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[Mission-028]

前回までのMission!


 アルカに異星人たちの思惑と、その裏で動く地球や火星側の話を聞かされ混乱する昴流。

 果たして何が味方で誰が敵なのか、謎は深まるばかりであった。

[Mission-028]



 1メートルとちょっとの四方を囲まれた白い箱の中。俺は手に握る掃除用具と洗剤で繋がっている。もはや身体の延長線上、俺の入る個室トイレは俺の神経で綺麗になると言っても過言ではない。

「さぁ、踊ろ(たのしも)うか」

 俺は呟いて腰に保持した多機能端末を操作し、お気に入りの曲を流し始めた。インストゥルメンタルのベースに合わせて、床をモップで磨く。1メートルとちょっとの俺の体内を音で満たす。

 するとスパァンと小気味良い乾いた音を立てて、雑巾が俺の頭に炸裂した。

昴流(すばる)! 掃除中に煩ェぞ!」

 便器を磨いていた金髪が、投球フォームのまま俺に文句を言ってくる。金髪を荒々しくバンドマン風に固めてはいるが、身に着けた掃除用エプロンが台無しなフレックスだった。しかしコイツ妙にエプロン姿が似合うな。

「何だフレックス……掃除の邪魔だぞ」

 そう返して、頭に乗った新品の雑巾を取り払う。

「いいかぁ? 掃除ってのは静かに、そして優雅に進めるもンだ、お前みたいに雑音垂れ流すなンざ邪道なンだよ!」

 むぅそれも偏見だと思うが。

 相変わらずこいつとは悉く意見が合わない。これも音楽性の違いという奴か。しかし何故俺は、こんな合わない奴と仲良くトイレ掃除などしているんだ。

 原因は、ずぶ濡れでようやくKR専科の施設に帰還した俺に突き付けられた一枚の指示書にあった。そこには[反省文不許可の為、罰としてトイレ掃除]と短く書かれてあった。

 人生の価値観を変える様な衝撃的な出来事の後で書いたにしては、我ながら良い出来栄えだと思ったんだけどな。後半から書き上げまでの記憶が無いけど。

 通信不能状態と言う未曽有の事態に直面しているのに何故か生徒の罰則だけは迅速に指示されるのと、軌道エレベーター関連の施設は自動化が進んでいて、放っておいても機械が勝手に掃除するのにわざわざその機能をOFFにした状態での手作業という理不尽さが、妙に心に来る罰則である。

 まぁそれにしても俺の方はむしろ追加の罰則がこの程度で済んで拍子抜けといった所だ。反省文が適当になった理由を説明するくらいなら、喜んで便器を磨こう。

「お前は何でトイレ掃除してるんだ?」

 普通に考えて、反省文なんて面倒なだけでそれなりに真面目に書けばいいだけ。罰則の中でもかなり軽い部類である。夕食後の自由時間にでもちゃちゃっと終わらせればいい。こいつが昨日の俺よりも忙しい状況にあったとは思えないんだが。

「あン? あの戦闘で俺が如何に活躍すべきだったか、ンで俺の果すべき雄姿を事細かに書いたら、反省の意図が感じられないって不許可になった」

 そりゃ反省文で反省してなかったら不許可にもなるわ。

「オラ雑談してねェで早く終わらせンぞ! これサボったら次は練習場の草むしりだぜ!」

「そりゃゾっとする……」

 練習場とは、ざっくり言えば昨日俺が遭難したあの辺一帯を指す。終わる終わらない処の話では無くまず確実に途中で力尽きて倒れる。俺のやった外周ランニングに次ぐ拷問であり、生徒間ではそれを処刑と呼ぶ。

