決戦(8)
「何を…。」
「ツカサさえいなくなりゃァ、オレの役目は終わりさァ。後は地獄でアイツと続きをさせてくんなァ。」
リュウサキは治りたいと願っていない。治せない。
「カザハ…。」
リュウサキは俺の神体を掴み、首を横に振る。
「オレが死んだら、他の奴らは悪いようにしないでくれるなァ。」
「俺を殺さないのか?」
リュウサキはフッと微笑んだ。もう血は巡っていないだろうに、鬼というものは生命力が強すぎる。
「マロウド、今のテメェは生に絶望しちゃいねェだろォが。死にたくもあるめェ。」
リュウサキの身体が倒れた。
「寒ィ…。」
俺は人型で顕現することにした。顔は再現できなかった。流動的に表面が流れ続ける。背中や手足に輪が通っており、周囲にいくつかの車輪が浮いている。一つは俺の神体だ。
「何か願いはないか!傷を治せとか、人間になりたいとか、何でも!」
「…ユキ様。」
リュウサキは微かに手を動かす。俺はその手を両手で握り締めた。
「…良かった。ご無事で…。」
リュウサキは何も言わなくなった。俺をユキと勘違いしたのか。カザハナではなく、ユキと呼んだ。そうだよな。自分の主君であるユキを守ること。それだけがリュウサキの望みだった。それを俺は叶えられなかったんだ。結局、俺はリュウサキを救えなかった。
「全員、動くな!」
俺は顕現したまま神気を籠めて叫んだ。全員金縛りにあって動けなくなる。
「支配する神、ツカサは去った。二度と地上に干渉はしない。そして、リュウサキは死んだ。双方争いをやめよ!これより先、争う者は、転化させる神、マロウドが直々に裁きを下す。」
弱い妖怪が俺の神気に中てられて失神していく。俺は神気を抑えた。ぜえぜえと荒い息をする者、逃げ出す者もいる。
「吾が君が…お隠れに…?」
カザハナが呟いた。周囲が吹雪いていく。
「嘘よ!」
カザハナはリュウサキの亡骸の方によろよろと歩み、その冷たい身体に縋りついて泣き出した。
「嫌よ!もうわたくしを置いていかないでくださいな!」
涙がどんどん凍り付いてしまっている。リュウサキの身体も凍り付いていく。
「殿の弔い合戦じゃあ!」
周囲の妖怪が騒ぎ出す。イクサ、ヒサメ、カバネが身構える。死兵になったんじゃねえだろうな?やめろよ?
「カザハナ、リュウサキは最期まで君の…ユキの無事を願っていた。辛いだろうが、これ以上の争いは無意味だ。」
俺が声を掛けると、カザハナはリュウサキにキスをした。
「おやめなさい。」
カザハナの声は静かながらよく響いた。暴徒化しそうだった妖怪たちが静まり返る。
「わたくしたちは目的を達しました。ツカサが死に、皇宮の者たちが去ると言うなら、止める必要はございません。」
カザハナはリュウサキの亡骸を抱えたまま、俺に近付いてきた。俺は彼女の前に降り立った。彼女は俺に向かって跪いた。
「わたくしどもは降伏致します。」
皇宮の者はもちろん、多くの者が彼らに殺された。皆殺しが妥当な処置だが、これ以上の流血は無意味だ。リュウサキの想いも汲むと、俺にはできない。犠牲者と遺族には申し訳ねえが…。
「降伏すると言うなら、妖力剥奪で放免しよう。死にたくなければ、願え。妖力を手放して、人間になりたいと。転化させる神、マロウドが責任をもって人間にしよう。しかし、その後は責任を持たない。お前たちが妖怪として傷付けた人間が、力をなくしたお前たちをどうしたとしても、俺は干渉しない。その覚悟がある者は、願うがよい。」
俺はどこまで行ってもエゴイストだ。何百年経っても、俺の傲慢は直らないらしい。俺は全ての者が自分の自由意思に従って行動できるように願ってしまう。だから俺は力を与え、そして奪う。あくまで各人の願いに沿って。
「人間にしてください!」
「俺は命令されていただけなんです!助けてください!」
「そもそも、元は人間だったんです。妖怪にされただけなんです。戻してください!」
妖怪が口々に叫ぶ。俺は人間になりたいと願っている者を全て人間に転化させた。次々と人間になっていくのを見て、ほとんどの者が人間になりたいと願ったようだ。かなりの神力を消耗した。
「他の者は徹底抗戦を望むか?」
俺に殺意を剥き出しにしている者がまだいる。敬意を表して相手してやりたいところだが、俺は戦う力を持たない。手も足も出ないだろうな。
「殿の仇!」
「赦せない、せめて一矢報いて…。」
数名が俺に向かってきた。俺は突っ立っているしかなかった。妖怪たちの攻撃が俺に届く前に、赤い雨が俺に降り注いだ。妖怪たちはバタバタと倒れ、ヒサメが刀を鞘に納めた。




