↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力ゼロの辺境伯令嬢、アーティファクトで覚醒する~ユニークスキル「超能力」を使っていたら、いつの間にか救国の聖女と呼ばれていました   作者: 楠 冬野
第1部 聖女誕生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/34

第6話 聖域

 初めて入った聖域。

 岩肌むき出しの洞窟だが、足元は石畳で整備されていて歩きづらさはない。

 横幅は甲冑を付けた大男が並んでも余裕があるくらい。高さも窮屈な程ではなかった。

 点々と灯された魔道具の明かりを頼りに先へと進む。

 アイラは興味津々で辺りを見回す。探検気分で浮かれていた。


「しかし、アイラ様、よろしかったのですか?」

 ダリアは、まだ釈然としていないようだ。


「なりゆきよ、なりゆき。それに、ダンジョンっていっても、行って戻って二日ほどよ、大したことはないわ」


 アイラは、鼻歌を歌いながら軽い足取りで前を目指した。

 この薄暗い洞窟を半日進めば開けた空間に出る。

 そこには木々が生い茂り、空があるという。


 ――日光を浴びずにどうやって木々は育っているのだろうか、

 ふと考えるが、その意味は分からなかった。

 女神ソルディーアは太陽の女神。

 なのできっと、聖域の中にある光には女神の恩寵があるのだろう。


「い、いや、そうは言われましても」

 危険な状態になっているであろうダンジョンに、単身で挑まされたダリアは、アイラの同伴という想定外のことに狼狽しているようだ。


「いいのよ。ダリアも、あの者たちの顔を見たでしょ。こうなれば、ちゃんと勇者様になっていただかないとね」

 ――見ていなさい、ローガン。あんたの思い通りにはさせないんだからね!


「アイラ様、これは遊びではありません。嫌な感じがする。違和感というか」


「そうね、おかしなことが起きているって、私も思うわ。確証はないけどね」


 女神様の祠に一同が到着したときには、魔獣の死骸も、盗賊の亡骸も全部消えていた。

 戦いの痕跡は残っていた。だけど、あれでは皆を納得させられない。

 結局このダンジョン踏破は必須になった。


「ねぇダリア、私の誘拐を依頼した人物について、誰か思い当たらない?」


「申し訳ありません。私は用心棒として雇われただけで」

 女神様の祠の前で待機していたダリアは、攫われたアイラをみて初めて誘拐を知ったと話した。


「ダリア、先に進みましょう。そうすれば見えてくることがあるかもしれない。あの司祭が何を考えているのかも含めてね」


「司祭、ああ、あいつですか」


「ダリア、あなた、神殿をあまりよく思っていないみたいね」


 ローガンがあの場に姿を見せたとき、彼女はまるで敵を見るような厳しい目つきで睨みつけていた。


「それは、その、特に神殿に不服があるというわけではないのですが」

 最後まで言いかけて押し黙る。彼女の顔に影が差したように感じた。


「私のことはよいのです。それよりも、アイラ様まで中に入らなくても」


 神殿の司祭ローガンにより祭壇への封が解かれ道が開かれた。

 半分罪人のダリアは、背中を突き飛ばされるようにダンジョンへ放り込まれた。

 再び封印が閉じられようとしたとき、アイラはタイミングを計ってダンジョンに飛び込んだのだ。


「良いタイミングだったでしょ? 大縄跳びの要領よ」


 アイラはヘヘんと胸を張る。


「オオナワ、トビ? アイラ様、オオナワトビとは?」


「ん? ……あれ?  なんだっけ?」


「アイラ様……」


「それにしても、あのときの、お父様の絶望的な顔ったらなかったわ」


「シトラス辺境伯の御心配はもっともです。魔獣が聖域に出没した確証は示せませんでしたが、あのお方はアイラ様の言葉を信じておられる。ならば、聖域を踏破するのは命がけになると承知しているでしょう」


「まぁ、そうかもね。親に心配をかけるのは親不孝だわ」


「アイラ様、幸いにして洞窟内には魔物は出ないと聞きました。二日後には再び封印は解かれます。こちらでお待ちになられては」


「あら、こんな暗闇に、子供を置いていくの?  しかも魔力を持たない子供を」


 魔力を持たねば魔道具が扱えない。

 火を起こすことも、水を補充することもできない。

 つまりアイラは生活全般にわたって何事にもハンデを抱えているということだ。

 当然、洞窟内でランプを灯すのも不可能だった。


「それでも、アイラ様には不思議な力がある」


「そうね、バレちゃったわね。家族も知らないのに」


 アイラはくすくすと笑った。


「もしかして、秘密だったのですか?」


「秘密というほどのことでもないわ。力といっても、触れた相手の気持ちを察したり、触れずにペンを転がしたり、ちょっとした予感が当たる程度だもの」


「しかし、あのときの力は凄まじかった。あなたは私に助けられたと言いましたが、私こそ、あなたに救って頂いた」


「必死だったからかな? いわゆる、火事場のくそ力的な?」


「カ、カジバノ……なんですそれ?」


「……ええっと、あれ?  なんだっけ?」


 顎に指をあてて首を傾げる。

 おかしなことは口にしていないはずだがと思いながら、心には違和感を覚えていた。


「アイラ様のその力は、魔力ではないのですか?」


「そうね、五歳のときの魔力判定の儀では、魔水晶は色を示さなかった。それどころか少しの光も見せない。あとで高位の司祭様に見て頂いたけど、属性も示さない、かといって無属性でもない。根本的に魔力がないとか言われちゃった」


