[Mission-027]
前回までのMission!
転送されて招かれたのは、前日窮地を救った彼女達の母艦[ファルアタート]の艦橋であった。
そして現状についての説明が行われるのであった。
[Mission-027]
そこまでマスコット、ええっとスミスだったかが言い終えた所で、再び天井が開く音が聞こえた。今度はファンファーレとかは鳴らさない控えめな登場だ。
「いやそう言えば一つ用があったのを忘れていた」
そう言って彼女、アルカは俺に向かって何か小石のような結晶を投げ寄越した。思わずそれを受け取って戸惑う。何故このタイミングでこんなものを渡して来たのか全く理解できなかった。
受け取った結晶は、パッと見ただけだと宝石だが、しかしよく見ると金属の様な、電子部品の様な何とも言えない存在感を放っていた。金属質の枠に填められた本体は透き通っており、その奥には無数の細かい粒子が銀河の如く壮大な模様を描いていた。
改めてこれはなんだと言う表情をアルカに向ける。
「ぞんざいに扱うなよ、それが機星の核、Cだ」
「キューブ?」
「判り易く言えば、機星の動力源と言う所だ。それは生命活動のある所にある限りS粒子を蓄積させる、戦士であるお前が肌身離さず持って居ろ」
〈ひ、姫様!? それこそみだりに地球人に渡して良い代物では!〉
「しかし我らが持っていても役には立つまい……先程貴様は何故海中に居るかと言ったな? 我らの技術はCの生み出すS粒子を主なエネルギーとしている、そしてこのCは生命活動からS粒子を生みだしているのだ、我らがここにいるのはここには生命が溢れているからだ。そう、もはや鉄の塊と化してしまった我が故郷とは違ってな……」
唐突にアルカは物悲しそうな表情を見せた。
それは窓の外に映る、雄大な自然に嫉妬する様な、そしてその感情を持った自信を悲しむ様な。彼女はしきりと地球征服と口にしていた、それが今彼女の言った故郷の状態と何か関係があるのだろうか?
「何で地球征服しに来たんだ?」
俺の素朴な疑問に、彼女は少し考えるような仕草を見せた。そして、ゆっくりと語り始める。
「我等[カレント・スフィア]はその昔、星々を渡り歩き時に征服し資源などを奪って行く略奪者であった」
「うわ迷惑な」
「無論それは遥か昔の話だ。今は広大な宇宙を旅し、文明無き星は保護し文明がある星は可能な限り干渉を避け、同程度の文明には歩み寄り、そしてゆくゆくは宇宙を統合し平和な世界を目指すという開拓者なのだ」
「で、はるばる地球までやって来たと。じゃ何で地球に干渉したんだ?」
その言い分ならば、地球は干渉されないか、少なくとも歩み寄って交渉される立場にあるはずだ。
「先程言ったように、我らの技術が生命の活性波動、それによって生じるS粒子で賄われている事は述べたな?」
俺の手の中にある小さな宝石が、そのS粒子とやらを生みだす大事な物と言うのは判った。キーホルダー程度のこれ一個で、あの機星とか言う兵器を動かしているとは俄かには信じられない話だが。
「我々皇機種等は生命の活性波動を持たない。それ故に他の惑星より戦士として生物を招き入れて来たのだが、他の文明への侵略を制限しそして長い間宇宙を彷徨った事が災いして今現在[カレント・スフィア]に存在する生命が尽きようとしている」
「自分達で何とか出来なかったのか?」
「そもそも我々は命を育てると言った技術を持たない。私自身この姿は仮初の物で、本来はこのスミスの様な実態の無い存在なのだ。[カレント・スフィア]は金属の檻、もとより生命を育む様な環境では無い。我々は一刻も早く地球人の持つ他の生命を繁殖させる方法を必要としている!」
「それで地球征服ってわけか……いや、交渉とかの余地は無かったのかよ!?」
「他の文明への侵略行為は我々の決めた流儀の反する。我らは元々地球から多少のS粒子と生命を繁殖させる技術を得ようと立ち寄ったに過ぎない、用が済めばすぐ次の星へと向かう予定であった」
「って事は……」
「そうだ、攻撃を仕掛けてきたのは地球人の方からだ」
それは今から半年ほど前に遡るという。
通信を解析し言語を覚え、歩み寄る為に事前に通達した宙域にて、彼らを出迎えたのは無数の艦隊であったと言う。そして交渉の席に移る間も無く、一斉砲撃を受けたと言う。
「野蛮な原住民の考えが読めなかった我々にも非はある、以後我等と地球人類は木星と呼ばれる星の付近で膠着状態となっている」
「それは……何と言うか」
もしそれが本当だとしたら、人類の本質は本当に闘争なんじゃないか。
互いに情報に齟齬があったのか、それとも彼らが欲するS粒子が地球にとっても必要不可欠な物だったのか。それとも……何か別の思惑があるのか。
彼女達の技術に少しだけ触れた俺は、人類よりも遥かに高い科学技術に始終驚きっぱなしである。特に機星とやらの性能の高さには舌を巻く。KRよりも大きい癖に重量は半分以下、機動性や出力は遥か上とか化け物だ。操縦系統が同じだと言うのにこの差はなんだと言うのか。
……操縦系統が、同じ?
