[Mission-015]
前回までのMission!
異星人の兵器に無理やり乗せられた昴流。しかし肝心の異星人は操縦がド下手くそだった。
そんな中、新たな異星人の兵器が姿を現し、状況はさらに複雑になっていく。
[Mission-015]
外観を完結に言えば、金属のフレームで形作られた蜥蜴と言えよう。その機体には後方に伸びた長い尻尾状の構造体が見て取れた。
色は白っぽい金属色で、頭部や胸部などには文様と高級な装飾品の如く飾りが施されている。関節部や装甲が覆っていない部分は、金属質な板が複雑に織り込まれており、折り紙で形作られたような印象を受ける。
『第8機星のリザード[フリス]か、第9機星と相対するとは運命を感じるな……』
宇宙服は目の前に現れた機体と戦うつもり満々の様子で、操縦桿らしき球体を握る。
その時、コクピット内に音声通信が入って来た。
〈おやおや……これはこれは、てっきり[ミスト]と思ったら、姫様ではないですか。第9機星で何をなさっておいでですかね?〉
ややお道化た調子の、そしてこの状況を楽しんでいる様にも聞こえる若い少女の声だ。
『まぁ色々さ、所で物は相談なんだがなフリスよ、この場は一つ見なかった事にして引き返さぬか?』
宇宙服はモニター先に映る機械蜥蜴に、返す様にお道化た調子で言葉を投げる。
って事はこの通信相手は、あの機械蜥蜴のパイロットって事か。
〈いやいやー姫様ぁ、懐柔しようったってそうはいかないっスよ、いつもの悪戯とは状況が違うんスから。レメル様から連れ帰るよう指示が出てるっスよ、大人しく来てはくれないっスかね?〉
『それは頷けんな、私はまだまだ地球観光を楽しむつもりだ、兄上にもそう伝えてくれ。もっともこの場を無事に逃れられたらの話だがな!』
妙に威勢よく言い切って、宇宙服は操縦桿を押し込む。俺が起動シークエンスを手伝ったおかげで、機体は宇宙服の指示通りゆっくりと前へと踏み出す。しかしやはり操縦者の腕が未熟な所為か、機体はバランスを崩しかけてつんのめった。
〈ハハハァ! 相変わらず姫様の操縦は見ものっスね! でも今は訓練の時間じゃないんスよ、ミストには悪いっスけどその外装引っぺがして確保させて貰うっスよ!〉
機械蜥蜴は、後方に備える尻尾の先をこちらへと向ける。すると尻尾先端の装甲部が展開し、宝石の様な水晶機構が露出し、発光を始める。
何か嫌な予感がする。これってあれじゃね? 宇宙服の腕から迸った光線と同じ、所謂ビーム兵器って奴じゃ?
〈ひ、姫様! 早く機星の操作をこのスミスめにお譲りください! いくら対機星戦闘用とはいえ、Sシューターの直撃に堪え切れるものではありませんぞ!〉
モニター端のマスコットが慌てた様子で警告を発する。
『むぅ私もそうしたいのだが、どうやったかをあまり覚えては……』
今まさしく撃たれようって時に、この宇宙服は何を落ち着いているんだ!
どうやら敵対しているとはいえ仲間割れの様な関係らしいので、もしかしたら命までは取られないと呑気に構えているのかもしれない。
しかしだ、ちょっと待って欲しい。その安全保障はあくまでこの宇宙服にだけであって、捕虜の俺には何ら配慮されるものでは無いのではないだろうか? もしこの宇宙服が負けて向こうに捕まったとして、俺は一体どうなるのだろうか?
まぁ結局捕虜である事は変わりないと思う。しかしだ、待遇の面ではどうだ?
