[Mission-019]
前回までのMission!
敵の攻撃を掻い潜り、必殺の一撃を放とうとした瞬間! まさかのエネルギー切れで戦闘不能となってしまった昴流。
「機星の稼働時間は全開出力で2分45秒だ」
「短けぇよ、ウ●トラマン以下か!」
しかしあわやと言う所で増援が間に合い、無事戦場から離脱したのであった。
[Mission-019]
目を覚ますと満天の星空の下に居た。
辺りは恐ろしいほどの静寂に満ちていて、まるで今までの出来事が全て夢であったかの様に。
いや、そうか夢だ。
今までの全ては夢だったんだ。
その証拠に、いつの間にか周囲には謎のロボットなんか影も形も無い。宇宙服の様な恰好の変な女も居ない。
全ては遭難しさ迷い歩いて、疲れ果てた俺が見た、夢幻だったのだ。
おかしいと思ったんだ、変形するロボットだのビーム兵器だのまさに架空の代物だ。そんな物がそこらへんにおいそれとあってたまるかって話だ。
俺は頭の中をそう無理やり納得させて、ゆっくりと起き上がった。
鞄から多機能端末をとりだして地図を起動してみる。
〈統括ネットワーク[ネビュラ]にアクセスしました、間もなく設定された目的地座標に到着します〉
「あ、リンク復活してる」
いつの間にかデバイスの機能が復活していた。いや、デバイスの不調自体が夢だったんだろうか? いったいどこまでが現実か判らなくなってきた。
とりあえず今は考えるのを止めて、デバイスの明かりを頼りにとぼとぼと歩く事にする。ほどなくして鬱蒼と生い茂った森を抜け、軌道エレベーターの輝きが目に入ってくる。ようやく俺は安堵の吐息を漏らした。高く聳える軌道エレベーターの麓に目指すべきKR専科の施設はあった。
俺は倒れ込む様に、KR専科の本校舎エントランスに膝をついた。身も心も疲れ切った俺を、無人の警備システムに守られた入り口が愛想無く出迎える。時刻は深夜を回ろうとしていたから人気は無い。
たかが夢だというのに、何だろうこの精も根も尽き果てた様な疲労感は。そのまま寝入ってしまいそうな心地の中、俺は誰かが入り口を開ける気配に気が付いた・
「遅かったじゃない?」
「……何だ観言か」
俺の眼前には、見知った小柄の女子生徒が居た。
「何だ観言かじゃないわよ、もしかして遭難してた? 教官も心配してたのよ? あんたは知らないでしょうけどこっち大変だったんだから」
観言は心配するつつも呆れる様な、悲しみつつも怒る様な複雑な表情を浮かべている。
「何かあったのか?」
「ものすっごい大規模な通信障害があったんだから! 内線のしかも有線通信しかつながらないから大慌てだったのよ? 挙句避難警報も鳴り出すしで」
「へ、へぇ大変だったんだな……」
何だろう嫌な予感がする。
「今も衛星とか広域通信は一切出来ないみたい、一応施設付近は通信出来るっぽいけど距離があるともう駄目みたいね」
いや、あれは夢だ。だから関係はないはずだ。
「何が原因かは分かったのか?」
「何か昼間に教官が言ってた隕石の欠片か何かが、強力な磁力を発してるんじゃないかって報道科が言ってた、明日には調査隊が本格的に調べるって話よ、その関係で明日の午前中の訓練は中止だって」
「そりゃありがたいな……正直疲れて、明日ちょっと寝過ごしそうだったからさ」
「大丈夫?」
「まぁちょっとした筋肉痛と精神疲労かな、一晩寝たら治るさ」
「じゃなくて反省文、教官が明日の朝までにデスクの上に提出だってさ」
「うぐぅ……」
そう言えばそんな罰則が残っていた様な。
「今から取り掛かるって事はもしかして徹夜なんじゃない?」
「通信不能の非常事態だってのに何でペナルティは継続なんだよ!」
「私に言われてもねぇ、そういうのでチャラにすると学校側に脅迫文とか送り付ける輩が居るからじゃない? テロの要求には屈しないのが国際常識?」
観言は、残念ねぇ? といった憐みに溢れた視線で見下ろしてくる。
冗談じゃない、今にも意識を手放して柔らかい布団で倒れ込みたいのに、こんな心境で一体何を反省しろっていうんだ。
「観言……ちょっと手伝っ」
「あ、そろそろ大浴場閉まっちゃいそうだから行くわねー、それじゃ頑張ってね♪」
観言は俺の言葉を全く聞く素振りを見せずに踵を返した。
ああ全く自分はなんてチームメイトに恵まれているんだろうかね。仲間の気遣いに思わず涙すら浮かんでくるよ。
何とか最後の気力を振り絞って立ち上がると。
「昴流―」
観言に呼び止められる。
「何だよ?」
俺は流石にもう体力も限界で、とりあえず一刻も早く部屋に戻って倒れ込みたいんだが。改まって呼び止められたのなら振り向くしかないだろう。何だかんだ言いつつも、見知った顔に出迎えられて少し嬉しかったって事もある。その上。
「……えっとさ、ほらもう食堂閉まってるじゃない? 徹夜とかするなら、夜食とか居るでしょ?」
観言は歯切れ悪そうに言って、テテテッと近づいて俺の手元にこぶし大の塊を押し付けてきた。放送を少し開けてみると、中には少し歪な形のおにぎりが入っていた。
「そ、それじゃ!」
「あ、ああ……ありがと」
観言は短く言葉を切って、パタパタと去っていった。その後ろ姿に何だか照れてしまったじゃないか、観言の癖に可愛いなーもう。
思いがけない遭遇イベントに少し心は踊ったが、しかしさすがに色々と限界だった。少々ふらつく足取りで、リュックその他装備を備品室に戻すとほとんど無意識の状態で自室へと向かった。
[アルカの手記-019]
「何と全てはこやつの見る夢であったのか!」
〈いえ姫様、これは一種の現実逃避かと思いますが〉
「何と、起きた出来事は覆らぬと言うのに人間とは不可解な事をするものだな」
〈姫様も訓練の時には、はてそのような予定あったかなと空とぼける時がございませんか?〉
「あ、あれはたんに忘れていただけだ! 我が現実を前に逃げる訳があるまい!」
〈お嫌いな野菜を食事に出しましたら廊下を全力疾走した事が確か……〉
「あれは急に走りたくなっただけの事だ、食事前に腹を空かせるのはごく普通の事であろう」
〈では姫様は目の前で起きる如何なる出来事からも目を背けないとおっしゃる?〉
「当然だ、征服者たる者が逃げ出すわけがあるまい!」
〈ではこの前謎の腹痛により取りやめとなった操縦テストを執り行いましょう〉
「んん? はて誰かが我を呼んでいる気が……アッチカナ?」
〈……舌の根も乾かぬうちに!〉
[続く]




