決戦(6)
「犠牲者が出ることを覚悟で止めた方がマシだったのかもしれない。高位の神同士の争いが、地上で起きることを恐れて、ツカサの行動を見て見ぬふりするくらいなら。本当に申し訳なかった。」
「まあ、全ての元凶はツカサ様のようだが。」
ヒサメはツカサを見下ろしている。赤い目が不気味に輝いている。
「吾の支配から逃れて妙なことを吹聴するその雪女が悪いんや!」
「じゃあお前は、霊力の強い人が現れるたびに殺す気か、ツカサ。」
ツカサは黙り込んだが、間違いなく図星だ。俺はさらに言葉を継ぐ。
「ツカサは地上の支配を諦めて、天界に戻るべきだと思う。俺も含めて、神が地上に干渉しすぎるべきじゃない。」
「嫌や。吾が全てを完璧に支配したら、みーんな幸せに暮らせるのに、何で分からへんの?下等な連中が勝手な行動するからおかしくなんねん。」
リュウサキとカザハナが激しい殺気を放つ。
「そんなことを言うような人物に、統治してもらいたくありませんわ。わたくしたちを下等と断じて、自分が支配することこそ幸せにつながるなんて傲慢、赦せませんわ。」
「私も同感だ。」
ヒサメも眉を吊り上げる。
「マロウド、吾の支配を解いたのか?」
「当然だろう?そうじゃなきゃ、対等な話し合いにならない。」
「ズルいやん!それが吾の能力やのに。吾だけが無防備やんか。」
「自分が正しいと思うなら、説得して味方につけろよ。」
ツカサは俺の神体を持つ手に力を籠める。痛くはないが、不快だ。祟ってやろうか。もちろん、ヒジリではなく、ツカサを。
「何か吾が悪者になっとるけど、それで言うたらこの鬼神はどうなんや!何人殺した思てんねん。そいつを殺した方がええやろ!」
「テメェを殺したら死んでもいいぜェ。」
即答した。相当怨んでるな。空気が張り詰める。
「…陛下の言う通りです。リュウサキは野放しにしておけない。」
イクサが言った。勇敢だなあ。
「お、やるかァ?テメェに怨みはねェんだ。ま、腕の一本くらいで勘弁してやらァ。」
「本性を現したな?」
臨戦態勢になってしまった。血の気が多すぎる。ツカサが柏手を鳴らした。イクサとリュウサキはツカサを見た。神力を籠めて叩いたな。
「マロウド殿、争いが起きたらどちらに付けばよいのだ?」
「参戦する理由もないなら見守っていたらいいんじゃないかな。」
ヒサメとカバネも刀を抜いている。もう収まりが付く段階ではなさそうだ。ちなみに、俺はどちらにも味方するつもりはない。気持ちとしてはリュウサキに付きたいが、流石に皇宮の守り神として問題がある。だからと言って、ツカサの味方をする義理はない。
「ツカサ様、マロウド殿をこちらへ。」
ヒサメがツカサに手を伸ばす。ツカサはヒサメに俺の神体を放った。丁重に扱え!
カザハナは空に手を伸ばし、雪を降らせた。
「オレ一人で事足りるぜェ、カザハナ。」
リュウサキがカザハナに声を掛けた。カザハナは袖で口元を隠しながらリュウサキの後ろに控えている。不意に吹雪いたかと思うと、妖怪たちが風に乗って現れた。天狗がカザハナに向かって跪く。
「姫様、拙僧、参上しました、しました。」
「ご苦労様です。ご丁寧に陛下自ら御足労頂きましたの。歩いてお帰り頂くのも忍びないですから、帰らなくても済むようにして差し上げて。」
「御意、御意。」
コガラシはクスクス笑うと、背後の妖怪たちに向かって叫ぶ。
「血祭りだ、血祭りだ!」
妖怪たちの鬨の声が響く。リュウサキはカザハナを一瞥した。カザハナはにっこりと微笑む。有無を言わせない雰囲気だ。
「ヒジリはオレが殺る!テメェらは好きに暴れなァ!」
やはりこうなった。トップ同士の決闘で決着が付けられるはずもないか。さて、俺はどうしよう。
「大将、拙僧と一戦、一戦。」
「いや、儂はお主らと争う気は…!」
「問答無用、無用!」
「話しを聞くのじゃ、コガラシ!」
カバネはコガラシらと斬り合っている。というより、一方的に攻撃されているのを、易々と応戦している。コガラシは瞬間移動しているのに、なぜかカバネはコガラシが現れる場所が分かっているかのように刃を振るう。刀の一振りで並みの妖怪は戦闘不能になっていく。強すぎる。放っておいていいな。
「ヒサメくん、カバネくんも強化していいのかな?」
イクサが妖怪を殴り飛ばしながら声を掛ける。相手によって強化の仕方を変えているため、誰が相手でも苦戦していないように見える。ステゴロの人間が、数多の妖怪を相手に。
「頼む。」
「分かった。」
カバネの太刀筋が鋭くなったように感じた。ヒサメの刀は速すぎて、他の追随を許さない。俺はヒサメに告げた。
「ヒサメ、できるだけカザハナを止めるんだ。彼女の妖術は洒落にならない。」
「承知した。」




