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[Mission-010]

前回までのMission!


 お前等なんか仲間じゃない! 教官や仲間から辛い事を色々と言われた昴流は、勢いのままに施設を飛び出した。しかしその背中に掛けられた言葉は引き留める為のものでは無く、外周一周という過酷な罰則なのであった。

[Mission-010]



 地球圏防衛軍(Safety・Earth)付属の桃花台KR(ナイト・ラウンダー)専科専門学校は地球圏防衛軍(SE)の傘下組織である。しかし軍属では無い。

  直接の指揮系統や教官などはSEから配属されてくるので軍隊色は確かに強いのだが、その本質はKRの運用を通じて、組織的な行動と秩序を重んじる優秀な人材を育成し、地球圏防衛軍(SE)や火星圏統一政府C.W.O.Uに人員を補充する事だという。

 つまり士官学校などでは無く、あくまでKRに関する専門教育を行うごく普通の学校施設と言う建前である。

 所在は南海の島という事以外はあまり明らかにされていない。もっとも軌道エレベーターSTT04に付随する様に建設されている為に一目瞭然なのだが。

 その総面積は、島の大半を埋め尽す訓練地と名ばかりの樹海や飛行場等の施設を含めると約4万k㎡、その外周はおよそ100kmだ。

「暑い――死ぬ――」

 気候は高温多湿、日差しが降り注ぐ常夏。

 バカンスに訪れるならば最適だろうが、マラソンを行う環境としては最悪だ。

 前方はどこぞのアメリカ映画よろしく見渡す限り舗装された道が続く。右手は広大な樹海が広がりその奥に軌道エレベーターが聳えている。左手は砂浜と海が広がる。空は何処までも蒼い。永遠と舗装された道をひたすら歩く様は、さながら隔離施設から脱走を果たした逃亡者の如きストイックな気持ちになって来る。

 やばい、そろそろ意識が飛びそうだ。

「これ罰っていうか拷問じゃね……」

 俺の身を案じて渡されたサバイバル道具一式が、妙に肩に食い込む。中身は水筒と携帯食料。地図とGPS等の様々な機能を内蔵した多機能端末(マルチデバイス)。救急救命道具一式。いざという時の非殺傷銃……。

 一体どこまでを想定した重装備なんだろうか。

 それはそれとして。とりあえず多機能端末(マルチデバイス)に向かって質問する。

「現在までの走行距離は」

〈統括ネットワーク[ネビュラ]にアクセスしました、現在の走行距離は11.26kmです〉

 マジか結構走った気がするんだが、まだ1割くらいなのか。

「こりゃショートカットしないと今日中には終わらないぞ」

 チラっと横に目をやると、そこは夥しい木々の生い茂る樹海。と天高く聳える軌道エレベーター。あれなら流石に見失う事もあるまい。目的地はその根元だし、幸い道中に監視も居ないしチェックポイントも無い。

 デバイスに記録される走行距離は芦屋に頼めばいくらでも改ざん出来る。ここは覚悟を決める時かもしれない。

「よし、行くか」

 俺は意を決して、本来のルートから外れて樹海へと踏み入った。

持たされた装備を考えると、やはり遭難も想定されているのかもしれないとか考えつつ。


 新暦WW(ダブレッド)

 人類は資源を取り尽した地球を見限り、生存拠点を火星へと移す事に成った。

 火星のテラフォーミングが完了すると、入植に先駆けて新天地での争いを避ける為に、入植者を選別する機関C.W.O.Uが設立された。その組織は後に火星の統一政府となり、今後の世界を牽引する事となる。

 火星圏統一政府C.W.O.Uは今や人類を主導する組織となり、生息域を木星の衛星にまで伸ばす事となった。

 WW265年、経済や文化の中心は完全に火星へと移っている。その結果として地球は過疎化した。現在では旧時代の文化や風習を重んじる一部の人間と、火星へと移住する金の無い貧乏人が地球に残っている。

