第14話 ドロップアイテム
薄暗い空間、石造りの天井……星空に、満月、ここは……どこ?
目を覚ますと、すぐそこに篝火に照らされる女の人の顔があった。
温かい……それに柔らかい。
マントにくるまれ、女性の膝の上に抱かれる体……お母様。
「アイラ、良かった。目が覚めた」
「ダリア? ここは……」
「神殿だ、敵はいない。それよりも具合はどうだ?」
「……具合?」
ハッとして、アイラは飛び起きた。
「あいつは!? ダリア、あの後、どうなったの!」
「落ち着け、大丈夫だ」
微笑んで、ダリアがその後のことを話し始める。
最後の一撃で倒れたミノタウロスが黒い霧となって霧散したこと。気絶したアイラを抱えて扉を出たこと、その後、アイラは三日間眠り続けていたという。
体は回復していた。セーフエリアに戻れたことが幸いした。それと、ダリアの機転にも助けられた。彼女は、温泉(回復の泉)で治癒を施し、湯と木のスプーンでアイラの体力を回復させた。
「アイラ、すまない。その、勝手に鞄を開けてしまって」
「いいのよ、これは二人で勝ち取った戦利品、これは私たちのアイテムよ」
「そう言ってくれると、救われるよ」
「そんな大げさな。それよりも、ありがとうダリア、あなたが居なかったら、あのまま死んでいたわ」
「礼はいい。私の方こそ……」
ダリアが涙ぐむ。彼女は嗚咽をこらえながら、何度も「良かった」と話した。
たまらずアイラはダリアの胸に飛び込んだ。強くダリアを抱きしめると、彼女の手が優しくアイラの頭を撫でる。
「アイラ、もう一つ報告がある」
「報告?」
「私たちの目的の物、女神のレリーフとはこれのことだろうか?」
ダリアが小さな石板のようなものを差し出した。
アイラは、その美しい骨董品を目視で慎重に観察した。
大人の手のひらサイズの四角い物体。
厚みは無い、長方形のそれは木枠に嵌め込まれていた。
艶のある青い石の板に、見事な彫刻で施された美しい女性の肖像。
おそらく女神で間違いないだろう。
けれど、これは太陽の女神ソルディーアなのだろうか?
「ダリア、その石板なんだけど、誰に見える?」
「誰って、私達はソルディーア様の祠に入った。レリーフを持ち帰れといわれて」
「そうね、でも違和感があるの。私、祠のダンジョンを抜ければ明るい空があって、木々が生い茂るって聞いていたの。でもここは違う」
「そうだな、ここは夜だ」
ダリアが顔を上げ夜空を見る。
「浮かぶ月、ここはもしかしたら、月の女神、ルナティース様の神殿じゃないかしら?」
アイラは、ダリアの顔を覗き込んだ。
この世界ではダリアの方が年上である。彼女の家がいつ破綻したのかは聞いていないが、それでも彼女のこれまでの言動から想像はできる。受けた教育も高等であり、当然、持っている知識はアイラよりも多いだろう。
「姉妹の、女神達のお伽噺は私も知っている。姉妹の女神、邪神、魔族との戦いの話」
「邪神に、魔族か……」
「お伽噺だな。そもそも、魔族なんてものが本当に存在しているのかどうか」
「たしか、大陸を分け隔てるベレキュス山脈の向こう側には、魔族が支配する国があるって……でも、辺境の地であるシトラスでも魔族なんて見たことがないし」
「アイラ、お伽噺はいったん忘れよう。このレリーフのことだが……これはソルディーア様か、ルナティース様かどちらかだとは思う。しかし彼女らは双子だと言われている。ならば顔に違いはないだろう、なので残念だが、私には区別がつかない」
ダリアは困り顔でレリーフを眺めた。
「確証は得られないか……ダリア、これは? いったいどこで?」
「ブルホーン、いや、ミノタウロスだったか、あの魔物が消えた後に落ちていたんだ」
「これは、ドロップアイテムだったのか。魔物からドロップする女神の……うーん」
「ドロップ?」
「あ、いえ、なんでもないわ」
アイラは口に手を当て眉根を寄せる。俯き、頭の中でこれまでのことと現状を整理した。
セーフエリア、フロアボス、ドロップアイテム……今はまたセーフエリアに戻っている。これをどう見るか。
「ダリア、あの扉の向こうへは行ってみた?」
「いや、万が一の危険を考えて、向こう側には行っていない」
「そう、賢明だったわ」
ここ、セーフエリアに戻ってこられたことを考慮すれば、おのずと思い当たる。
再び扉を開くと、魔物がポップしてきて再戦させられる可能性がある。
おそらくここは、出入り自由のレベリングのポイントと考えて差し支えないだろう。
ただし、この女神のレリーフはレアアイテムであろう、これは一回きりだと考えられる。
「ダリア、女神のレリーフを見せてもらっていいかしら?」
万が一にも落とさないよう両手を差し出す。
「ああ、もちろんだ」
ダリアが、アイラの手のひらの上にレリーフを落とした瞬間だった。
アイラの頭の中に言葉が響く。
『空間把握レベル10を獲得しました』
アイラは、突然のことに驚いて、危うくレリーフを落としそうになった。
「ダリア、あなた、これを持っていて、体に異常はなかった?」
「いえ、これといって何も」
……どうやら、この出来事は自分のスキルESPに関係するようだ。
しかし……レベルが10というのはどういうことか?
もしかしたらあのミノタウロス戦でレベルが上がったのだろうか?
それともこれはアイテムの恩恵だろうか?
「どうかしたのか? アイラ」
「い、いえ、なんでも。それよりも出口だけど……」
「アイラが眠っている間に、この場所を隅々まで調べたが、残念ながら見つからなかった」
ダリアが肩を落とす。
「これは、再戦必須ということか……でも、そうね」
思い付き、ポン、と手を叩く。
これは、新しく獲得した能力を試すチャンス、やってみるか。
「何か? 考えがあるのか?」
「そうね、ちょっと試したいことがあるの」
言ってアイラはしゃがみ込み、床の上に手をついた。そうして念じる。
『空間把握!』
とたんに、頭の中に景色が浮かぶ。
アイラは目を閉じ、さらに深く意識を沈めた。
――岩肌に囲まれた楕円状の広い空間、その中央にある神殿。遠くの崖の上から落ちてくる水、流れる川。
「サーチ!」
アイラは次の言葉を紡ぐ。
思い浮かべる景色の中に幾つもの光の線が走った。
縦横に走る線、形を捉え物体の姿を形づくる線、それはさながらCG画像のワイヤーフレームのようだった。
……どこかに、出口はないだろうか。どこかに、まだ見つけられていない秘密はないだろうか。
「探せ、見つけろ、どこかに……あ、これは!」
アイラは、すぐ近くに新たな発見をする。
それは神殿の中、右手の……石柱の奥に光が、それから左の柱の後ろにも。
ここまでお読みいただき、ブクマもいただき、ありがとうございました。 読者様に届いて良かったです。ホッとしています。
明日から投稿時間を変更します。
【毎日1話ずつ投稿、18時10分】
これからもよろしくお願いいたします。




