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恋する乙女の副作用  作者: 紅葉ういろ


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部活見学祭(2)

 時は少しだけ遡(さかのぼ)る。

 部活見学祭(ぶかつけんがくさい)にて、美男綺麗(びなんきれい)と港未来(みなとみらい)が部室に訪(おとず)れる前のことだ。ガールズトークの一幕(ひとまく)である。

 三ノ宮姫乃(さんのみやひめの)、茨白雪(いばらしらゆき)、逆瀬川水菜(さかせがわみずな)、逆瀬川青菜(さかせがわあおな)の四人は、卓を囲んで麻雀を打ちながら話し込んでいた。


 「それにしても、水菜と青菜ちゃんがうちの部活に来るなんて意外だったなぁ」


 現在、《国士無双(こくしむそう)》十三面待ちの手牌(てはい)の三ノ宮がそう言った。


 「あたしはべつに、どこでもよかったんだけどね。妹がどうしても来たいって言うから」

 「だってぇー。青菜、三ノ宮先輩に会いたかったんだもんっ!」

 「はいはい、そういうことにしておいてあげる」

 「お姉ちゃんのいじわるー⋯⋯」


 逆瀬川姉妹は、どちらも運動部所属だ。

 そして姉である水菜の彼氏の池澤先輩(いけざわせんぱい)も運動部(サッカー部)なので、運動部同士のためにお互いにこっそりと部活見学をすることも叶わず、今回の部活見学祭は彼女には楽しむ余地がなかった。


 「茨先輩も彼氏とか来るんです?」


 三ノ宮とだけ一言二言(ひとことふたこと)は会話するものの、逆瀬川姉妹との会話に加わる様子が全くない茨に対して、青菜は返答が分かりきっているような意地の悪い質問を投げかけた。


 「わたしは彼氏、いませんから」


 茨はにこりと微笑むが、その目は明らかに笑っていない。いらない、と顔に書いてあるような強い拒絶だった。


 「じゃあ、あの噂(うわさ)は本当なんだ。《攻略不能の白雪姫》でしたっけ?」

 「青菜、そういう詮索(せんさく)はやめなさい。茨さんに失礼でしょうが」

 「⋯⋯はぁーい」


 姉である水菜が妹の青菜を窘(たしな)めると、しぶしぶ彼女は茨に対するちょっかいをかけるのをやめた。


 「青菜も二つ名みたいなの欲しいなぁー。なんかよさげなのないですう?」


 青菜のその言葉に、三ノ宮がふと思いついたように口を開いた。


 「《鉄壁(てっぺき)にして絶壁(ぜっぺき)にして岩壁(がんぺき)の俎板娘(まないたむすめ)》⋯⋯とか?」

 「やだなー、三ノ宮先輩ったら。喧嘩売ってやがります?」

 「まさか! 青菜ちゃんにぴったりの可愛いネーミングを考えただけだよっ」


 これには先ほどまで作り物のような笑顔を浮かべていた茨も、くすくすと本当におかしそうに笑っていた。

 反撃とばかりに、青菜が「リーチ!」と勢いよく点棒(てんぼう)を投げた。


 「ところで三ノ宮先輩は、彼氏さんとはどこまでヤッてるんですかぁ?」

 「そこはもうちょっと、マイルドに言ってくれると嬉しいかな⋯⋯」

 「彼氏さんとはどんなプレイしてるんです?」

 「悪化した!?」


 青菜と三ノ宮のやり取りに興味をそそられた様子で、水菜が口を挟んだ。


「あたしもぶっちゃけ気になるわ。実際のところ、どこまで進んでるわけ?」

「んー、わたしにこの一局で勝てたら教えてもいいよ?」

「言ったな、女に二言はなしよ? あたしもリーチで!」


 役なしの状態でテンパイはしていたものの、ダマっていた水菜もそれならと勝負に出た⋯⋯が!


 「死んじゃうツモ!」


 見せつける⋯⋯圧倒的なまでの強運っ⋯⋯!

 ここに来て一筒(イーピン)のツモが炸裂(さくれつ)。

 三ノ宮は、《国士無双》48000点の上がりを決めてこの一局は終了した。



 時は戻り、現在。美男と港は麻雀のルールを全く知らないため、体験等はせずに見学のみに徹(てっ)することとなった。

 何をしているかと言うと、ふたり揃って三ノ宮の背後霊をしていた。

 この光景には、『人間はみんな、似たり寄ったりなところがあるものよ』というある老婦人の有名な台詞(せりふ)を連想させる。


 「三ノ宮先輩の本命の彼氏さんが美男先輩とするとー、その隣の方が二番さんなんですう?」


 この逆瀬川青菜(さかせがわあおな)の発言は些(いささ)か本質を突きかけているものだったために、三ノ宮は牌(はい)を握る手にじわりと汗が滲(にじ)む。


 「そそそそんなわけないよ青菜ちゃん⋯⋯」

 「あやしーい。どうなんですかぁ、二番さん?」

 「えっ、ぼく!? ぼくは⋯⋯」


 港は仮に、三ノ宮に告白したとして──『彼氏がいるけどいい?』と言われた場合の自分を想像する。

『もちろんさ!』とその場では嬉々(きき)として答え、二番目とはいえ三ノ宮の彼氏になれることを喜ぶだろう。

 しかし、その喜びも束(つか)の間のもの。自分は所詮(しょせん)たんぽぽ、けして本命(バラ)にはなれない浮気相手程度の存在なんだ──と泣きながら家に帰る光景が頭に浮かんだ。


 「よ、よくないかもだ⋯⋯」


 深刻そうな表情で、港が口元に手を当てる。

 そんな青ざめた彼の様子を見て三ノ宮は、自分の彼氏と思われるのがそんなにも嫌なことなのか──と陰ながらたいへんなショックを受けていた。


 ──殺してやる⋯⋯殺してやるぞ逆瀬川青菜⋯⋯!


 三ノ宮は《大三元(だいさんげん)》テンパイの状態から他家(たけ)(姉の水菜(みずな))のロン牌をスルーし、青菜を狙い撃ちする作戦へと舵(かじ)を切った。


 「本命彼氏の美男先輩はどうなんですう? 三ノ宮先輩がもし、二番目の彼氏を連れてきちゃったりなんかしたら」


 美男は、三ノ宮から『美男くん、わたし彼氏がもう一人できたのっ』とある日突然に宣告される姿を想像をする。

 彼は少しのあいだ考え込んでから、口を開いた。


 「複雑だが⋯⋯惚れた弱みで嫌だとは言えないだろうな。オレは三ノ宮の彼氏でいられるなら、本命でなくてもいい。二番目でも、三番目でも構わない」


 ──こいつうぅ⋯⋯!!


 美男の文句のつけようもない完璧な受け答えに、港はぎりぎりと音がしそうなくらい歯を食いしばった。

 隙あらば器(うつわ)の広い彼氏アピールもいい加減にしろよ、と。


 「ふぅーん⋯⋯」


 青菜はこれを聞いて、つまらなさそうに目を細めながら打牌(だはい)した。望んでいたような反応が得られなかったという面持(おもも)ちだ。


 「それロンッ!」

 「ほえ!?」


 三ノ宮が、青菜の捨てた伍萬(ウーワン)にロンを宣言。

 捨て牌から伍萬(ウーワン)を安全牌(あんぜんはい)と予測していた彼女は、まんまと放銃(ほうじゅう)してしまった。

 《大三元》48000点の直撃で青菜が飛び、このゲームは終了した。

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