦では不利だ。
俺はトイレの外へとあっさりと投げ飛ばされる。
クソこれだから生身は非力で嫌だ。
投げ飛ばされた勢いで廊下に仰向けに倒れ込んでいると、頭上に影が掛かった。
「ふわ……」
聞き覚えのある声に目線を上げると、そこには視界一杯に広がるスカートとグリーンのパンツ……。どうやら通りがかった女子生徒の足元に偶然にも俺は倒れ込んだらしい。スカートを覗かれた女子生徒は、妙に抑揚の無い声で呟いた。
「……大胆なセクハラ」
「いや百川、嫌なら手で押さえるなり退くなりだな」
それなりのリアクションをとってくれないと、こっちも反応に困る。
百川もKR専科Cクラスの生徒だ。
観言と並ぶ小柄で制服がワンサイズ大きいのか袖とか裾がかなり余っている。黒髪ストレートにオカッパという大人しめの髪型で、表情は常にぼんやりとしており何を考えているか分からない。一応補足しておくと俺を投げ飛ばしたフレックスのチームのナビゲーターである。
そろそろこの不思議な同級生のパンツ鑑賞を止めて立ち上がろうかと思ったところで。
「昴ぅ流ぅぅぅぅ……!」
廊下をドカドカと踏みしめる音が響いて。
「ぐはぁっ!」
怒りの形相の観言に俺は、脇腹をスライディング気味に蹴られる。
「あんたまったくね! こんな小さくて可愛い百川になんて事してんのよ! 恥を知りなさい!」
そう言って百川を守るように抱すくめる。ちなみに本人は保護者面しているが百川の方が少し背が高い。
「まて観言これは不可抗力……」
「言い訳無用!」
観言が上履きを手に振り上げた所で、トイレから物音を立ててフラックスが姿を現した。
「そろそろよぉ、どっちが優秀か決着をつけようぜェ! 昴流! 決闘だ!」
どうやら俺が戻ってこなかったので、寂しくなって顔を出して来たらしい。お前も状況を考えろっての、今はそんな話をしている場合じゃない。
「何を言ってんだが、誰がそんな労力の無駄なんか……するかよ」
言って、俺は再びあの誘いの言葉を思い出す。
彼女の為に戦うという事は、当然SEとも戦うという事だ。つまりKR専科の仲間ともいずれ刃を交える事になるという事。俺は、こいつらと戦えるのか?
「いや、いいぜ観言、芦屋を呼んで来い、試してみようじゃないか」
「アァン? どっちが優秀かって事をか?」
「いや」
俺にこいつらが斬れるのかどうかを。
俺達は残りのメンバーの到着を待って、昼前に模擬訓練を行った会場に舞い戻った。
会場の奥には戦場の状況を映し出す巨大なモニター。その正面に四台のコクピットモジュールが扇状に並ぶ。その外側にはナビゲーター用の通信設備と、エンジニア用の設備が並んでいる。
今回はその内の二台が起動準備中の黄色い光が灯っており、正面のモニターにもシステムアップロードのパーセンテージが表示されていた。
「しっかしよく尾乃教官が決闘なんて許可してくれたわね」
観言がナビゲーター席の一つを陣取り、システムの起動シークエンスを行う。
「自主的に訓練するなら勝手にどうぞって感じだったけどねぇ」
芦屋もエンジニア席で機体データをシミュレータに反映させる。
今回は全体訓練ではないので、俺も操縦以外の雑用を手伝わなければいけない。コクピットモジュール側面のモニターに表示された機体データを確認する。前回からの変更点や、今回の調整などに目を通す。
「……相変わらず二人は仲が良い」
ボソリと検討違いな意見を述べるのは、向こうのチームのナビゲーター百川だ。席に座り、無表情のままピクリともしない頭と眼とは裏腹に指先は残像を残すほどの速さでキーボードを叩く。
「こっちとしてはデータが取れれば何も問題無しだよ!」
そう言ってメインモニターに、地形データをインストールしているデブ……もといふくよかな同級生はジェスティ、向こうのエンジニアだ。
「機体データ反映完了、乗り込めるよぅ」
「確認した、問題無し」
芦屋のGOサインに答えつつコクピットの開閉ボタンを押し込む。迫り出すシートに飛び乗って、座席に多機能端末をセット、IDとパスワードを打ち込んでパイロットデータが読み込まれる。その間に座席が内部に飲み込まれ、入り口が閉ざされる。辺りはモニター画面以外の光は無い暗闇だ。
正面の画面に無数のプログラムコードが流れて行き、いくつものウィンドウが表示されては消え、最後に承認ウィンドウが起動の是非を問う。
「パイロット早矢金昴流承認」
〈パイロット承認、メインシステムを起動します〉
システムメッセージと共に、[ネビュラ]にリンクが完了した事が表示され、次の瞬間には全天周囲モニターが正面から後方に向かって、広大な荒野が映し出す。
