37話 「道が、決まって、いない、から、迷える」
ぴっ、と。
「?」
現さんが僕へと差し出してきた紙片を受け取って、僕はそれを確認してみる。
「名刺?」
そこには、『現 実』と書かれ、その上には『あらわ みのる』と書かれていた。
逆に、それしか書かれていないのが不思議な気もしてくる、名刺らしきなにかがその紙片だった。
「まだ、デビュー、は、して、いない、けど、」
ぽつり。
いつも通りの口調に戻った現さんは、語り始める。
「いつか、奇想天外、な、作品、を、読ませて、やる」
夢を。
「だから、忘れる、なよ」
「勿論ですよ」
……でも。
「僕、本ってあんまり読まないんですよね」
「!?」
「と言うよりも、現さんってどう言うジャンルで書いているんですか?」
ホラー? コメディ? エッセイ? 官能小説?
……四択目なら、まぁ、読んでみても良いかなー、とか考えたりしない訳でもなかったりするんだけれども。
「特に、これ、と、言って、は、ない」
「オールラウンダー!?」
英語のセレクトに自信は無いけれど、それって結構すごいんじゃないの!?
「いや、得意、が、無い、だけ、だ」
「あれー?」
少し前までの僕の感心はどこへ飛んでいってしまったのでしょうねー?
「だが、今、なら、どんな、ジャンル、も、選べる」
「へ?」
選べる?
「得意、が、無い、から。進む、道が、決まって、いない、から、迷える」
「……」
「だから、まだ、始まって、いない。急かされず、焦らず、自分、の、ジャンル、を、選べる」
現さんは言う。
自分はまだ、真っ白いキャンバスだと。
だから、まだどんな色だって乗せられるのだと。
……多分。僕の解釈があっていれば、ではあるけれども。
でも。
「だったら、官能小せ――」
「断る」
――興味深いジャンルをオススメしてみたら即答で断られちゃったよおかしいな!
「……だが、楽しめる、よう、配慮、しよう」
グッ、と親指以外を握る形で、右手のグーサイン。
「お願いしますよ」
僕も、グーサインで返す。




