[Mission-009]
前回までのMission!
教官の登場により、作戦終了時の独特な和みムードが突如として引き締まった。そして行われるパイロット一人一人への駄目出し。そしてついに昴流の番となる!
[Mission-009]
「……はい」
名前を呼ばれて、嫌な予感を覚えつつ俺は返事をする。
「君はえっと、命令違反に機体の私的運用、装備の秘匿に使用を許可されて無い火器の運用、意図的な機体装備の誤情報の提示に、無許可の装備破棄、そして指定された装備の持ち込みを意図的に忘れた違反行為……」
ううむ、こうつらつらと語られると、まるで俺が悪い事をしたかの様な錯覚に陥るな。
「っとこれだけで一か月くらい独房に入れられる背信行為になるんだけど、何か申し開きはあるかしら?」
教官の問いに、俺は言葉を詰まらせた。
フレックス同様に反省文くらいは書かされるだろうと覚悟していたのだが。どうやらその程度では許されないらしい。
「あら何か不満そうね?」
そりゃ不満が無いと言えば嘘になる。
この作戦を成功させる為に、皆一生懸命努力したのは確かだ。より良い結果を出せるように精一杯頑張ったのだ。しかし結果はこの有様だ。地道な努力は不意に現れた乱入者によって一瞬で粉々にされてしまった。
結局現実とはこんな物なんだと嘲笑われている様な気がした。
そう思うと、胸が酷く締め付けられる。顔は苦痛に歪み、呼吸がままならなくなる。
とてもではないが、俺には耐えられそうにない。こんなイレギュラーは到底受け入れられるものでは無い。
だったら、所詮はお遊びなのだからむきになっても仕方が無い、無駄な努力でしたね御苦労様とでも言われた方がマシだ。
そうだきっと、全ての事に意味なんか無いのだ。この訓練にだって、さして重要な理由など無い。だからこそ。
「所詮はこんなのはただのお遊びとでも言いたそうね?」
「ぐぅ……!?」
教官に心を見透かされたような気がした。
「だから重い処罰は不適切とでも言いたいのかしらね?」
教官が、嗜虐的な表情で続ける。
「だとしたら、貴方はこんなお遊びも真面目に出来ないのかしらね?」
ぐはぁっ!?
なんか完全に言い負かされてしまった。
俺は心に致命傷を負いながらも、何とか言葉を紡ぐ。
「……イレギュラーを想定して……準備をするのは間違いないはず、俺はアンノウンに対して作戦の装備では不足と感じた」
「確かに君はアンノウンに対して善戦したわね、でももしアンノウンが現れなかったら?」
「それは……でも実際には現れたわけで」
俺の言葉を遮って、教官が口を開く。
「今回の作戦では、制圧後に軌道エレベーターの警護に付く手筈になっているのは知っているわね? その為に予備の弾薬や燃料は必要不可欠。そう言った意味では君の身勝手な行動がチームに大きな損害を与える可能性もあったはずよ」
「俺はそんなつもりじゃ」
「そんなつもりは無くても、命令違反には厳しくする必要があるわね」
「ここは軍隊じゃない」
「そうね、ここは軍隊じゃない。貴方達も軍人では無い、だから絶対に命令厳守とは言わないけど、違反には相応の罰則を覚悟して貰わないと、君達の為に成らないじゃない?」
ここで、俺と教官が言い争っているのを察してかチームメイトが掛け寄って来た。
「ちょっと昴流! 教官と揉めてんじゃないわよ!」
「ハハハ、この件には僕も少なからず絡んで居てねぇ、彼だけを責めないでくれないかい?」
観言と芦屋が会話に加わる。
「あらチームメイトを庇うなんて良い心がけね、じゃ他のパイロットは戻っていいわ、各自ミーティングして報告書をまとめる事、フレックスは反省文忘れない様に」
他のパイロットをチームの元に返して、尾乃教官は僕等を、さてどう料理してくれようかといった瞳で見つめる。
「さて、それじゃこの件はチームの連帯責任って事でいいのかしら?」