「こちら昴流、メインシステムの起動確認、データ反映異常無し」
〈こちら観言、ナビゲーターシステムリンク問題無し、通信も良好よ〉
〈ハハァ芦屋だよ、機体動作異常無し、調整はどうだい?〉
「今確かめてみる」
操縦桿を軽く操作して、機体やブースターの稼働を確認する。機体を揺すってバランサーチェック。自律腕部挙動追従でストレッチなどをしてみる。
「こちら昴流、機体の挙動に違和感無し、何時でも行ける」
〈こちら観言、じゃ対戦相手とマッチングするわよ〉
モニター上部に、相手のコクピットモジュールとリンク中のシステムメッセージが表示される。これでフレックスチームと対戦可能となる訳だ。
〈観言より、相手チームとコネクト確認、来るわよ!〉
緊張した観言の言葉が終わらぬ内に、レーダー上に敵機を現すマーカーが点灯する。流石はフレックスのチーム、回り込むとか待ち伏せるとか考えず一直線にこちらに向かって来ている。
やがてモニター端に、敵機の姿が小さく映る。
俺は火器管制を起動させ、腰に保持された携帯火器用ケースから得意の高周波ブレードを展開する。
俺の臨戦態勢を悟ってか、敵機はブースターを吹かして平行に移動を開始する。俺を中心に旋回する動きだ。
流石に接近戦で挑んでは来ないか、ノリの悪い奴等だ。
と、棒立ちで見ている場合でもない、俺は操縦桿を軽く横に倒して一瞬だけブースターで機体を横へ移動させる。直後に俺の立っていた場所を、銃弾が走り抜けた。
この距離で当てに来るとは、流石はフレックスのチームだ。そのまま操縦桿を倒して機体を交代させ、追撃の銃弾を躱す。
対戦相手のフレックスチームは、攻撃力に定評のあるチームだ。パイロットからして動きが攻撃的で、やたらと弾をばら撒く。無駄弾と侮ってはいけない、流れ弾によるまぐれ当り(ラッキーヒット)も馬鹿には出来ない。
「観言接近戦を仕掛ける、突入ルートを算出してくれ」
こちらもブースターを吹かして、本格的に敵を追跡する。座席が浮き上がり、機体が低空を飛行し始める。俺の挙動に合わせて敵機も逃げる、その所為で中々距離が埋まらない。
〈観言だけど、とりあえずいくつか出してみるけど、百川のチーム相手じゃ全部読まれるわよ〉
画面上に、いくつかの侵攻ルートが表示される。観言が敵の挙動から算出した攻撃を掻い潜りつつ、最短で肉薄出来るルートだ。しかしこちらが機体をそのルートに乗せた途端、敵の挙動が変わりこちらの侵攻ルートのいくつかが銃撃にさらされる危険エリアとなる。そのうちの一つを通っていた俺は慌てて操縦桿を倒し、飛来する銃撃を回避する。
「っとぉ、ルート読まれた! 別のを頼む!」
〈芦屋だよぉ、今の銃撃で椀部と脚部に被弾したねぇ、戦闘に支障はないよぉ。椀部の強度が20%低下かなぁ〉
〈ああもう! これだから嫌なのよ! 次のルートを表示するわ!〉
苛立った様子で観言が叫ぶ。すぐさま画面上に無数の侵攻ルートが表示されるが、直後にいくつかが早くも危険エリアに変わる。
そう敵対するフレックスチームの何より恐るべきは、ナビゲーター百川の洞察力である。的確に死角から死角へ、こちらの動きを先読みして先手を打てるように位置取りを指示するのでこちらのペースが掴めない。下手すればそのままジリ貧だ。
付け入る隙と言えばパイロットがナビゲーターの指示に徹するほど聡明ではないと言う所か。
[アルカの手記-029]
「ワレワレは宇宙人ダ……」
〈い、いきなりどうされたのですか姫様!?〉
「ふむ、どうやら我々は地球人で言う所の宇宙人であるらしいことが分かった。ならば我々はもっと宇宙人に寄せる努力をするべきではないかと思ってな」
〈何も地球人共にそこまでしてやる義理はないと思いますが〉
「郷に入れば郷に従えと言う、それにだもしも民が崇める指導者が休日はジャージ姿で菓子を貪りながら床に寝転がっていると知ればどうなる!」
〈確かにそうなれば支持率は下がるでしょうが〉
「支配者足る物イメージと言うのは大事なのだ! よって地球の民が思い描く宇宙人像に寄せて行く事こそが、我の征服の近道となるのだ!」
〈それは一理ありますが、しかし宇宙人に似せるとは一体どうするのでありますか?〉
「ふむ、とりあえず口調だな、もっとこう片言っぽくする必要がある。あと宇宙船の飛行も酔っぱらったかの様にあっちこっちにヒュンヒュウと飛ばすようだな、ついでに牛とか攫って内臓を主食にするらしい」
〈それをこれから行うと……?〉
「うむ……ちょっと悩む」
[続く]




