第13話 突破
私は、いい。どうせ一度死んだ身だ。
でも彼女は、ダリアはようやく日の当たるところに出ようとしているのに……
サイコキネシス、サイコキネシス、動け、弾き飛ばせ、奴を。
――アイラは必死に念じた。
しかし、力は発揮できなかった。
「なんでよ、なんで、こんなときに、一番大事なところで、なんのための力よ」
悔しさのあまりに噛んだ唇が切れる。
徐々に意識が薄らいでいく。
この感覚は……あの病室での、最後のときに近いだろうか、悔しいな、今度は人の役に立つように頑張るってママと約束したのに。
諦めかけて目を閉じたときだった。
頭の中に声が響く。
『生命の危機を感知しました。リミッターを外しますか?』
「リミッター? どういうこと?」
『リミッターを外すと、後に、生命活動が保持できなくなる可能性があります』
「それは、どういうことなの? 意味が分からない」
『一般的に、一回の戦闘で消費するライフフォースは、人間が人生において消費するエネルギーの30%に相当します』
「つまり? 戦いに使えるエネルギーって人生の30年分ってこと?」
『はい、端的に言えば』
「た、端的って……」
『リミッターを解除すれば、エネルギーを無制限に使えるようになります。つまり』
「つまり?」
『一時的に、限界を超えて能力を向上させることができます。ただし』
「ただし?」
『9歳の子供の肉体が耐えられるかどうかは未知です』
ライフフォース、無限大、その意味がよもやこのようなチートであるとは。
「お願い、リミッターを解除して。友だちが死にそうなの。私、助けなきゃ」
『賭けですよ』
「……なんだ、こいつ」
『ほんとうに、ほんとうによろしいので? もしかしたら死んじゃいますよ』
「うるさいわね! もういいから、さっさとやってしまいなさい!」
『了解しました。これよりアイラ・シトラスのリミッターを解除します。ただし』
「もう、なんなのよ!」
『念のため、制限時間を5分とします』
「はぁ?」
『では、解除します。ご武運を』
アイラは目を覚ました。
立ち上がり両手の拳を握りしめる。
体に痛みは残るが、内側から溢れてくる力を感じていた。
「これならいけるわ、5分もあれば十分よ!」
アイラはミノタウロスを睨みつけた。
「おい、牛野郎、よくもやってくれたな」
啖呵を切ると、牛が振り向く。
ミノタウロスは何ごとかと目を細めた。
アイラは足元に転がっていた石を握りしめた。
ミノタウロスが、そんなものがどうしたといった感じでくつくつと笑う。
「バカにしているけど、いいの? あんた、間違っているよ、要は速さなのよ。威力は速さで変わる」
アイラは腕を振った。
瞬間、ミノタウロスの腕が吹き飛ぶ。
風切り音が遅れて耳に届いた。
何が起こったのか、驚いたミノタウロスがダリアを放す。
すかさずアイラはサイコキネシスでダリアの体を引き寄せた。
「ア、アイラ……」
「しゃべってはダメ、今は休みなさい。あれは私が片付ける」
ダリアの傷に手を当てる。
肩は外れているようだが折れてはいないようだ。
ダリアを壁際に寝かせてその場を離れる。
アイラはミノタウロスの方へ歩み寄った。
フンと鼻を鳴らして敵を睨みつけたとき、後ろで「うう」と呻き声がする。
見ると肩を押さえたダリアが立ち上がりこちらを見ていた。
ダリアの口角が上がる。
彼女は戦う意思を見せた。
「ダリア、やせ我慢はよしなさい」
「あなたこそ、鼻血が出てるわよ」
「こ、興奮してるだけよ。黙って見ていて――」
「肩は入ったわ、まだやれる。9歳の子供に負けてなんていられないわ」
「でも、そんな折れた剣でなにができるのかしら?」
「まだ魔力は残っている。一発くらいは打てる。当てて見せるさ」
「ダリア、剣ならあるわよ」
アイラは、革の鞄から木の大剣を取り出した。
「でも、こんな木の――」
「あら、忘れたかしら? これはただの木剣ではない。アーティファクトよ」
言ってアイラが微笑むと、ダリアは目を見開いた。
「さあ、行くわよ、決着をつけるわ」
石を持つアイラ、木剣を構えるダリアが再び敵と対峙する。
苦々しく顔をしかめるミノタウロスが天に向かって吠えた。
グレートアックスを構えたミノタウロスが突進してくる。
振りかざした斧がアイラの頭上に振り下ろされた。
闘技場内に鈍い金属音が響く。上方に手をかざし、アイラは軽々と巨大な斧を止めた。
「今度はこちらの番ね」
言うとアイラは、ミノタウロスに向かって両手を突き出した。
――痛い、全身が引きちぎられそうだわ。
たちまち巨漢が宙に浮く。ばたつく牛。
アイラはそのまま敵の巨体を壁に打ち付けた。
衝撃音と叫ぶような呻き声。ダメージは大きそうだ。
その後、アイラは敵を蹂躙した。
雷を放とうとする腕をへし折ると、巨体を上空に持ち上げ地面に叩きつける。
「これで終わりよ」
よろめきながら片膝をつくミノタウロス。悔しそうに歪む顔に怒る目。
敵の闘志はいまだ潰えていなかった。だけど、
「終わりと言ったでしょう」
――い、息が続かなくなってきた。リミットは、でも!
アイラは立ち上がろうとするミノタウロスの巨体を封じた。
足掻く敵、歯ぎしりの音、骨のきしむ音、渾身の力を込めて抜け出そうとするが、それでも敵は動けない。
「ダリア、美味しいところをあげるわ。決めてみせなさい」
促すと、ダリアが飛び込んだ。
くるりと体を回転させることで勢いを増した大剣が薙ぎ払う。
ミノタウロスの首が飛んだ。
「終わった……」
渾身の疲労を感じながら、両膝を地面に落とす。
力を使い果たしたアイラは、その場で体を横たえた。
――ちゃんと目が覚めればいいけどね。
意識を失う中で、アイラは自分が微笑んでいることが嬉しく思えていた。




