部活見学祭(1)
部活見学祭の日だった。毎年開催されるこのイベントはなんと、授業が一日丸ごと休みになる。
午前は文化部、午後は運動部と各部活の普段の様子を生徒間同士で見学および、体験し合うという行事だ。
部活動にやたらと力を入れている桜木高校では、部活への入部が強制となっているため、この部活見学祭には全校生徒が揃って参加する。
自分の所属する部活が運動部なら文化部の見学へ、文化部なら運動部の見学へと、交代交代での参加となるので、自分が所属している側(運動部or文化部)の部活には見学へ行けない。
見学できる部活は最低一つ、最大で三つまでとなっており、時間めいいっぱいに一つの部活を堪能するもよし、分散して色々と見て回るのもよし、ということになっている。
事前にスタンプラリーで使われるような台紙が配られ、生徒たちはこれを持って各部活への見学に行き、見学および体験をした部活からスタンプを押してもらうまでが一連の流れだ。
時刻は午前。文化部側の生徒はいち早く登校して部活動を開始しているため、現在の教室は約半数ほどの生徒が不在だった。
「やぁ美男くん、奇遇にもぼくときみは同じ運動部側だね。よかったら一緒に回らないかい?」
港未来は移動開始のチャイムが鳴ると共に、素早く美男綺麗に声をかけた。
「べつに構わないが⋯⋯オレは一箇所しか行く予定がないぞ。他のやつと回った方がいいんじゃないか?」
そんなことは知っとるわ、と港は内心で唾を吐きながらも笑みを深めた。
「それはむしろ、ぼくにはありがたい話だよ。ちょうど行きたい所がなくて困ってたんだっ」
「そうなのか。オレは今から三ノ宮が所属している部活に行こうと思っていたところだ。部員が女子しかいないと聞いているから、港に同行してもらえるなら助かる」
「へぇ! 三ノ宮さんの部活かぁー⋯⋯」
港はわざとらしく驚いた反応をするが、全ては計画通りだった。
一番の理由は美男と三ノ宮が、より親密になる機会を阻害したいという考えだが──港もまた、三ノ宮の部活へ見学をしに行く口実が欲しかった。
こうしてふたりは共に、三ノ宮姫乃の所属する部活へと足を運ぶことになった。
「ツモ! メンタンピンドラドラ!」
美男と港が部室の前まで来ると、呪文でも唱えているのかというような三ノ宮の声が聞こえてきた。
「ぐっ⋯⋯!」
「ここで親の跳満はギルティですう」
「姫ちゃん、今日も引き強いねー」
続けて三人の声がした。全員もれなく女子の声だ。
部室内は騒がしく、さまざまな呪文のような響きが聞こえてくるが──男の気配は一切として無い。
「カン! リンシャンツモ!」
「ツモ! ハイテイラオユエ!」
「ロンッ! ロンロンッ! ロォーンッ!」
「⋯⋯これ、本当に入っていいやつ?」
女子だけの集団に、男が乗り込むのは勇気がいるものだ。港が怖気付くように言った。
「あぁ。オレは三ノ宮と約束してるからな」
しかし美男はなんの躊躇いもなく部室のドアを開け、まるで男子禁制の女子会のような空間に足を踏み入れた。
部室内は、ピンクと白で構成されたフェミニンな内装だった。男子が立ち入ってはいけないオーラをよりいっそう漂わせている。
「ようこそー」
麻雀牌をジャラジャラジャラ⋯⋯と音を立てて全自動卓の中に戻しながら、三ノ宮が言った。
三ノ宮は美男に、『見学に行ってもいいか』と事前に聞かれていたため、彼の来訪に驚きはない。
現在、この麻雀卓を囲んでいる面子は三ノ宮姫乃、茨白雪、逆瀬川水菜、逆瀬川青菜の四名だった。
四名のうち、麻雀部に所属しているのが三ノ宮と茨で、見学者として参加しているのが運動部側の人間である逆瀬川姉妹だ。
逆瀬川姉妹は日ごろ両親の趣味で家族麻雀に付き合わされているためか、手馴れた様子だった。
「こんにちはー⋯⋯」
その美男の後ろから、消え入りそうな声で呟きながら港が部室へと入る。これには三ノ宮も驚いて思考が一瞬停止し、牌を触る手もぴたりと止まった。
──なんで港くんがここに!?
予想だにしなかった来客に、三ノ宮は気が動転していた。
港の方はそんなことも露知らず、美男の後ろに隠れるようにしながら室内をキョロキョロと見渡している。
「三ノ宮先輩の彼氏さんが来るって聞いてましたけどぉー⋯⋯先輩って、彼氏がふたりいたんです? どっちが本命なの?」
青菜が揶揄うようにして聞いた。
「どどどとどど⋯⋯!?」
『どっちが本命って、港くんはそういうのじゃないよ!』──と、言い出そうとしながらも動揺して言葉の続かない三ノ宮に、水菜が助け舟を出した。
「そんなに珍しい話でもないんじゃない? 彼氏が複数いるっていう子もたまにいるわよ?」
それは、泥舟という名の助け舟だった。
しかし一軍系女子であらせられるところの水菜には悪気はなく、これはただの世間話のような感覚で口にしていた。
「友よ、そんな荒業はどのようにして成立させるのかね?」
まるで浮気願望があるかのように思われてしまいそうな、危険な話題だが──詳細が気になってしまった三ノ宮が、まるで名探偵のような口調で問う。
「告白された時なんかに、彼氏がいるけどいい? って聞くのよ。好きだったら嫌って言えないでしょ」




