[Mission-022]
前回までのMission!
軌道エレベーターにミサイルが発射された!
10分以内に停止しなければ被害は甚大だ!
と言う設定での訓練に取り組む昴流であった。
[Mission-022]
〈そろそろ、ミサイル[コルヴェズ]が付近を通過しますわ、お仕事の時間ですわよ〉
〈格納ハッチを展開します、各機超高速戦闘準備〉
眼下の隔壁が開き、アームに取り付けられたKRが輸送機の外へと扇状に展開される。
格納庫の外の光景が、全天周囲モニター下部に表示される。
そこは蒼とも黒ともつかない、境界だった。
高度1万kmより上空は、もうほとんど宇宙と言ってもいいだろう。
地球と宇宙の境、昼夜の境、大気と真空が織りなす狭間の虚空。
空気が少ない所為か、ここは異様なほどに静かだ。
まるで世界が平和である様な錯覚すら覚えてしまう。
戦う事は人の本能だ。
それを今更嘆いたり否定する気はない。
大地に巨大なエレベーターを建て、宇宙を船で進んだとしてもその本質を変えるには至らなかったと言う事だ。
いやむしろ、人の本質こそが争い競う事なのではないだろうか? 戦わない者に進化の兆しは訪れない。
人が先を見据え進む限り。
人の現状が進化の果てでない限り。
人の生き抜く世に平和などは在り得ないのかもしれない。
世界は人を望まないのかもしれない。もし世界に平和を望むのであれば、人では無い存在に成るしかない、のかもしれない。
深く深呼吸した後に、眼下に広がる蒼い世界を改めて見つめる。
[世に平穏の在らん事を]、か。
笑みを浮かべて、操縦桿を握り直した。
〈[コルヴァズ]が最接近します〉
蒼と漆黒の境目を切り裂く様に、一筋の強い閃光が通り過ぎる。
〈全機、切り離しと共にブースター全開!〉
機体がアームから解除され、コクピット内が浮遊感に包まれる。しかしそれに浸っている余裕は無い。すぐにペダルを踏み込んで、機体を最高速度まで持って行く。慣性制御されたコクピット内でも感じる機体の負荷、加速の衝撃、置いて行かれそうな意識を繋ぎとめる。
〈くっそ速ぇンだよ!〉
〈操縦桿が重いな……!〉
〈目標を見失うな! 方向が反れたらこの速度じゃなかなか追いつけないぞ!〉
他のパイロットの悲鳴が次々と響き渡る。
「これは、結構面白い……」
自動追尾である程度目標に向かって軌道修正を掛けてくれると言うのに、モニター上に表示されるターゲットに向けて操縦桿を向けるので操作は精一杯だ。
〈ハッ! ビビッて前方に弾ばら撒いて自分の弾に当たンなよ!〉
相変わらず3番機が俺に向かって指を構えて挑発して来る。ほう、結構余裕はあると見える。
〈馬鹿は死ななきゃ治らないらしい〉
それに対して、またも同じく2番機パイロットが辛辣に呟く。
〈ハン? なンだってぇ!?〉
〈馬鹿じゃないと言いたいのなら、物理の基本を勉強してから出直すんだな〉
〈物、理の……何だって!?〉
まぁ説明するのも馬鹿らしいが、加速した物体Aから放たれる物体Bには、物体Aの加速が加えられる。よって銃弾の弾速よりも加速したKRが前方に弾を撃っても、弾速にはKRの加速が加わるので自分の撃った弾には当たらない。ちなみに後方に向けて撃った弾は自機の速度分マイナスされる。むしろこんな基本も知らずに宇宙近辺にまで進出してくる馬鹿に驚愕するべきか。
各々雑談する余裕を見せ始める所を見ると、操作に慣れてきたようだ。しかし機体への負荷もかなり掛かっている、余計な動きでもしようものなら機体が空中分解しかねない。
その上。
〈目標より分離する熱源反応、敵のKR部隊と思われますわ〉
前方を進む光から、3つの閃光が分離する。光はそれぞれの軌道を描いてこちらへと肉薄して来ていた。
〈敵のお出ましだぜ!〉
3番機が歓声を上げる。
〈今回は近距離戦か、全くテロだか何だか知らんがこういった非効率な戦いには納得がいかない〉