「……そう、ですか」


「ダリアは凄いね。剣士なのに、魔導士のような強い炎を出せるのだもの」


 言ってアイラは、ダリアの手を見た。

 魔力を抑える指輪を持たされなくて幸いだったと思う。

 もっとも、あれは強制される道具ではない。

 町の中では誰でも嵌めている装備品でしかないので、外してしまえばそれまでだ。

 アイラには無関係の装備品だが、それはエチケットのようなもの。いや厳密にいえば装着は法で定められている。だってそれはそうだろう、街中で制限を掛けなければどうなる。

 考えるまでもない。

 炎、雷、竜巻、そんなものがお気楽に乱射されれば治安は一気に崩壊してしまう。


 ――どこぞの国の、乱射事件どころでは済まないわ、大惨事よ……はて? 乱射事件って? ん? ま、いいか。


「それは、家系というか……」

 ダリアが苦笑する。


「確かに、貴族ならば市井の人々にはない強力な魔術を使える。それぞれの家には、系譜がある。でも、だからといってその力のレベルは才能や鍛錬で差ができると聞いているわ」


 この世界、誰でもが強力な魔術を使えるわけではない。

 一般的には、せいぜい魔道具を使える程度である。

 市井では、百人に一人くらい力の強い者が生まれ、千人に一人くらいは魔導士の素養をもって生まれることがあるので、そういう子供を授かった家は未来が開けると言って過言ではない。なので、どこの子供も五歳になったら、女神様の恩寵を計る「魔力判定の儀」を受けるのだ。


「私は、たまたま――」


 恵まれて、と言いかけたのだろう、ダリアは口を噤んだ。

 彼女は魔力を持たないアイラのことを憚ったのだ。 


「ダリア、不憫だなんて思わないで。私には何も不満はないのよ、それどころか、健康で、食べて、寝て、勉強したり、走ったり、こんなにも私の世界は鮮やか。私は幸せなの」


「食べて寝てって、それにあなたの言動は九つの子供とは思えない。ときどき、私には、あなたが大人に見えてしまいます」


「あら、私には、あなたがもっと大人のように見えていたわ、まさか十七歳の子供だなんて」


 言ってアイラはダリアの顔を覗き込んだ。

 そんなに老けて見えますか、とダリアは困惑する。

 目を合わせた二人は互いの顔を見て、視線を合わせ、それから同時に笑った。


 ――もう、どれくらい進んだかしら? そろそろ開けた所に出ても良いはずなのに。


 おしゃべりが尽きかけた頃、アイラはようやく異変に気が付いた。


「おかしいわね、真っすぐ一本道だと聞いていたのに」


「そうですね」


 二人が行き着いたのは二手に分かれた分岐路の前だった。


「もう随分と歩きました。これは異常事態です。アイラ様一度戻りましょう」


 二人は揃って振り向いた。

 ――しかし。

 え、え、えええ!

 来た道が、陽炎のように揺らめく景色の中に消えていった。

 そこに見えているのは、ただの岩の壁だった。


 ――なに、これ、どういうこと?


「アイラ様、これは……」


 ダリアはきつく眉根を寄せた。

 アイラも無言で見つめる。 

 ――不意のイベント発生。イレギュラーだ。ダンジョンが変異した。


「どうやら、閉じ込められたようね。これではもう選んで先に進むしかないわね」


 ――この私をビビらせるなんて、なかなかやるじゃない。

 っていうか、これってちょっとマズくないか。


「こ、怖くなんかないんだからね」

 強気と弱気がせめぎ合う。手に汗をかいていた。

 

「行く先に、祭壇があればよいのですが、それに時間もどれくらいかかるか」

 ダリアが先を不安視しながら難しい顔した。――そうよね、こんな状況になれば、誰しも心細くなるわね。でも、負けたら終わりだ。こんなときこそ前を向かなくっちゃ。


「ダリア、食料は二日分よね?」


「はい、ですが一人分で……」


「大丈夫、私も、保存食を二日分持ってきた。水はあなたの魔道具でなんとかなる。状況にもよるけど、節約すれば倍はいけるわ、負けないんだからね」


「ア、アイラ様……あなた、ほんとうに九歳なの?  あ、ああ、失礼しました」


「いいの、気にしないで、なんなら呼び捨てで構わないわ、私達はもう友達だもの」


「い、いえ、そんなわけには」


 狼狽するダリアの横で、ジッと目の前の障害を見つめる。

 アイラの気分は高揚していた。


「飲み水、そして敵との戦い、あなたの魔力が枯渇しないことを祈るわ」


「アイラ様、なんでそんなに目を輝かせて」


「そ、そうね、ワクワクしているわ」

 少し体が震えていた。アイラは、この程度のイレギュラーがなによ、と拳を握る。


「ワクワク? 何故に?」


「ダンジョン攻略はファンタジーの王道よ。これを楽しまずしてなんとする、よ」


 アイラはダリアに向かってウィンクを投げた。

 呆れてダリアが肩を落とした。


「さぁ、いくわよ!  サバイバルよ!」


 ……ちょっとだけ、怖い。でもそれ以上に面白い。

 アイラは大股で分岐路に向かった。

 後ろでダリアが呟く、また訳のわからない言葉を、と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。