ファンクラブ
放課後。それは美男綺麗が制服から袴へ着替えを終えて、自らが所属する剣道部の道場に向かおうとしている時のことだった。
「待たれよ! 美男綺麗殿とお見受けする!」
やけに時代がかった口調で野太い声に、美男は静止された。驚いて振り向くと、そこには十一人ほどの男子生徒の姿があった。
彼らの共通点としては、全員が眼鏡をかけていることだろうか。
その中でも際立って威厳のありそうな、ふくよかな男が一歩前に出る。
「拙者は、茨白雪たんファンクラブ会員No.001を務める甲賀と申す。この桜木高校の風紀委員長でもある」
変な一人称のやつだな、と美男は思う。甲賀のような色物が風紀委員長というのは俄に信じ難い話だが、しかしその腕にはしっかりと風紀委員の腕章が巻かれている。
改めて見回すと、十一人の生徒たち全員が風紀委員のようで、甲賀と同じ腕章を付けていた。美男のそんな視線に気付いた集団のうち一人が、腕章を見せつけるようにして声を上げた。
「ジャッジメントですの!」
スッ⋯⋯と、甲賀が声を上げた男子生徒の前に『まぁ待て』と言わんばかりに手をやってから、神妙な面持ちで話を続ける。
「今回、拙者たちから美男殿への用件はたったひとつ。それは──⋯⋯三ノ宮姫乃たんについてだ」
見知らぬ男子から三ノ宮姫乃、という自身の恋人の名前が出て美男は眉を顰めた。しかも、自分の彼女がなんだか気味の悪い呼び方をされている。控えめに言っても気持ち悪い。
「三ノ宮⋯⋯? オレの彼女が、どうかしたか?」
無自覚にも火にガソリンを注ぐような美男のその発言を皮切りに、甲賀の背後で控えていた男子生徒たちが、燃え盛る炎の如く一斉に声を荒らげた。
「姫乃たんと別れろッ! このド畜生が!」
「姫乃たんは、白雪たんのお嫁さんなんだお!」
「神聖な百合の世界に、肉棒が割り込むなーッッッ!」
やいのやいのと、次から次に抗議の声が美男へと向けられる。
眼鏡をクイッと上げて、解説するような口調で甲賀が言った。
「彼らは茨白雪たんファンクラブでありながらも、百合カプを求める者達であり──白雪たん×姫乃たんを至上のカップリングとしている」
何をわけの分からないことを言っているのだこいつらは、と美男はこめかみを押さえて溜息を漏らす。
「拙者のような、白雪たん単推し派としては美男殿に恨みがあるわけではない⋯⋯が! 百合カプ派からの反発は凄まじく、見過ごせるものではなくなっているのだ」
「ふーん、そうなのか」
「単刀直入に言う。姫乃たんと別れるのだ、美男殿。無用なトラブルに巻き込まれたくなければな」
──もう既に巻き込まれてるんだが。
「おまえらに何を言われても、三ノ宮と別れるつもりは一切ない。別れることがあるとすれば、それはオレが彼女に愛想を尽かされた時だろうな」
グギギ⋯! と破れんばかりにハンカチを噛み締める百合カプ派の男子たちを他所に、美男は言葉を続けた。
「言っておくが、オレは三ノ宮と将来的には結婚するつもりだ。三ノ宮のお母さんにも既に挨拶を終えているし、許しも貰っている」
美男の『結婚』と『挨拶』という童貞の集まる集団には些か火力が強すぎるパワーワードに対し、その場の男子生徒が一人、また一人と、ばたばたと倒れていく。どうやらショックのあまり、気絶してしまったようだ。
「おい、しっかりしろ!」
「救急車ー!」
まだ辛うじて生き残っている数名が、その身から魂が抜けかけている者たちを甲斐甲斐しく介抱する。その様子を尻目に見ながら、美男は踵を返して立ち去った。