得意の狙撃銃が重量や取りまわしの関係で持ってこれなかった所為で、2番機はご機嫌斜めの御様子。作戦前に軌道エレベーター側から狙撃を提案したようだが、現在のKRに超高速で接近する重質量の物体を迎撃出来る武装(超電磁砲等)が無いのだから仕方がない。
〈いいか、今回の目的はあくまで目標ミサイルの停止だからな! 迎撃部隊に構って時間を無駄にするな、目標に取り付く事を最優先に考えろ!〉
少なくとも1機はミサイルの制御を担当している事を考えると、敵は可能な限りのKRをこちらの迎撃に投入したようだ。
つまり敵の迎撃部隊を突破すれば、後はミサイルとそれを制御する1機のみ。チェックメイトってわけだ。
「さぁてと、じゃぁいっちょやってやりますか」
俺は鼻歌交じりに操縦桿を握り、飛来する敵の攻撃をするりと躱して見せる。確かに通常時に比べて加速が強過ぎる、機体の挙動も何倍か遅く感じた。だが別に慣れればどうという事はない。
むしろ俺はこの前、この状況よりもはるかに切羽詰まった戦場を生き抜いた経験がある。それに比べればこんなもの、ちょっと早めに操作すればいいだけのただのお遊びだ。
敵もこちらと同様にF03aを装備している様で、こちらと似た様な挙動をとる。つまり超高速戦闘が繰り広げられるわけだが、流石に敵も含めて全員この超高速では機体を操作するのに精一杯であまり派手な攻撃を仕掛けられない様子だ。機体していただけに俺としてはちょっと残念。
〈ああくっそ、弾道が曲がる!?〉
〈この速度は機体の火器管制アシストの許容外です、撃つなら至近距離じゃないと当たりません〉
無駄弾をばらまく3番機にナビが忠告をする。
一応全員KR用マシンガンやアサルトライフルを装備してはいるが、この状況下では弾道を予測して撃つ事は難しい、下手にばら撒けば味方機の進路を妨害してしまうので積極的に攻撃にも移れないでいた。約一名を除いて。
〈うをぉう!? 何っ? 被弾した、くっそ何処から!?〉
〈それ絶対自分から弾幕に突っ込んだんだと思うぞ〉
2番機の呟きに、俺もそう思うと頷いた。何せこの速度だ、攻撃方向と回避する進路をよく考えて動かないといけない。敵に回避先を読まれて襲われる危険がある事を馬鹿は考えなかったようだ。
〈3番機速度低下〉
レーダー内から3番機の信号が消える。まぁここまでは予想通り。
〈それじゃしまっていくぞ!〉
1番機委員長が改めて気合を入れた。それじゃ第二ラウンド始まりと行こうか。
どうやら敵は三機の迎撃部隊をさらに二種に分けて運用しているようだ。二機は敵を牽制しつつ迎撃させる遊撃部隊として、残り一機はミサイル本体を護衛し、無理やり突入して来る敵機の対応に当たると言う役割だ。
とりあえず1番機のミサイルへの進路を開く為に、俺の操る4番機と2番機で敵遊撃機と相対する。
「さぁて、踊りの相手をして貰おうか(Shall we dance)!」
敵の襲撃に合わせて、誘うように機体の背を向ける。軌道はなるべく敵機とミサイルの間に入れるように。
流石に敵も護衛対象に向けて無暗に弾は撃てず、攻撃を戸惑う。その隙を狙ってこちらから射撃をお見舞いする。互いの銃弾が雨の如く迸り、漆黒の背景に花火の様に鮮やかな閃光を描く。その隙間に機体を潜り込ませる。その様子をはたから見れば、星空を描きながら踊るように見えるだろう。
敵機はこちらの射撃を避けていくが、それで問題無い。敵機をミサイルから引き剥がす事が本命だ。
2番機も似た様な方法で敵機を惹き付け、1番機を補佐する。
〈よし、ミサイル本体に取り付いた!〉
〈1番機ミサイル[コスヴァズ]に接触、これよりシステムに干渉を行います〉
こちらの作戦は見事成功し、1番機はミサイルの外装甲に接近し、手足を展開して張り付いた。それと同時に、モニター画面にミサイルシステムの掌握率を現すパーセンテージが表示される。1番機は身動きしやすいように、機体後方に背追う大型ブースターを分離して、ミサイルにしがみ付く。
