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5話

まずはお互いの名を呼ぶことから始めましょう。

名前は力を持つものです。

この地に縛り付けるためのたった1つのもの。

それはとても強力な縛り。



闇が濃くなっていく。

それが当たり前のように気にしていない彼と戸惑いがある私とでは大違い。

やっぱり、住む世界が違う。

彼が闇なら、私は光だ。

そんな相対的な私たちはどうして巡り会ったのか。

一方は苦しみや悲しみの負の感情が大きく、もう一方は喜びや楽しみという正の感情を大きく持っていた。


私は彼が好きではない。

彼は私を何故かは知らないが好いている。

ほら、そこも正反対。

私なんかじゃなくたって彼みたいな綺麗な人には自ら進んで子どもを産んでくれる人なんてたくさんいるはずなのに、何故私との子どもを望むのか不思議だ。

私は本当は彼の子どもなんて産みたくないのに……。

でも嘆きも、もうおしまい。

私の嫌なこと全てが始まってしまうから。



「フィア。 私の名前はノワール・ファニアスだ。 君の名前は?」


「……。 わ、たしの名前はフィア・アロニス。」


「フィア・アロニス、私と永遠を過ごすと違うか?」


「………………。」


「フィア?」


低い声で牽制されている。

早く言えと、早く誓えと……。

裏にはお前の大切なものがどうなっても良いのかとそんな目が私を射抜く。

嫌だと叫ぶ。

怖いと心が悲鳴をあげる。

やっぱり、私の覚悟は(かすみ)のようなもの。

私には無理だった。

結局私は、助けようとしてくれた彼らのようにはなれなかった。


「ごめんなさい。」


「フィアの答えはそれ? 君の大切な人がどうなるのか分かっているのに、君は彼らを見捨てることを選んだんだね。」


「だって、心が嫌だって音を立ててる。 怖いの。 貴方との子供なんて産みたくない。 私はディーンが好きだから。 彼の子どもを産みたい。 あなたとの子どもではなく、ディーン・ノイロウとの間で……。」


「ふふっ、私なりに優しく接してきたけれど、限界だね。 フィアの口から他の獣の名前なんて聞きたくなかった。 ねぇ? フィア、呼んで? 私の名を……誓え私との永遠を……。」


ノワールの様子が豹変したのと共にフィアの目の色が濁りを帯びていく。


「フィア?」


彼に名前を呼ばれるたびに彼女は発してはいけない言葉を言いそうになり、心の内で留めようとする。

心を強く持って、彼の呼び声に応えないように……。

でも、すぐに限界はきた。


「君は、君の婚約者であるディーンとの子どもを産みたいと言っていたけれど、彼は現在、綺麗な女の人と楽しんでいると思うよ? 私は彼と彼女が目の前で一緒に仲良く歩いて去るのを見たのだから。」


「う、そよ。 うそよ。」


(うん、嘘だよ。 彼へのお仕置きが彼女の元へ行くことだったし、処遇は彼女に任せたからね。 君の薄汚い獣がどうなっているかはわからないけど、私の望む通りになってくれてれば良いのにね。)


フィアの目は濁りを増す。


(後、少し心を揺さぶれば手に入る。)


彼は歓喜に震える心を抑え込んで、早まらないように気をつける。


「嘘なんかじゃないよ。 フィアのお母様とお父様の目は狂っていたんだ。 私や君の家族たち(・・・・・・)が目の前でそれを見たのだから。 なんなら証拠も見せてあげようか?」


「見たい。 ディーンは私のことを愛してる(・・・・)って言ってくれた。私に沢山、手を差し伸べてくれた。 だから、私は彼を信じる(・・・)。」


濁りを帯びている中でも、意識を保って真のある言の葉を紡げるのは凄いと思った。

でも、それもこれを見てしまったらおしまいだけど……。



私はフィアに見せてあげた。

頭の中に直接送った、彼に現在起こっている光景を……。

もちろん、声音付きでね。

それを見てからだんだん、フィアの顔色は青くなっていった。


「やだ。 やめて……、ディーンっっっっ…………。 ドウシテ(・・・・)?」


ボロボロと涙を流す彼女。

そんな姿も美しいと感じた。

私は顔を伏せてニヤリと笑う。

どんどん、染まっていく。

彼女の白が黒くなっていく様を、彼女の魂が私に侵食されていくところを見て嬉しく思う。

彼女が今見ている光景はほとんどの人たちが愛し合って行う男女の行為。

声も全てが届いているために、彼女の精神はもう正常を保っていられないほどだ。

私が、優しく接している間に誓いを立てていれば……。

こんな絶望を味わうことはなかったのに、ね。

真実が覆い隠されている彼女に見えている真実のことに……。

あぁ、やっと全てが染まったね。



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