「いや待てよ、何で異星人の兵器とKRが同じ操縦系統何だ!? これじゃまるで――」
「ようやく気付いたか」
もったいぶった表情でアルカは告げる。
「貴様らの持つ兵器は我らの機星を模した物だ」
なるほどな、だから操縦方法が同じなのか。
「だけど、計算が合わないぞ。最初の遭遇が半年前で、その時鹵獲して作ったっていうなら分かるけど、KRが作られたのは今から10年も前……」
「我らが攻撃を受けた際に、地球人類は既に我らの技術の一部を使っていたと記録にある」
つまり彼女達が地球に接触する前に、地球は彼女達の技術を既に持っていた事になる。すなわち、それ以前に一度人類は彼女達と接触した事があるという事だ。そしてそのことを政府は、C.W.O.Uは公表せず、そして攻撃を仕掛け戦争状態にある事すらも今なお伏せている。
「いっそ地球は諦めて次の星を目指した方が」
「そうもいかない、兄上達は報復戦だと息巻いているが、我等にはもう次の星へ渡る余力すらないのだ。だからこそ我がこうして秘密裏に地球へと来たのだ。ここでほしを渡る為に必要なS粒子を集める為にな」
「それなら何で味方に追われているんだ?」
本来の目的に沿って地球に来ているなら、何も問題無いはずだ。妨害されるのはおかしい。
「本来の目的であるS粒子集めのついでにな、兄達が尖兵として送り込んだ機星を我が手中に収めようとたくらんだのだ。それがバレて今は追われる身となっているが、いずれは兄達を退け我が皇位への道を開くつもりだ!」
「ここでまさかの権力争いかよ……そういうのは自分達の星でやってくれって」
「我もあまり長居するのは良くないと思っている、しかしだ、地球にある我らの技術を破壊あるいは使用不可能にしておく必要がある」
「まぁ確かに地球人自身の手でそういう技術は培わないと意味が無いしな」
「そういう話では無い」
アルカが強い口調で否定してきた。
「機星とは危険な存在なのだ。地球人類は自らが触れた力の恐ろしさを知らぬのだ。機星の扱いを間違えれば地球もまた我らが故郷と同じ運命を辿る事と成ろう」
機星って、俺が操縦したあの丸い機動兵器の事だよな?
確かに人型に変形したり、KRを凌駕する性能などには恐れ入ったが、それはあくまで機動兵器の範疇でだ。あれが星を滅ぼすほどの脅威には思えないんだが。
「じゃ正しい使い方を改めて教えるとか」
「違う――機星の正しい使い方こそが、そうであるのだ。機星とは星を滅ぼし生命を根絶やしにする禁忌の力……長い事封印してあった力を兄上達は何故……?」
その後の呟きは、小さくなり過ぎて聞き取れなかった。
俺の知らない、そして俺の想像の余地の及ばない機能がまだ機星には書くされているのだろう。そしてそれが何なのかを彼女は教える事はないのだろうと直感で分かった。
しかし、彼女が私利私欲の為だけに動いているだけではないという事も同時に伝わった。仲間からも追われ、頼れるのは画面の向こうのマスコットッと己一人。
この小さな肩に手を置いて、力になってやると言ってやりたかった。
あまりに戦力不足な状況で、同胞や地球のSEと戦うつもりのこの姫君に無責任に力強い言葉を投げかけたくなった。
しかし、俺の現在地球防衛軍(Safety・Earth)、軌道エレベーターSTT04支部、BP理論試験運用テストパイロット候補生、KR専攻科所属となっている。
肩書の上では俺も彼女の敵の一人には違い無い。
しかしそのSEも彼女の言う事が本当ならば、どこまで信頼すべきか考えるべきである。
一体何が真実だ。
何が敵で。
俺は何と戦えばいい?
答えはきっとKR専科でも教えてはくれまい。
[アルカの手記-027]
「ふむあやつめCを大事に扱ってくれるといいんだがな」
〈姫様私はやはりあの様な野蛮な者に、我等が至宝たるCを渡す事には反対でございます!〉
「しかし我等が持っていても、S粒子は放出しないし、固有反応も示さんし宝の持ち腐れであろう?」
〈それはそうでございますが……〉
「そもそも我等はアレを管理こそしているが、本来の正当な持ち主と言う訳でもあるまい、むしろ所有者と言うのであればC自身に見定めさせれば良い」
〈いささか危険なかけではありませぬか?〉
「大丈夫だ、それにCは我等の技術を持ってしても破壊する事が叶わなかった物質だぞ、人類にどうにか出来るとは思えん」
〈確かにそうではありますが〉
「まぁ以前ポケットに居れたまま洗濯してしまって、そのまま忘れてたらカビた事はあったが」
〈……姫様が所持しているよりは安心という事で良いのでしょうか?〉
[続く]