さてと攻守逆転、今度は俺達が1番機を敵の攻撃から守る番だ。とは言っても敵は護衛対象のミサイル諸共1番機を攻撃は出来ないだろうから、さてどうするのやらと見守っていると。
「まさかロケラン!?」
ミサイル護衛役の敵機がミサイルに取り付いた1番機に向けて、装甲内にマウントされていた火器を向けた。その折り畳み式の砲身を持つ携帯火器は、モニター画面が正常であるならばKR用のロケットランチャーであった。確かに無誘導式のロケット弾ならKRに無効化されず、ミサイルにしがみ付いている状況下ならKRの機動性が殺され十分に当てる事が出来る。しかし、そんな物撃ち込めば確実に護衛対象のミサイルも巻き込むのは明らかである。敵にKRだけをピンポイントで撃ち抜いて、ミサイルに被害を出さない自信があると言うなら、是非ともその腕前をご披露いただきたい所だ。
敵機は迷い無く構えたロケランを射出した。砲口部からは勢いよくロケット弾――では無くワイヤーネットが飛び出し、1番機に絡みついた。
〈うお、何だこれは!〉
なるほど、スペースデブリ回収用のワイヤーネット弾頭とはマニアックな武装を持ち出してくるものである。これならKRの動きを抑える事が出来るし、狙いが反れてミサイルに当たったとしても問題無い。
〈くっ、身動き、が……〉
ワイヤーネットはスペースデブリなどを回収する為に作られた合金繊維で編み込まれた投網だ。KRはワイヤーネットで破壊されるほど脆くはないが、引き千切れるほどの出力も無い。ワイヤーは間接や装甲に絡みつき身動きを阻害する、ミサイルに取り付くなんて繊細な動きを維持し続けることは困難となるだろう。
〈すまん皆、後は……頼んだ〉
KRは汎用人型機動兵器ではあるが、作業用機械では無い。特に高速戦特化のKRⅢは身軽さを売りにしてはいるが、機体自体はむしろ不器用な部類に入る。1番機はあえなく振り落とされ眼下に消えた。追加ブースターをパージしている以上戦線復帰は不可能だ。
[アルカの手記-022]
「前々から気になっていたのだがな、ミサイルとは一体何か?」
〈ハッ、所詮野蛮人共の旧式な兵器故姫様が存じないのも無理はないかと〉
「ふむ」
〈いわゆる誘導兵器の一種ですな、推進装置によって自ら目標に向かっていく平気でございます。もっとも我らの使う機星の様な支配型の兵装には効果はありませんが〉
「軌道エレベーターの様な支配兵装の無い拠点の攻撃には有効という事か」
〈それが実のところそう簡単ではございません。軌道エレベーターにはデブリ等の迎撃装置が多数装備されており、さらに並大抵の攻撃ではビクともしない外装が施されております〉
「ほう、つまりミサイルには対策が練られているわけか」
〈まぁ様々な事態に対策を講じるのが拠点防衛の基本でございますからな、従って通常のミサイルではこの軌道エレベーターを攻撃するどころか近づく事すらできませぬ〉
「まて、だが訓練では大型のミサイルの対策を講じていたぞ! ミサイルに怯える必要が無いのなら何故ああして対策をとらなければならない?」
〈それが、訓練にて使用されたミサイルが多少特別でございまして。弾頭部分にKR、つまり我らでいう所の支配型兵装が使われているのです〉
「なんと……支配兵装を自爆特攻兵器として運用すると言うのか!?」
〈まぁ彼らの使う支配兵装は機星ほど高尚な兵器ではございませんので、使い捨てても問題なのかもしれません。一応着弾直前に脱出する機構はあるようでございますが〉
「まてよ、これは使えるかもしれんな。我等も機星をこの様に使えれば侵略の道が一気に縮まるかもしれんぞ!」
〈まぁまず機星本人が嫌がるかと〉
「あいつらには従順さが足りない!」
〈そもそも機星を失っても破壊すべき目標など何かありましたでしょうか?〉
「……もし人類に敗れて手に落ちようとしている時にでも自爆させれば、救出の手間が省けるのでは!」
〈流石の機星達も泣きますぞ〉