 地球は旧時代の設備や、軌道エレベーターから送られる物資で現状何とか生活を維持している。しかしこのままでは先細りだ。若者は何とか火星と繋がりのある各種企業やC.W.O.Uの直轄、地球圏防衛軍(SE)の関連組織に身を寄せて、地球脱出を図っている。

 KR(ナイト・ラウンダー)専科専門学校もそう言った組織の一つだ。

 表向きは優秀な人材の育成という名目である、しかし皆薄々と勘づいているはずだ。

 地球圏防衛軍(SE)は、軍属ではあるがしかしその活動は軌道エレベーターや宇宙ステーションの管理や維持、スペースデブリの撤去、施設に対するテロ活動の対策などであった。それがここ最近では軍事組織の側面が強くなり、戦闘訓練、しかもKR戦を想定したような物騒な物が多くなって来ている。

 ここまで来れば嫌でもわかって来る。

 戦争が起きている、もしくは近くに起きるのだ。

 火星かそれとも木星の衛星か。

 その為の、戦闘員としての技術を求められているのが分かる。

 やはりいくら策を弄し入植者を選別し、旧時代の文化や風習を排斥しようとも、結局人類の本質は変わらないのだ。戦う事は人類の本能だ。

 それに気づかない奴ほど、平和と言う魔法の言葉を口にしたがる。

 勿論だからと言って、戦争に参加する気などまったくない。誰かに命令されて、戦場に出向いて命のやり取りなんぞまっぴらごめんだ。

 俺はなるべく、整備員やテストパイロットとして、安全な役職で火星や木星へ行くのだ。そして戦闘行為とは縁遠い人生を謳歌するのが目標だ。

 他の皆もそんな感じの考えのはずだ。

 あまりにも優秀な成績を示して、前線に送られては元も子もない。皆適度に力を抜く。だから何事も遊びに過ぎないのだ。

 訓練もシミュレーションも全てがお遊戯だ。馬鹿々々しい。

 しかしそう思い至った瞬間から、何故か胸が苦しい。

 ダラダラと汗が止め処無く流れる。

 全身が苛立つ様な。

 全身が渇く様な。

 自分の五感が封印されて、周囲に塗り固められていく感覚。

 自分という枠組みが薄れ、周囲へ溶けだしていく。自分という存在がまったく別の何かへと書き換えられていく感覚。

 こんな物は全然自由とは言わない。

 このままでは何も解決しないのは判っているのに、どうしようも無い閉塞感、居心地の悪い窮屈さが付き纏う。まさしく籠の中だ。

 そんな生き方を続けていたら、疼くのも仕方が無い。

 このまま飛び出してしまいたいという衝動に駆られてしまう。

 そうなると、何処までも飛び立ちたくなってしまう。

 何処までも遠くへ。もう二度と戻れないような遠くへ。

 出来る事ならば何も考えず、見知らぬ地の果てまで駆けて行きたい。

「――っていうかここ何処だ?」

 見渡せば、南国特有の背の高い木々に囲まれている。足元も草木が覆い、一寸先も見えない熱帯雨林の真っただ中だ。目印にしていた軌道エレベーターも今や枝葉に隠れて見えなくなってしまった。そろそろ薄暗くなってきている。

 いやもう、帰りたくないっていうか、帰れない?



[アルカの手記-010]


「これは間違いなく死んだであろうな」

〈ですから姫様、まだ時期尚早かと〉

「しかし熱帯雨林だぞ、迷子だぞ! 行く先も分からないのだぞ!」

〈確かに絶体絶命ではありますが〉

「私なら三日と経たずに屍になる自信があるぞ!」

〈それははたして胸を張って言うべき事でございましょうか?〉

「船内でもよく迷子になるのだぞ、これはもう努力でどうにかなる問題でもあるまい」

〈ですからそれは開き直る様な事ではございませんと〉

「挙句に人生の歩みでも迷っているのだから性分だな」

〈……お困りの事がございましたら相談に乗りますが?〉



[続く]

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