[Mission-014]
前回までのMission!
異星人に捕まった昴流は、脱出を図るも敢え無く捕まってしまう。
そして異星人が乗ってきたと思しき船に連れ込まれるのであった。
[Mission-014]
戦う事は人間の本能だと思っている。
KRの操縦席は、俺にとって特別な場所だ。
その1メートル四方の箱の中は、俺には心の落ち着く場所だった。
兵器と言う殺伐とした代物の、しかしその操縦席においては本能に囲まれた母体の中の様な心地良さがあるのだ。
あるいは俺が、今までの生活環境の中で最も多くの時間を過ごし、そしてこれからの人生に置いても多くの時間を過ごすであろう事を予感しているからこその感覚なのかもしれない。
その俺が思うのだから恐らく間違いでは無いだろう。
連れ込まれた宇宙服の乗り物の中は、馴れ親しんだKRの操縦席と同じ感じがした。
勿論見た目は似ても似つかないし、まず広さが違う。連れ込まれた場所は恐らく操縦席と思しき場所ではあるが、俺と宇宙服が一緒に入ってもまだ余るほどスペースに余裕がある。座席はリニアシートなどでは無く、ダイレクトに虚空に浮かび、内部の全体的な形状は本体と同様の楕円形だ。そして全体的に白く発光しており、手触りは陶器の様な金属の様な、冷たくもあり暖かくもあり、硬くもあり弾力もある様な、まさしく未知の材質だ。
宇宙服が座るシートに備えられた制御盤の様なボードは、スイッチすら無くもはやどう操作していいかもわからない。
そんな未知の存在に溢れている空間だというのに、俺は何処かKRの操縦席にいるような感覚に襲われているのだから不思議でならなかった。
『ふむふむ、落下の衝撃による損傷無し、S粒子残量64%、モニター起動』
宇宙服は操縦席で、何やら表示を目で追いながらボードを操作している。次の瞬間、宇宙服の呟きと共に楕円形の外壁が透き通り周囲の景色が表示された。これはKRの全天周囲モニター? いやそれよりは遥かに鮮明だが。
しかしこうなって来ると、ますますここがKRの操縦席のように見えてきた。宇宙服が乗り込んでいる席が操縦席とするなら、足元のボードがブースターペダルだろうか、手元の球体が形状は似ていないが操縦桿、その周囲が火器制御コンソール。反対が姿勢制御関連だろうかと予想される。と言っても、ほぼ卵型のこの機体をどうやって操縦するのかは疑問だが。
『む、搭乗壁を閉じたのに、姿勢制御系が来ない?』
見た感じ宇宙服はそう中に不慣れな様子だ。
KRの場合、搭乗口を閉じた状態でも機体が傾斜姿勢だと、転倒の危険を感知して制御系の操作にロックが掛かる場合がある。まず周囲の地形をスキャンしてオートバランサーを起動させ、機体を水平にさせる必要があるんだが、ほら目の前に表示されてるそれ、恐らくアラートメッセージだろ気づけよ宇宙服!