 仕方なく曲を停止して、黙々と掃除を始める事にした。

 面倒な作業ではあるが、ただトイレを綺麗にするだけで事が済むなら安い物だ。少なくとも、地球を相 手に喧嘩売るよりは何倍も気が楽だ。

[さぁ、地球征服を始めよう!]と彼女は言った。

 その言葉に俺は、同意する事が出来ないでいた。

 一体何と戦えばいいかが分からなくて。

 日々戦闘訓練を粛々とこなすのは、一体何と戦う為なのか。それが分からなくなって。

 そう言えば一緒に掃除をしているこの金髪は、そういう事を考えているのだろうかとふと疑問に思う。

「なぁ……もしさ、敵が現れたらどうする?」

「ハァ何言ってンだ?」

「もしもの話だよ、もし例えば宇宙人とかが地球侵略してきたらどうするよ」

「だからマジで何言ってンだよ?」

「例えばの話だって、もし宇宙人とかが宇宙船に乗って襲ってきたらどうするって事さ」

「いきなり突拍子もねェな」

「そういう時こそ俺達蛮騎士(ナイト・ラウンダー)乗りの出番だろ? お前ならその美人だけど傍若無人で小生意気な宇宙人とどう戦うって話さ」

「何で宇宙人の人間性に関してだけ妙に具体的なンだよ」

 別に何処の誰とは言っていない。

「まぁその前に普通に地球防衛軍(Safety・Earth)が出て来ンだろ、俺達の出番はねェよ」

 SEねぇ、アルカの話を聞く前なら俺もそう思っただろう。しかし、今となっては本当に地球を守る為に出動してくれるのかはかなり疑問だ。

「今のSEじゃ大した戦力にならない、自律戦闘機に頼ってるようじゃ戦闘なんてとてもじゃないけどこなせるとは思えないね、やっぱり俺達が出ないとだろ」

 今の地球圏における戦力のほとんどは、旧世代の兵器であるAI制御の自律機動兵器で占められている。彼等に言わせれば機動兵器にわざわざ乗り込む俺達の方が前時代的らしいが。

「ほう、お前にしては良い事言うじゃねぇか!」

「俺に言わせればだ、今のSEがやってる戦闘訓練なんざお遊戯だね、いざ戦闘に成ったら役に立たない」

 そういう意味で、兵器に乗って戦場に出向く俺達にはそれなりの誇りと言うか矜持みたいな気持ちがある。少なくとも自動的に戦闘を行ってくれるAI兵器に囲まれたSEよりは上等な戦い方が出来ると言う自負がある。

「確かになぁ、やっぱKRつったら戦場だよな、そういう場面こそ輝くってもンだぜ」

 こいつの意見に同意するわけではない、俺は戦場に出て命のやり取りなんかするつもりは毛頭無いのだ。しかしそれでもKRの持つ、能力や機能美はそれこそ戦闘に特化し過ぎて。

「そうだよな」

 俺達を戦場に惹き付けてやまないのだ。

 断言できる、俺達は文句を言いつつも戦場に憧れている。訓練で培った技術を披露する時を、心の奥で今か今かと待ち侘びている。

「お前だって最近の対KR戦闘が楽しくって仕方ねぇンだろ? 結局よ、兵器ってのは敵に向かって使ってよ、敵を倒して活躍する宿命なンだよ」

 金髪のパイロットフレックスは、分かっているんだぜとでも言いたげな表情で俺に誘い掛ける。そんな手に乗るかよ。

「一緒にするなよ、俺は任務だから仕方なくやってるだけだ」

 そうだ俺はこんな戦闘狂とは違う。戦う事を楽しんでなんかいない。戦う事に意味なんか無いのと同じだ。意味の無い事に楽しみを見出しても仕方が無い。

「ぬかしてろよ[箱入り貴族(ノーブル)]、何時も後ろで銃構えてるだけの控えの分際で俺より目立つなンざ生意気なンだ、後ろで大人しく弾込めでもしてりゃいいさ、その間に俺が華々しく活躍してヒーローだ!」

[墜落王(エース)]は言う事が違うな、まぁいつも早々に墜落してっから俺が何時も尻拭いしてんだけどな」

 掃除の手を止めて、ゆっくりとお互いを振り向いた。

「手前ェ、次こそ背中に気を付けろよ」

「いやいや俺なら正面から一発で十分だ」

 互いに険悪な表情で睨み合う。今回は止める仲間も居ないので、お互いに引く理由が無い。些細な罵り合いはやがて軽い接触の応酬へと変わり、ついには掴み合いへと発展する。




[アルカの手記-028]


「ふむ、こやつらが戦う宇宙人とはいったい何なのか、謎は深まるばかりだな!」

〈いえ姫様、話の流れから察するにその宇宙人とは我々の事ではないかと〉

「何だと!? ……確かに我等は宇宙を放浪してはいるが、別に宇宙在住と言う訳ではないぞ、むしろ宇宙よりはどちらかと言うと惑星の方が住み易い」

〈承知しております、しかし彼らにとっては宇宙の彼方より来る我々が未知の存在、と言う所での宇宙人と感じられるようでございます〉

「しかしそういう意味であれば、我々にとっては地球人も宇宙人ではないか」

〈いやどうでありましょう、彼らは宇宙人と呼称するにはいささか生息域が狭すぎかと〉

「むぅ宇宙人と名乗るにはなかなか定義が難しいのだな」

〈少なくとも、宇宙の各所に広く分布し、空飛ぶ高機動な何かで飛来し、発光したり銀色だったりする必要があるようです〉

「ふむ、宇宙の各所に分布、つまり我等の様に放浪していると。で高機動な宇宙船で飛来、まぁ我等がファルアタートの様な物だな、発光して銀色、まるで我の様な……ハッ、スミスよ!」

〈いかがいたしましたか姫様?〉

「もしかしたら、我らは宇宙人かもしれんぞ!?」

〈ですから我々の事だと先程……〉



[続く]

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