39話 「言わなきゃならないことがありまして」
「どこに居たんですか?」
いきなり本題、と言うのもなんだかナンセンスに感じたので、まずはこんなことから聞いてみることにした。
一応、気になっていたのは事実だしね。一応。
「屋根の上でひなたぼっこを、ね」
「屋、根!?」
屋根の上!?
……そうか、そう言えば屋根の上は探してなかったっけなぁ。
って言うか、屋根の上って行けるんだ。ハシゴを見た覚えもないし、てっきり行けないものかと。
「店長にしか開けられない倉庫の中にあるのよ、ハシゴはね」
ちゃらん、と鍵の束を見せびらかしながら猿渡さんは言った。
……【うずまき】って、そんなに鍵を使う場所あったっけ?
大体、こんななにもない――果てしない、と言う言葉すら嘘になるような――場所で、盗みを働く輩なんているのか?
「で、見た感想は?」
閑話休題。
この果てある世界を見た感想は、と言われれば。
「非現実的すぎて違和感しかありませんけど、ようやく【うずまき】が生死の堺である証拠を拝めましたよ」
百聞は一見にしかず、とでも言えば良いのだろうか。
今までは、『ただ変な場所にある居酒屋』で説明できたのに、できなくなったと言うか。
アリスの消えたり現れたり、が非現実的と言えば非現実的だけど、隠れていても『消えていた』とは言えるので信憑性はイマイチだった。
いや、疑ってるワケじゃないんだよ!?
「……不思議な感想ね」
「不思議な居酒屋の店長に言われちゃいますか」
朱に交わらば赤くなる、だっけ?
不思議な奴しかいない【うずまき】に居て、僕まで不思議になってしまったとでも言うのだろうか。
元がマトモだったのか、と聞かれると即答ができない気もしてくるけどね。
「あははっ、確かにね」
と、微笑みながら猿渡さんは言った。
「って、あれ?」
でも、その微笑みを断ち切り、猿渡さんは。
「そう言えば、なんで雨宮君はこの階まで来ようと思ったの?」
ついに、踏み込む。
僕がなにをしにきたのか、を知らずに踏み込む。
もう、逃げられない。
逃げたら、意味はない。
どうやら、今の猿渡さんはそれほど僕を警戒してはいない――多分。
なら、今しかない。
だから。
「猿渡さんに、言わなきゃならないことがありまして」
告げる。