『ええっとこれが現在位置で? スミス、合流地点は何処か?』
〈は、今お送りいたします。しかし私、姫様の操縦に凄く不安があるのですが〉
モニターの隅っこの方にウィンドウが現れて、何やら不気味なマスコットのような存在が姿を現した。どうやらこいつが宇宙服が先ほどから会話している相手の様だ。
そしてそのマスコットの危惧通り、宇宙服が操縦桿と思しき球体を手で掴むと同時に、操縦席内が大きく揺れ、風景が横倒しになった。宇宙服は座席に固定されているからいい物の、床にいた俺は衝撃と共に壁に叩きつけられた。
『む、動作が重いな』
「動作がどうとかそういう前にこの下手くそっ!」
思わず立場も忘れて叫んでしまっていた。
ありえねぇ。
あくまでもKR基準での予想だが、恐らくこいつ姿勢制御の操作が出来ないもんで、緊急制動用の補助ブースターを無理やり作動させたに違いない。オートバランサーを切った状態で推進機関を吹かしたら転倒するに決まってる。
こんなのは初歩以前の基本操作だ。教官に怒鳴られて操縦席から降ろされてとりあえず外周一周柱されるレベルのミステイクだ。
とりあえずこの宇宙服は、この何だかわからない卵型の操作がド素人という事は分かった。
『捕虜の分際で五月蠅い奴だ! 機星には貴様には思いもよらない繊細な操縦技術が必要なのだ!』
だとするならばお前にはその操縦技術はまず間違いなく備わっていないという事だ。
『えっと次は……』
ああもうまどろっこしい。
「とりあえずオートバランサー起動、そんで目の前のアラートがバランサー補正に切り替わるから、そしたら地形スキャン完了を待って操縦桿をゆっくりと手前に引く!」
『な……! え、こ、こうか?』
宇宙服が操縦桿らしき球体をゆっくりと手前に引くと同時に、コクピットも緩やかに水平位置になっていく。
「そしたら動作チェックモードで一通り操作パネルを押す、オールグリーンならペダルに足を軽く置いて出力系を安定させる!」
『ま、待てもうちょっとゆっくり……』
俺の言う通りに宇宙服はパネルを押し、モニター上に読めない文字の羅列が無数に走り緑色に点灯した。
ふむ、どうやら基本的な部分は完全にKRと同じ作りの様だ。
「最後に各種オートシステムをリンクさせて、中央のボタンでスタンドアローン状態にして両手を操縦桿の上に置いて起動シークエンスは完了!」
これが一般的なKRをコクピット内部で操縦者が単独で動かす手法の一つである。
『こうだなっ!?』
宇宙服が意気揚々とボタンを押し込んだ。
つってもこの状態じゃ歩く程度の事しか出来ないから、例えば施設内でKRの置き場所を変えるとか簡単な荷物運びくらいしかできないんだけどなぁなどと思っていたら、唐突に操縦席内が浮かび上がるように上昇し始めた。
「は、え、ちょっとっ!?」
内部からでは良く分からない、分からないが、これ変形してねぇか?
入る前に見た形は大雑把に言えば卵型の変な乗り物だったはずだが。今やしっかりと手足を生やした人型になっていた。
コクピットから見える周囲の景色も上から見下ろすものに変わっている。っていうかKRよりも二回りくらいでかいぞ。
俺が驚いて声も出せないでいると、再び画面端にマスコットキャラが顔を出した。
〈ひ、姫様! 秘匿モードを解除してはなりません! 他の機星に見つかってしまいますぞ!?〉
どうやらさっきの卵型は、色んなセンサーから身を隠す為の形態だったらしい。もしかしたら余計な事をしたのかも?
『おおそう言えばそうだったな、ちなみにだが、もう遅い』
宇宙服は何やら達観した様子で、モニターの一部を見つめていた。その視線の先には今まさにこちらへと近づく、謎の光があった。
モニターの奥の夜空を切り裂く様に、一条の光が舞い降りようとしていた。それは彗星の如く光の尾を引いて。確実にこちらへと進路をとっていた。
コクピット内は、警報が鳴り響き空気が張り詰める。
〈急接近するS粒子反応、他の機星に捕捉された模様です、姫様すぐにその場からお逃げください!〉
『いやこれはむしろ好都合という物だ、ここでこの敵を倒せば安全にお前と合流出来る。なに一機程度ならば対機星戦闘用の第9機星の敵では無い』
〈常々姫様のその自信の源は一体何処なのか疑問でなりません!〉
宇宙服とマスコットが喚いている間にも、その光はこちらへと近づきやがてその全貌が明らかになる。
それは人型に近い機動兵器の様だが、しかし俺の知っているKRなどとはまったく共通点の見つからない未知の存在であった。
[アルカの手記-014]
「むぅしまったな……」
〈何をお嘆きでしょうか姫様〉
「あまりの急展開にテンパってしまった! これではまるで私が散々偉そうに言っていた割に実は操縦下手なんじゃないかと疑われてしまうではないか!」
〈いやそれは疑うと言う以前に事実なのでは?〉
「違うのだ! 普段あんまり第9機星には乗らないから、各機毎の微妙な勝手の違いに戸惑っただけなのだ!」
〈操縦席のレイアウトは全機ほぼ同じでございますが〉
「座席のシートの角度とかモニターの解像度とか細かい設定が違ったのだ!」
〈それが起動シークエンスに手間取る原因と言うのもどうかと〉
「我姫だし! 些細な事でも気が散って集中できないし!」
〈もはや単なる我がままとなっておりますが……〉