尾乃教官の言葉に、観言と芦屋は顔を見合わせて。
「そうですね、二人の行動に気づけなかった私にも、多少の責任はあります」
「僕も悪乗りが過ぎたよ」
そう反省した様な態度で、頭を下げる。
「……お前等」
この瞬間に、俺は仲間と言う存在がとても心強いという事を知った。
俺達チームメイトの心が繋がった気がしたのだ。ああ、仲間とは良いものだ。俺を庇うような仲間達の発言に、俺は思わず感極まって泣いてしまいそうになる。
「だから、彼にはそんな重い罰は与えないでやってください」
「そうだねぇ、僕達を代表して受ける以上あんまり思いペナルティだと僕等も心苦しいからねぇ」
あれ? さりげなく俺にすべての責任を擦り付けてはいないか? 後から知った観言はいいとして、おい芦屋お前は共犯だろうに。
「皆仲間思いなのね、分かったわ。貴方達に免じて、今回は反省文と外回り一周で許してあげましょう」
むぅ、何気にフレックスより重いのは何故だ。
「勿論、連帯責任ですよね? さぁ皆チームで分担すれば負担も1/3だ!」
「いややっぱりパイロットはチームのリーダーっていう事で、全責任を負うべきかなと」
「だいたい恰好良く打ち取りたいって言い出しといて、挙句惨敗してたらねぇハハハ」
「……お前等」
この瞬間、俺はチームメイトとの間に深い溝が生まれた気がした。ああ仲間なんて持つモノじゃない。仲間からの冷たい発言に、俺は思わず泣いてしまいそうになる。
「もういい、お前らなんか仲間じゃない!」
とりあえず溢れそうな感情を押しとどめて、背中を向ける。いや別に泣きそうってわけじゃないけどさ。
確かにちょっと恰好付けて勝とうとはしてみたさ。そう言った目論見も全て打ち砕かれて現実を見せつけられた今、全面降伏して掛け出すしか無い。
それは抑えがたい内側の衝動だった。
俗に言う、羞恥の赤面とか自責の念とかの類では無く、例えるならばそう、若気の至りに近い。
「ちょっと昴流何処行くのよ!?」
観言の言葉には顔を向けず、背中越しに答える。
「とりあえず外周走って来る!」
青春の衝動的な、仲間内での悪ふざけ的な、若さ故の過ち的な、胸の中枢、皮を抜け、胸骨をすり抜け、心臓のさらに奥、まさか心とか言うメルヘンチックな言葉を持ち出すに至ってしまうとは、俺も追い詰められたものだ。とにかく今は無性に走りたかった。
こういう時はとりあえず一人になるに限る。
傷ついた心に青空が染み渡る様に、長い間コクピットに収まっていた身体が今無性に駆け回りたい衝動に駆られているのだ。今なら何処までも走っていける気分だ。心の中では何だか青春っぽいBGMが鳴っている気がする。
自由な空へと翼を広げ――。
「ああ、ちなみに外回りって言っても施設じゃなくて、敷地内を一周だからね」
教官が去り際の俺に、恐ろしい一言を付け加えた。
勢いのままに外へと飛び出そうとしていた俺の身体が、硬直する。
「気を付けて行ってらっしゃいね」
そう言うと教官は何処からともなくサバイバル道具一式をとりだしてきた。
「え、マジ……?」
嫌な汗が止まらない。
[アルカの手記-009]
「おおお……地球の民の罰則とは実に恐ろしい事やらせるのだ……」
〈おやそれほど恐ろしい罰則等ございましたでしょうか?〉
「走り込みだぞ!? 手足を使って、さらに言えば外を走ってくるのだぞ!? そんなことをすれば日ごろ運動不足の私では手足が爆散して砕け散ってしまうわ!」
〈それほどっ!?〉
「まったくこんな恐ろしい罰則を考えるとは、地球人の野蛮さは聞いていた以上であったな」
〈いえですからそれほどでございましょうか?〉
「我が征服を果たした暁には! 肉体に負荷を掛けるような運動を原則として禁止するぞ! みなゴロゴロと自堕落に過ごせる平和な世界を築いてみせよう!」
〈それはそれである意味信者が増えそうな公約でございますな……〉




