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神隠し(7)

 わずか数分後、全身が眩い光に包まれたかと思うと、エレベーターに乗っている時のような浮遊感に包まれた。


「え?」


 目を開けると、イクサがリュウサキの上に座って、その首根っこを押さえつけていた。数分で勝ったのか?強すぎん?


「拍子抜けだよねえ、全くさ。」


 イクサはリュウサキの首を締め上げた。リュウサキは苦しそうに顔を歪める。


「さっさと尻尾を出しなよ。」

「勘弁してください旦那ァ。」


 リュウサキの身体が縮み、茶色くなった。これは…。


「タヌキ?」

「へえ。か弱いタヌキでやす。お見逃しくだせえ。」


 タヌキは上目遣いで精一杯可愛さのアピールをしているが、ヒサメの殺気と侮蔑しか籠っていない眼差しに気圧されて尻尾を巻いた。


「命乞いの前にお話ししよか。」

「…ひえぇ。」


 タヌキが話したことによると、彼は山に住む化け狸だったそうだ。突然現れたリュウサキに奴隷のように扱われ、手鏡の管理を任せられたのだという。余所者が現れたら、何もせずリュウサキにすぐ報告するように言われていたのに、勝手に俺らを手鏡に閉じ込めたらしい。まあ、たった三人しかいない上に、一人は女、一人は子どもだ。舐めるのも仕方ない。


「リュウサキ様のお姿に化ければ、怖がって逃げると思ったんですぅ。」


 タヌキはめそめそと泣き出した。同情の余地はない。


「リュウサキの右腕な、あれを斬り落としたのは私なんだ。」

「ひえぇ!」


 ヒサメに刀を見せられたタヌキはぶるぶると震えている。本人は必死なのだろうが、かわいい。


「貴方はリュウサキを呼び出せるのですか?」

「うぅ…。リュウサキ様の使いの陰摩羅鬼(オンモラキ)に伝言を頼めばよいそうですぅ。」


 オンモラキは、新しい死体の気から生じた、鶴のような姿の妖怪だ。俺たちはタヌキを脅して、オンモラキに接触させる。気取られないように、俺たちは遠くで待機している。


「おい、オンモラキ。」

「おう、毛玉か。どうした?」

「都から神隠しの調査に来た人間が三人いる。赤い髪と目の若い男、黒髪に黒目の少年、白髪に赤い目の少女だ。リュウサキ様に伝えろ。」


 さっきまでの惨めな姿はどこへやら、タヌキはオンモラキを相手に強気な態度だ。


「手鏡を渡せ。」

「な、どうしてだ?」


 俺たちは既にタヌキから手鏡を取り上げている。渡しようがないタヌキは焦っている。オンモラキはニヤリと笑って続ける。


「もうお前は用済みだ。あれはリュウサキ様に献上する。」

「向こうの神社の祠の中に隠した。後で取りに行けよ。」

「ふーん、分かった。」


 次の瞬間、ぐしゃりと嫌な音が響いた。オンモラキの嘴がタヌキの頭を貫いていた。オンモラキはそのまま嘴を一息に引き抜く。倒れたタヌキの身体には目もくれず、オンモラキは翼で嘴の血を拭う。


「タヌキ肉って、硬くて臭えのな。」


 呆然としている俺の横で、イクサとヒサメがオンモラキに飛び掛かった。オンモラキはヒサメに翼を斬り落とされ、痛みで高い呻き声を上げている。


「あの毛玉、ヘマしてやがったな…。」

「リュウサキの居場所を教えろ。」


 ヒサメが血塗れの刀を突き付けて脅すと、オンモラキは嘴を開いた。


「わ、分かった。話す。リュウサキ様がおられるのは、北に…。」


 オンモラキが話し始めると、その嘴が白くなり始めた。凍っているのだと気付いた時には、既に首まで霜に覆われている。俺は懐に冷気を感じた。目の前の妖怪が氷の彫像と化す前に、俺は懐から手鏡のキョウを取り出した。柄の部分はひんやりとしており、白くなっている。


「村人を外に出して!今すぐ!」


 鏡面が光ったかと思うと、村人が現れた。その間にもキョウは凍り付いていき、ついに完璧に白くなった。


「キョウさん?返事をしてください。キョウさん!」


 突然山の中に移動したかと思うと、目の前に凍り付いた妖怪がいるので、村人はパニックに陥っていた。俺は彼らに事情を説明して、本物の村に戻った。半年の間、人がいなかった村は、既に荒れ始めていたが、夜も遅いので眠りにつくことにした。


 俺は日記を取り出すと、今日の出来事をまとめた。リュウサキに接触した者の存在をスメラギが知ったら、ヒサメより取り乱しそうだ。両親の仇だから。俺はなるべく客観的に書くことを心掛けた。


「後始末は頼んだぞ、スメラギ。」


 俺はそのまま眠りについた。明日の俺は、日本の高校生男子、三宮(さんのみや)(こう)として目覚めるはずだ。

【コウとスメラギの日記】

神皇国にある日記より一部抜粋

5月18日 スメラギ

そろそろ入れ替わりそうだから言っておくけど、任務中に入れ替わったら、イクサさんに言って一日休んでいいよ。神隠しは私が解決する。ヒサメと一緒に祭り見物でも行ってきたらどうかな?

5月19日 コウ

ごめん、調査を進めておこうと思ったら、巻き込まれた。スメラギだったら、陰摩羅鬼やキョウが凍る前に解呪できただろうに、余計なことしちまったな。足を引っ張って悪かった。

5月20日 スメラギ

まずはみんなが無事で良かったよ。そもそも私だったら神隠しの原因を特定することさえできなかったと思うから、気に病まないで。私の言い方が悪かったけど、調査しなくていいって書いたのは、純粋に休暇を楽しんでほしいって思ったからだよ。最近、勉強に根を詰めすぎだと思ってさ。神隠しを解決してくれてありがとうね、コウ。

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