決戦(7)
ヒサメはカザハナに刀を向けた。カザハナが息を吐くと、刃が凍り付く。ヒサメはサッと刀を振って、完全に凍るのを防ぐ。カザハナは味方を凍らせないように、的を絞っている。その結果、ヒサメの速さに追い付けないようだ。周囲の妖怪が援護するが、ヒサメの猛攻は止まらない。
「問題は、あの二人だよなあ。」
リュウサキとツカサの周囲は不自然に誰もいない。近付けないのだ。リュウサキがツカサに放つ攻撃は、掠れば即死するほどの力が籠もっている。ツカサは神力で攻撃を防ぎつつ反撃しているが、タフすぎて効いている様子がない。あれに割って入れるのは、俺くらいなものだろう。入ってもどちらの味方をすべきか分からないが。
「ここは成り行きに任せてもいい気がするなあ。」
この争いの決着は、どちらかが死ぬことでしかつくまい。和解はもちろん、降伏もしないだろうから。もう、どちらにも死んでほしくないなどと言える次元ではない。
「俺は少しでも被害を小さくしよう。」
怪我を負った人物は、少なからず痛みが止まるよう願う。俺はその声が大きい順に叶えていけばいい。…存在を歪めない程度に。かえって被害が増える可能性もあるが、ツカサかリュウサキのどちらかが死ぬまでもたせればいい。
俺はヒサメを信頼して、周囲に意識を向ける。殺意に満ちた者たちの中に、痛みに苦しむ声を探して、応急処置程度の力を与える。スメラギの癒しの力ほどではないが、多少はマシになったはずだ。
「ぐああああぁぁ!」
ヒジリの声だ。意識を向けると、リュウサキの攻撃で地面に叩きつけられていた。地面は大きく抉れている。神力で身を守っていなければ、即死だろう。リュウサキはすかさず追撃するが、ツカサは腹を押さえながらも、神力で庇っている。
『吾に、従え!』
ツカサが叫ぶとリュウサキは少し動きを止めたが、すぐに拳を振り抜いた。ツカサは紙一重で躱す。流石にツカサの分が悪い。
「マロウド!吾を助けろ!」
「すまない、ツカサ。」
聖とそっくりな見た目だから辛い。ツカサは懇願するような眼差しを向けて、俺に手を伸ばす。しかし、その手はぐしゃりと潰された。リュウサキは拳に付いた血を舐める。
「どうやら、今度のテメェは本物らしいなァ。毒もねェ。」
俺はツカサのもとに飛んで行った。リュウサキの前に立ち塞がる。
「マロウド、そこを退きなァ。」
「まあ待て。」
俺はツカサとヒジリの様子を確認する。ヒジリはまだ助かるな。
「ツカサ、もう地上の支配は諦めて、ヒジリから離れろ。もうお前が選べるのは、ヒジリごと殺されるか、自ら去るか、どちらかだ。」
ツカサは俺を睨みつける。車輪がミシミシと軋む。この状況で祟れるとは大したものだ。
「そんなことさせるかァ!今ツカサが離れても、神皇家の血が絶えない限り、またツカサが入られるかもしれねェ。」
リュウサキは今にもツカサを殺しそうだ。ツカサはグッと俺らを睨むが、もうリュウサキを相手に戦える状態ではない。
「誓え!神である俺に、自分の存在を懸けて!今後一切、地上のことには関与しないと。」
「クッ…。皇宮に…血の雨が降るで…。」
リュウサキは俺を無視してツカサを殺そうとしたが、俺はどうにか攻撃を逸らす。
「早くしろ!」
「ち、誓う!吾は、支配する神、ツカサは、地上を離れ、二度と地上に干渉しないと!」
言った。ツカサが、遂に。俺はリュウサキの反応を待たずに言った。
「転化させる神、マロウドはツカサの誓いを聞いた。今すぐに地上から去れ、ツカサ!」
「…分かった。」
ヒジリの身体からツカサが抜けた。ヒジリはがくりと気を失った。リュウサキは彼女に飛び掛かった。
「リュウサキ!」
リュウサキはヒジリに触れたが、何もしなかった。
「確かにあの神は抜けやがったなァ。余計なことをしやがって。」
「ヒジリを殺す必要はないはずだ。」
リュウサキは笑った。憑き物が落ちたかのように、晴れやかに。
「ありがとうなァ、マロウド。」
怖い。凄く怖い。もうお前は用済みだと言い出しそうだ。それは良いのだが、皇宮が火の海になると流石に心が痛む。
「これからどうするつもりだ、リュウサキ。」
「…マロウド。」
リュウサキは周囲を見渡すと、声を潜めた。
「色々とすまなかった。後始末は頼んだぜェ。」
リュウサキは自らの首に爪を突き立てて、スッと引いた。赤い飛沫が噴水のように噴き出し、リュウサキは膝をつく。