この宇宙服は俺から何かしらの情報を引き出そうと画策していた。少なくとも俺が素直に洗い浚い話す間は命の保証をしてくれそうな気がする。つまりまだ俺には交渉の余地があるという事だ。
それに対して向こう側の捕虜になった場合だが。
相手は冷酷無比に元仲間に銃口を向けるような相手だ。相手の目的はこの宇宙服であり、俺はあくまでこの宇宙服を捕らえるついでに捕まえた程度の存在。用は無いのでその場で解放されて無事に帰還とかいう楽観的な展開はまず期待出来そうに無い。
最悪敵の本陣に連れて行かれて、解剖されたり改造されたり、洗脳されたり調教されたり泣いたり笑ったり出来なくされるかもしれない。
それだったら、敵の本隊を裏切った感じの宇宙服に付いていた方が生存の可能性が極めて高いと思われる。それこそ知っている限りの情報を渡して命乞いすれば助けて貰えるかもしれない。しかしそれも全てはこの状況を無事に切り抜けられたらの話だ。
と、向けられた尻尾の先から光線が迸る直前までに考えをまとめた俺は、とっさに宇宙服の足元に飛びついた。勿論俺好みの美脚だったからではない。
『貴様何をする!?』
宇宙服の文句はとりあえず無視して、俺は足元のペダルを宇宙服の足ごと手で押し込んだ。その動きはほとんど本能的だった。
馴れ親しんだ空間が、常日頃思い描いた戦場が、体に染み込んだ反復練習が、咄嗟に緊急時の動作を行わせた。
結果としてそれが功を奏した。緊急機動用のブースターが作動し、機体が横に動いた。直後にそのすぐ横を、敵の放った光線が迸った。
〈おおっとぉっ!? 姫様やるっスね手解きした甲斐があったって事っスかね? やっぱり多少は抵抗して貰わないと歯ごたえが無いっスよ!〉
通信の向こうで、敵が俺のファインプレーに興奮した様子で言葉を返してくる。
まさに危機一髪、何とか上手く行って良かった。そしてどうやらこの機体、操縦系統はKRとほとんど同じと思っていいようだ。いやむしろKRよりも操縦のレスポンスは良い。
『貴様……何をした?』
宇宙服が驚いた様子で問いかける。
「何って、緊急機動用のブースターをマニュアルで操作しただけ」
KRは基本的に、オートバランサーと豊富なサポートシステムのおかげで操縦桿一本で柔軟に動かせる。しかし、場合によってはアシストシステムを介さない、主導による挙動が必要だったりもする。その時の為に、KRの操縦にはいくつかマニュアルによって操作できる動きが用意されている。
『起動の時といい、貴様はつまりこの機体を動かせるのだな?』
「さぁてね、それはやってみないと何とも」
宇宙服の操作方法などを見た限り、形状等は違うがレイアウトに大きな変更点はなさそうだ。
『……まさか、いやそんな、だがしかし……?』
宇宙服はヘルメットの奥で、驚きとも戸惑いともとれる呟きをこぼす。
〈姫様! 野蛮な原住民の甘言などに惑わされてはいけまsねんぞ!〉
「ほら敵が次弾を撃つ前に決めてくれねぇか!?」
マスコットの言葉を遮るように声を張り上げる。千載一遇のチャンスだ、この機会に売り込んでおけば、自由もそう遠くはないかもしれない。
敵の方は尻尾を向けた状態のままこちらの様子を窺って居る様に見える。もしくはあまり連射が効かないのかもしれない。とはいっても一発程度で弾切れって事は無いだろう、考えていられる時間はそうない。
『――よし』
決意の籠った呟きをこぼし、宇宙服はヘルメット越しに俺を見つめた。
『お前、名前は?』
改めて問われたならば、答えるしかあるまい。
「早矢金昴流だ」
宇宙服は、なのっ倒れに手を差し伸べる。
『よし、今から貴様は私の為に戦う騎士となれ』
宇宙服のその芝居掛かった口調やしぐさに俺は思わず笑みをこぼした。
それは何かの儀式の様で、溢れだす高揚感に俺の心は支配される。
さしずめ眼前の宇宙服は中世紀に存在していたという姫君のようであった。
『昴流よ命令だ、我に勝利を捧げて見せよ!』
俺は思わず雰囲気にのまれて跪き、忠誠を誓う騎士の如く頸を垂れた。
「仰せのままに」
[アルカの手記-015]
「まったくあやつも余計な事を、ここは私が華麗に機星を操ってフリスの奴をコテンパンにしてやる所だったのにな!」
〈いやいやいや、姫様の何処からそのような自信が沸き起こってくるのかは存じませぬが、わたくしハラハラしてみておりませんでしたぞ〉
「何を言うか、まぁここはあやつ目の潜在能力を見抜き、育成の意味も兼ねて操縦を譲ってやった我の英断が功を奏する場面ではあるがな」
〈あの少年がおらねばどうなっていた事やら〉
「貴様先程から言わせておけば……我の操縦の何処がそんなに不満なのだ!」
〈どう考えても機星で転ぶとかありえない事かと〉
「ともかく! 今回は奴に譲っただけなのだ! 今後の我の活躍に期待するがいい!」
〈ではいずれ抜き打ちで操縦テストでも行いましょうか〉
「いや……それは……ちょっと」
[続く]




